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第10章 心の決断
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王宮の晩餐会が終わって、人々が三々五々、帰路につく頃でした。
わたしは、華やかな喧騒から逃れるように、静かな庭園へと足を向けました。
ドレスの裾が、夜露に濡れた芝生を、そっと撫でていきます。
振り返ると、煌々と輝く王宮の明かりが、宝石のように瞬いていました。
その光は、まるで遠い世界のことのよう。
昼間は、あんなにも明るく華やかに見えた場所が、今はどこか寂しい景色に見えました。
デリック様とカリナが断罪され、わたしの無実が証明されたことは本当に良かったと思います。
ですが、それと同時に、わたしの中にぽっかりと穴が空いたような、不思議な虚しさも残っていました。
この数ヶ月、ただ運命に翻弄されるだけでした。
デリック様の甘い言葉に惑わされ、彼とカリナの企みで傷を負い、そして彼の冷たい言葉に絶望する。
わたしは、一度たりとも自分の意思で何かを成し遂げたことはありませんでした。
「……もう、嫌だわ」
わたしは誰に聞かせるでもなく、そう呟きました。
もう、誰かに決められた未来を歩くのは嫌。
デリック様の妻になる未来も、彼に捨てられた「傷物」として世間から同情される未来も、もう必要ありません。
わたしは、ただ静かに星空を仰ぎました。
空には満天の星が、まるで宝石を散りばめたように輝いていました。
その光は、かつて、デリック様との結婚を夢見ていた頃に見た星空よりもずっと美しく見えました。
その時、背後から優しい声が聞こえてきました。
「一人で何をしている」
わたしが振り返ると、そこに立っていたのはセオドール様でした。
彼は夜の闇に溶け込むような黒いローブを纏い、月明かりを浴びて静かにたたずんでいました。
その無愛想な顔は、いつもと変わらない。
ですが、彼の瞳はわたしを心配そうに見つめているように感じました。
「……セオドール様」
わたしは、少しだけ、驚きました。
「夜会は、もう終わったはずですが……」
わたしがそう言うと、彼は少しだけ視線を逸らし、こう言いました。
「……君が、一人でいるのを見かけたから」
彼の言葉に、わたしの心は温かい光に包まれていくようでした。
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です」
そう言って微笑むと、彼は何も言わず、ただ、わたしの隣に静かに立ちました。
二人の間に、沈黙が流れます。
ですが、その沈黙は決して気まずいものではありませんでした。
ただ、心地よい時間が流れていく。
セオドール様のそばにいると、不思議と心が落ち着きました。
彼が何も言わなくても、そこにいてくれるだけで、わたしは強くなれるような気がしました。
「……セオドール様、あの」
わたしは意を決して、彼に話しかけました。
「初めて、わたしの腕の傷を見て恥ずかしいと思いませんでしたか?」
そう尋ねると、彼は少しだけ首を傾げました。
「……なぜ、今さらそんなことを聞く?」
「だって、わたしの腕には、醜い傷痕が残っています。デリック様は、あの傷を見て、わたしを『傷物』と罵り婚約を破棄しました」
わたしがそう言うと、彼は静かに、わたしの左腕をそっと撫でました。
彼の指先が、わたしの傷痕に触れる。
わたしは、一瞬、身を硬くしましたが、彼の指先から伝わる温かさに心が解けていくのを感じました。
「……俺は、あの傷を醜いとは思わなかった」
彼は静かに、そして、はっきりと、そう言いました。
「むしろ、美しいとさえ思った」
彼の言葉に、わたしの心は震えました。
「美しい……?」
「ああ。あの傷は、君がデリックたちの企みから、生き延びた強さの証なんだからな」
わたしは彼の言葉に、涙が溢れそうになりました。
わたしは、今まで、この傷を、醜いものだと、忌まわしいものだと、ずっと思っていました。
ですが、セオドール様の言葉は、わたしの心を根底から揺さぶりました。
この傷は、弱々しい侯爵令嬢から、強くなっていくための第一歩だったのかもしれない。
わたしは、彼の手を強く握り締めました。
「……セオドール様、わたし、決めたことがあります」
そう言うと、彼は何も言わず、ただ、わたしをじっと見つめました。
「もう、誰かに決められた未来を歩くのはもうたくさんです」
わたしは、まっすぐに彼の瞳を見つめ、そう言いました。
「この傷を、恥ずかしいと思わない。この傷を、わたしの人生の誇りとして生きていきたい。笑顔で生きていたい」
わたしの言葉に、彼の瞳が少しだけ大きく見開かれました。
そして、彼は静かに、そして真剣に、こう言いました。
「……ならば俺は、その笑顔を守ろう」
「セオドール様……!」
彼の言葉に、わたしの胸は溢れるほど満たされました。
わたしは、華やかな喧騒から逃れるように、静かな庭園へと足を向けました。
ドレスの裾が、夜露に濡れた芝生を、そっと撫でていきます。
振り返ると、煌々と輝く王宮の明かりが、宝石のように瞬いていました。
その光は、まるで遠い世界のことのよう。
昼間は、あんなにも明るく華やかに見えた場所が、今はどこか寂しい景色に見えました。
デリック様とカリナが断罪され、わたしの無実が証明されたことは本当に良かったと思います。
ですが、それと同時に、わたしの中にぽっかりと穴が空いたような、不思議な虚しさも残っていました。
この数ヶ月、ただ運命に翻弄されるだけでした。
デリック様の甘い言葉に惑わされ、彼とカリナの企みで傷を負い、そして彼の冷たい言葉に絶望する。
わたしは、一度たりとも自分の意思で何かを成し遂げたことはありませんでした。
「……もう、嫌だわ」
わたしは誰に聞かせるでもなく、そう呟きました。
もう、誰かに決められた未来を歩くのは嫌。
デリック様の妻になる未来も、彼に捨てられた「傷物」として世間から同情される未来も、もう必要ありません。
わたしは、ただ静かに星空を仰ぎました。
空には満天の星が、まるで宝石を散りばめたように輝いていました。
その光は、かつて、デリック様との結婚を夢見ていた頃に見た星空よりもずっと美しく見えました。
その時、背後から優しい声が聞こえてきました。
「一人で何をしている」
わたしが振り返ると、そこに立っていたのはセオドール様でした。
彼は夜の闇に溶け込むような黒いローブを纏い、月明かりを浴びて静かにたたずんでいました。
その無愛想な顔は、いつもと変わらない。
ですが、彼の瞳はわたしを心配そうに見つめているように感じました。
「……セオドール様」
わたしは、少しだけ、驚きました。
「夜会は、もう終わったはずですが……」
わたしがそう言うと、彼は少しだけ視線を逸らし、こう言いました。
「……君が、一人でいるのを見かけたから」
彼の言葉に、わたしの心は温かい光に包まれていくようでした。
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です」
そう言って微笑むと、彼は何も言わず、ただ、わたしの隣に静かに立ちました。
二人の間に、沈黙が流れます。
ですが、その沈黙は決して気まずいものではありませんでした。
ただ、心地よい時間が流れていく。
セオドール様のそばにいると、不思議と心が落ち着きました。
彼が何も言わなくても、そこにいてくれるだけで、わたしは強くなれるような気がしました。
「……セオドール様、あの」
わたしは意を決して、彼に話しかけました。
「初めて、わたしの腕の傷を見て恥ずかしいと思いませんでしたか?」
そう尋ねると、彼は少しだけ首を傾げました。
「……なぜ、今さらそんなことを聞く?」
「だって、わたしの腕には、醜い傷痕が残っています。デリック様は、あの傷を見て、わたしを『傷物』と罵り婚約を破棄しました」
わたしがそう言うと、彼は静かに、わたしの左腕をそっと撫でました。
彼の指先が、わたしの傷痕に触れる。
わたしは、一瞬、身を硬くしましたが、彼の指先から伝わる温かさに心が解けていくのを感じました。
「……俺は、あの傷を醜いとは思わなかった」
彼は静かに、そして、はっきりと、そう言いました。
「むしろ、美しいとさえ思った」
彼の言葉に、わたしの心は震えました。
「美しい……?」
「ああ。あの傷は、君がデリックたちの企みから、生き延びた強さの証なんだからな」
わたしは彼の言葉に、涙が溢れそうになりました。
わたしは、今まで、この傷を、醜いものだと、忌まわしいものだと、ずっと思っていました。
ですが、セオドール様の言葉は、わたしの心を根底から揺さぶりました。
この傷は、弱々しい侯爵令嬢から、強くなっていくための第一歩だったのかもしれない。
わたしは、彼の手を強く握り締めました。
「……セオドール様、わたし、決めたことがあります」
そう言うと、彼は何も言わず、ただ、わたしをじっと見つめました。
「もう、誰かに決められた未来を歩くのはもうたくさんです」
わたしは、まっすぐに彼の瞳を見つめ、そう言いました。
「この傷を、恥ずかしいと思わない。この傷を、わたしの人生の誇りとして生きていきたい。笑顔で生きていたい」
わたしの言葉に、彼の瞳が少しだけ大きく見開かれました。
そして、彼は静かに、そして真剣に、こう言いました。
「……ならば俺は、その笑顔を守ろう」
「セオドール様……!」
彼の言葉に、わたしの胸は溢れるほど満たされました。
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