[完結]仮面の令嬢は、赤い思い出を抱いて眠る

怪物の正体

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「お昼はどうしたいかね？食べたいものはあるかい？」
「いいえ。お構いなく」
「そうかね。なら、近場にいい店を予約してあるんだ」
つるつるに禿げた頭を掻きながら言った。
駐車場で塩崎が待っていた。
店は駅前とは逆の方向にある。
雑踏を掻き分けていく必要がないことが分かって、光子はほっとした。
オフィス街から離れた住宅街の一角にその店はあった。
一見すると通り過ぎてしまいそうなところだ。
2階建ての建物で壁は長いツタに覆われている。
その隙間から窓ガラスが覗いていて、玄関には小さく「SAVA」という看板があった。
洋風の店内は昔の洋館を思わせるような雰囲気があった。
中央には階段があり、手すりには細かい彫り物が施されている。
暖かい昼光色の照明が、オレンジ色に室内を照らす。
初老の男に促されて、階段を上がる。
「ここはフランス料理店なんだよ。しかも、客は一日一組しか入れない。どうだい、雰囲気がいいだろう？」
「ええ。素敵です」
２階には、木製の細長いテーブルに椅子が２つ置かれている。
男は二人を座らせると、立ち去った。
メニューはどこにもない。
「ここは、コース料理しかないものでね」
「そうですか」
「ここは姉が好きだった思い出の店なんだ。今日は君のお母さんが好きだったものを頼んでおいた」
それは、今まで光子が食べたことのない料理だった。
青菜の前菜やメインの羊料理、そしてデザート、締めのコーヒーまで。
匂いから味、そして触感。全て完璧だった。
「どうだい？満足したかな」
「もちろんです。感動しました」
「だろうと思った。羊は野生のものだから。クローンじゃないからな。最近の食物はみんなそうだから」
普通だったら、これで引っかかることはないだろう。
しかし、光子には母親とはうり二つであることを知っている。
何しろ、自分はクローン羊と同じなのだ。
だから、光子は満足そうな笑みを急にゆがめてしまった。
健二はそれを見逃さない。