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第2章:義父と娘の十年
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ゼグレイドさまに拾われて、はや十年が経ちました。
あの夜、薄く積もった雪の上で差し伸べられた大きな手のことを、私は今でもよく覚えています。
温かくて、震えるほど嬉しかったんです。
――ああ、この人の隣にいられるなら、どこへでも行けるって、あの時、本気で思いました。
あれから私は、星読みの才を見出され、礼儀作法を叩き込まれ、お茶の淹れ方から舞踏会の作法まで、数え切れないほどのことを学びました。
でも、どれほど学んでも、どれほど背を伸ばしても。
「おまえはまだ子どもだな」と、ゼグレイドさまは言うのです。
言われるたびに胸がちくりと痛みます。
そんな顔を見せると、「風邪でもひいたのか」とおでこに手を当てられるのが、また余計に苦しいのです。
……そうじゃないんです。そういう意味じゃなくて。
それでも私は笑って、「いえ、大丈夫です」と言うしかありませんでした。
だって、娘のふりをしてでも、そばにいたかったから。
ゼグレイドさまは国の北方を治める領主でありながら、王宮の政にも携わる辺境伯様です。
とても多忙で、滅多に屋敷にいることはありません。
それでも、年に数度帰ってくるたびに、必ず一緒に食卓を囲みます。
小さなことでも私の話をじっくり聞いてくださるし、些細なことで笑ってくれます。
……けれど。
最近、その笑みの奥に、ふと遠いものを見るのです。
お忙しいだけ……そう思いたいのに、どうしても胸がざわついてしまいます。
私のこと、いつか――「娘」として、手放すつもりなのではないかと。
そんな不安を打ち消すために、私は勉学に打ち込みました。
星の動きを読み、未来を占い、時には近隣の領主たちにも助言を求められるようになりました。
「君の星読みは、もう宮廷の星官にも劣らないな」
ゼグレイドさまがそう言ってくださったときは、飛び上がりたいくらい嬉しかったです。けれど次の瞬間、
「……もうそろそろ、嫁入りを考える時期かもしれないな」
と、つぶやくようにおっしゃったその一言で、私は息を詰めてしまいました。
――そんな、まるで、私を“手放す”前提で話しているみたいじゃないですか。
言葉にできなくて、喉の奥が熱くなりました。
あの夜、薄く積もった雪の上で差し伸べられた大きな手のことを、私は今でもよく覚えています。
温かくて、震えるほど嬉しかったんです。
――ああ、この人の隣にいられるなら、どこへでも行けるって、あの時、本気で思いました。
あれから私は、星読みの才を見出され、礼儀作法を叩き込まれ、お茶の淹れ方から舞踏会の作法まで、数え切れないほどのことを学びました。
でも、どれほど学んでも、どれほど背を伸ばしても。
「おまえはまだ子どもだな」と、ゼグレイドさまは言うのです。
言われるたびに胸がちくりと痛みます。
そんな顔を見せると、「風邪でもひいたのか」とおでこに手を当てられるのが、また余計に苦しいのです。
……そうじゃないんです。そういう意味じゃなくて。
それでも私は笑って、「いえ、大丈夫です」と言うしかありませんでした。
だって、娘のふりをしてでも、そばにいたかったから。
ゼグレイドさまは国の北方を治める領主でありながら、王宮の政にも携わる辺境伯様です。
とても多忙で、滅多に屋敷にいることはありません。
それでも、年に数度帰ってくるたびに、必ず一緒に食卓を囲みます。
小さなことでも私の話をじっくり聞いてくださるし、些細なことで笑ってくれます。
……けれど。
最近、その笑みの奥に、ふと遠いものを見るのです。
お忙しいだけ……そう思いたいのに、どうしても胸がざわついてしまいます。
私のこと、いつか――「娘」として、手放すつもりなのではないかと。
そんな不安を打ち消すために、私は勉学に打ち込みました。
星の動きを読み、未来を占い、時には近隣の領主たちにも助言を求められるようになりました。
「君の星読みは、もう宮廷の星官にも劣らないな」
ゼグレイドさまがそう言ってくださったときは、飛び上がりたいくらい嬉しかったです。けれど次の瞬間、
「……もうそろそろ、嫁入りを考える時期かもしれないな」
と、つぶやくようにおっしゃったその一言で、私は息を詰めてしまいました。
――そんな、まるで、私を“手放す”前提で話しているみたいじゃないですか。
言葉にできなくて、喉の奥が熱くなりました。
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