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7 黒耳メイド
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魔王は、立派な襟付きのチョッキを泥だらけにしながら、
「フローラル。ずいぶん掃除もしたから、そろそろ、山の湧き水を入れるかい?」
「……え? ええ」
緊張気味に答えると、魔王は軽く指を池の底に突き立てると、たちまち水底から透き通る噴水が噴き出す。
「きゃっ」
フローラルはおもわず跳ねのく。
噴き上がった噴水のシャワーを体いっぱいに浴びて、なぜか無性に嬉しくなってくる。
眩しそうに太陽に照らされる水滴の一滴の煌めきを眺める。宝石みたいに輝いている。
なんて、綺麗なんだろう。
「君の瞳がこんなに綺麗なのは、なぜ?」
魔王は赤い目で、虹色に輝く少女を観察している。
「魔王様こそ、どうしてわたしを妻に選んだのですか? いえ、仮ですけど……」
「愛する人を見たからだよ」
魔王は小声で言い、おもむろにフローラルの手を握り、爪に入った泥を見つめる。
「ほら、手を綺麗に洗おうか。今度は主役の君を飾り立てないと」
「わたしの番? わたしなんて……どうでもいいですよ」
戸惑い気味に首をかしげるフローラルに、
「どうでもいい? まさか。わたしの花嫁にふさわしくしないと、来賓にも僕にも、なにより君自身に失礼だよ」
「わたし自身?」
「ほら、おいで」
魔王はフローラルの手を取りながら、城内へと足を踏み入れる。
城内には、十人の黒服に白エプロン姿のメイド
たちを従えたアーゴイルが、片膝をついて、一斉に頭を下げている。
メイドたちは皆、頭に猫耳と尻尾が生えている。獣族の美しい女性ばかり。
広々と開放感のあるエントランスに、赤い絨毯が、敷かれている。
壁や床の大理石が見事に飾り立てられ、二階の大広間に続く大階段が真っ直ぐに伸びている。
「フローラルさま。さあ、まずはバスルームで汚れをを落としてください。次には、式に着るドレスと、食事選びをしましょう」
さっきまでのぶっきらぼうな態度とは打って変わって、魔王の面前でのアーゴイルはずいぶんと紳士的だ。
「さあ、どうぞ、こちらへ」
メイドが歩み寄り、肉球の丸っこい手で手招きすると、連れていってくれたのは、一階の角にある広々とした部屋だった。
大きな窓からの美しい山々の連なる景色を眺めながら、三十人は入れそうな湯船に、フローラルは一人で入る。
「泳げてしまいそう!」
昔、父と川遊びをしたことを思い出す。
川の所々に源泉が湧き出しているところがあり、まだ幼いフローラルを膝にのせて、遙かな森を眺めていたものだ。
石鹸で体を洗い、すっかりと体の疲れが取れてゆったりとした部屋着に着替えると、三階のドレスアップルームへと導かれる。
そこには長い木製のワゴンに、あらゆる種類、色合いのドレスが所狭しと並べられている。
「どれにしようかしら。わたし、ドレスなんて、着たことないの」
困って頭をさするフローラルに、
「この緑色のドレスはいかが? フローラル様は美しいエメラルドグリーンの瞳ですから」
ふわふわした白毛の耳を揺らしながら、メイドがドレスを抱え持ってくる。
森に住む野鳥の刺繍が施されている。
「わあ、可愛らしい」
フローラルは肩にドレスをあてがって、目を輝かせる。
「フローラルさまの瞳は、緑色ですが、光を放ったと虹色にもなりますわ。ほら、このカラフルなドレスでをお召しになられれば、さらに魅力は増しますわ」
焦げ茶色の垂れ耳のメイドが、一際色鮮やかなドレスをフローラルの肩に掲げて、
「お顔立ちがとても清楚ですから、より華やかなものがお気に召すかと」
「いえいえ、緑色の瞳は、森ではなく、海色のドレスかと!」
「ぜんぜん、駄目ですわ。やっぱり、伝統的な、シックな生地のお召し物が!」
様々な猫耳メイドたちに取っ替え引っ返せで、二時間近くが経つ。
そして、何十枚もののドレスから選んだのは、衣装部屋の隅にいた、黒耳のメイドが手にしていた、平凡なドレスだった。
それはメイドたちがだれも見向きもしなかったもので、フローラルがふと、目にとめたものだった。
「これを試着したいんだけど、いいかしら」
猫耳メイドたちは顔を見合わせていたが、黒耳のメイドが歩み寄り、
「本当にこれで、よろしいのですか。何も特徴もない、シンプルな純白のドレスですけど」
「ええ。それでわたしには十分。さあ、手伝ってはくださる?」
黒耳メイドは笑顔になって、
「もちろんですとも」
と、試着室でフローラルの着替えを手伝ってくれる。
「さあ、魔王様にお見せいたしましょうよ」
フローラルは恥じらいで顔を逸らしたが、黒猫が熱心に勧めるので、
「はい、分かったわ」
と、部屋を飛び出した。
「フローラル。ずいぶん掃除もしたから、そろそろ、山の湧き水を入れるかい?」
「……え? ええ」
緊張気味に答えると、魔王は軽く指を池の底に突き立てると、たちまち水底から透き通る噴水が噴き出す。
「きゃっ」
フローラルはおもわず跳ねのく。
噴き上がった噴水のシャワーを体いっぱいに浴びて、なぜか無性に嬉しくなってくる。
眩しそうに太陽に照らされる水滴の一滴の煌めきを眺める。宝石みたいに輝いている。
なんて、綺麗なんだろう。
「君の瞳がこんなに綺麗なのは、なぜ?」
魔王は赤い目で、虹色に輝く少女を観察している。
「魔王様こそ、どうしてわたしを妻に選んだのですか? いえ、仮ですけど……」
「愛する人を見たからだよ」
魔王は小声で言い、おもむろにフローラルの手を握り、爪に入った泥を見つめる。
「ほら、手を綺麗に洗おうか。今度は主役の君を飾り立てないと」
「わたしの番? わたしなんて……どうでもいいですよ」
戸惑い気味に首をかしげるフローラルに、
「どうでもいい? まさか。わたしの花嫁にふさわしくしないと、来賓にも僕にも、なにより君自身に失礼だよ」
「わたし自身?」
「ほら、おいで」
魔王はフローラルの手を取りながら、城内へと足を踏み入れる。
城内には、十人の黒服に白エプロン姿のメイド
たちを従えたアーゴイルが、片膝をついて、一斉に頭を下げている。
メイドたちは皆、頭に猫耳と尻尾が生えている。獣族の美しい女性ばかり。
広々と開放感のあるエントランスに、赤い絨毯が、敷かれている。
壁や床の大理石が見事に飾り立てられ、二階の大広間に続く大階段が真っ直ぐに伸びている。
「フローラルさま。さあ、まずはバスルームで汚れをを落としてください。次には、式に着るドレスと、食事選びをしましょう」
さっきまでのぶっきらぼうな態度とは打って変わって、魔王の面前でのアーゴイルはずいぶんと紳士的だ。
「さあ、どうぞ、こちらへ」
メイドが歩み寄り、肉球の丸っこい手で手招きすると、連れていってくれたのは、一階の角にある広々とした部屋だった。
大きな窓からの美しい山々の連なる景色を眺めながら、三十人は入れそうな湯船に、フローラルは一人で入る。
「泳げてしまいそう!」
昔、父と川遊びをしたことを思い出す。
川の所々に源泉が湧き出しているところがあり、まだ幼いフローラルを膝にのせて、遙かな森を眺めていたものだ。
石鹸で体を洗い、すっかりと体の疲れが取れてゆったりとした部屋着に着替えると、三階のドレスアップルームへと導かれる。
そこには長い木製のワゴンに、あらゆる種類、色合いのドレスが所狭しと並べられている。
「どれにしようかしら。わたし、ドレスなんて、着たことないの」
困って頭をさするフローラルに、
「この緑色のドレスはいかが? フローラル様は美しいエメラルドグリーンの瞳ですから」
ふわふわした白毛の耳を揺らしながら、メイドがドレスを抱え持ってくる。
森に住む野鳥の刺繍が施されている。
「わあ、可愛らしい」
フローラルは肩にドレスをあてがって、目を輝かせる。
「フローラルさまの瞳は、緑色ですが、光を放ったと虹色にもなりますわ。ほら、このカラフルなドレスでをお召しになられれば、さらに魅力は増しますわ」
焦げ茶色の垂れ耳のメイドが、一際色鮮やかなドレスをフローラルの肩に掲げて、
「お顔立ちがとても清楚ですから、より華やかなものがお気に召すかと」
「いえいえ、緑色の瞳は、森ではなく、海色のドレスかと!」
「ぜんぜん、駄目ですわ。やっぱり、伝統的な、シックな生地のお召し物が!」
様々な猫耳メイドたちに取っ替え引っ返せで、二時間近くが経つ。
そして、何十枚もののドレスから選んだのは、衣装部屋の隅にいた、黒耳のメイドが手にしていた、平凡なドレスだった。
それはメイドたちがだれも見向きもしなかったもので、フローラルがふと、目にとめたものだった。
「これを試着したいんだけど、いいかしら」
猫耳メイドたちは顔を見合わせていたが、黒耳のメイドが歩み寄り、
「本当にこれで、よろしいのですか。何も特徴もない、シンプルな純白のドレスですけど」
「ええ。それでわたしには十分。さあ、手伝ってはくださる?」
黒耳メイドは笑顔になって、
「もちろんですとも」
と、試着室でフローラルの着替えを手伝ってくれる。
「さあ、魔王様にお見せいたしましょうよ」
フローラルは恥じらいで顔を逸らしたが、黒猫が熱心に勧めるので、
「はい、分かったわ」
と、部屋を飛び出した。
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