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赤い記憶が戻る時

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そういうことは、昨日話したのは登ではなくて、守だったのだ。
愛し合ったのも守だった。
塩崎守だった…。
守は、登のふりをして生きている。
妹の麗子は当然それを承知していたはずだ。
ふたりは恋人同士だった。
麗子が、新宿の火災現場で花束を供えていたのも当然である。
実の兄を亡くしたのだから…。
「どうして、塩崎守は自分を死んだことにしたのかしら…?」
と光子は言った。
類子は額を指でこすった。
「おそらく、思い出さないとわからないよ」
「ダメよ…もう。これ以上やったら」
「私なら必ず思い出せるわ。死体だって甦らせることができるんだもん」
「やめて…」
「郡山みたいになると思っているのね。お姉ちゃんみたいに。そして実の母親みたいに廃人になるって」
「そうよ。もう負担はかけられないの。限界だよ」
光子は首を横に振って下を向いた。
類子はそっと手を重ねた。
「それはあたしが選んだこと。『ブランコの少女』のシュザンが選んだ運命なの」
映画で、負傷しながら宙を舞う少女が目に浮かぶ。
「類子…」
「心配しないで。あたしは絶対に転落したりしないよ。ちゃんと回転して、無事に戻ってくる。死んだりなんかしないんだから」
類子の手の甲に、光子の涙がこぼれた。
類子は、真剣な顔つきに変わった。
「さあ、覚悟なさい。ちょっと痛いけど。いいわね」
そう言うと、2人の額が触れ合った。
雷を打たれたような痛みが頭を走った。
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