【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第6章 雪の果て、辺境への旅

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コトン、コトン……。

馬車が雪の積もる山道をきしませながら進んでいた。

白銀の世界は静まり返り、車輪が軋む音と、馬の吐く白い息だけが時折、凍りついた空気を震わせた。

「はあ……」

ルアナ――かつて咲だった女は、分厚い毛布にくるまりながら、馬車の隅で小さくため息をついた。

窓の外では雪が舞っている。

まるで、この世界さえも彼女を拒んでいるようだった。

なぜか、元婚約者・セドリック殿との間で交わされたとされる婚約破棄の契約書を公証人に突きつけられた。

署名もしていないのに! ルアナ・メイフィールドは「毒薬を密造した罪」により爵位を剥奪され、追放処分となった。


「どうして、またこうなっちゃったのかなあ……私の人生って」

ぼそりとつぶやく言葉は、前世の咲の記憶と、今のルアナの痛みが交差する。

思えば、咲としての人生も“主役”になったことなどなかった。

他人に合わせて、仕事に追われて、週末はスマホと惣菜パン。お洒落も恋愛も、どこか他人事だった。

「転生したら、人生変わると思ったのになあ……って、これもまた追放って」

雪のせいで鼻が赤くなったのか、それとも泣きすぎてか、もう自分でもよくわからなかった。

「でもさ、咲。――ルアナ。あなた、ほんとに誰にも必要とされなかったのかな?」

自問して、思わず吹き出す。

「……わかってるよ。そんなの、自分で決めちゃだめだって。前世でさんざん学んだくせに」

誰にも届かない独り言。けれど、それでも言わずにはいられなかった。

外の雪が、ますます激しくなっていく。

突然、馬車がガタン!と大きく揺れた。

「きゃっ……な、なに!?」

御者の怒鳴り声が、前から聞こえた。

「馬が滑った! 峠の手前だ、少し様子を見る!」

馬車は止まり、ルアナはそっと扉を開けた。凍える空気が容赦なく入り込む。

彼女が足元に注意しながら外に出ると、目の前には、まるで絵画のような雪原が広がっていた。

(……こんな場所に、私、一人で?)

寒さが、孤独を鋭く突き刺してくる。

そのとき――

カラン、と馬の蹄の音が背後から聞こえた。

振り返ると、黒い馬に乗った騎士が雪の中から現れた。

「……何をしている。こんな場所で、凍死したいのか?」

低く、凍てつくような声。

フードの奥、鋭い氷のような男の瞳がルアナを射抜いた。

「え……えっ?」

「この峠は、フィリオノア領内だ。勝手に入る者には罰を与える決まりだが――追放者か?」

その言葉に、ルアナは肩を落とした。

「はい……。まさにその、“勝手に追い出された者”ですわ」

ふと、男の唇がわずかにゆがむ。

「“勝手に追い出された者”……面白い。凍死より、多少は根性がありそうだな。俺についてこい」

(なんなのこの人……? 見た目こわい。けど、頼るより仕方ないわね)

「……あなたはどちら様?」

「ディラン・ヴァルト、辺境伯に仕える騎士だ」

初めて見るこの黒髪の男は、冷たく、厳しく、けれどどこか――孤独を背負っているような気がした。
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