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第9章 命令と同居の始まり
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こうして、ディランの領地からルアナの伯爵邸で連れられ、この屋敷での生活が始まった。
案内された部屋は、城の南塔の一室。日の光がたっぷり差し込み、窓からは雪に覆われた森が見える。
「わ、わあ……えっ、ベッド、ふっかふか……! ふつう薬草臭で追い出されそうな身分なのに……」
「その代わり、薬草保管室は塔の一階だ。薬はその場で調合しろ。臭いが屋敷中に充満するのは困る」
「うわああやっぱり気にしてるーーー!!」
グレイシアが突き刺さるような冷静さで釘を刺し、ルアナはぺたんとベッドに座り込んだ。
***
最初の夜。
ルアナは執務室に薬の報告をしに行った。
「これが、兵士の咳止めと、傷の回復促進薬です」
「……よくやった。腕だけは確かだ」
「……へ?」
グレイシアは書類から顔を上げ、真っ直ぐにルアナを見た。
「この地では、信頼を得るのは命より重い。お前のように命を顧みず人を救う者は、滅多にいない」
「そ、そんな……。私、ただ、誰かに必要とされたいだけなんです。昔から、そういう社畜癖で……」
言ってから、ルアナはハッと口を押えた。
(あっ、またポロっと言っちゃった! 私の前世からの欠乏感、出ちゃった……!)
だがグレイシアは、何も言わずに立ち上がると、机の引き出しから何かを取り出した。
それは、小さな木製の箱だった。
「これは?」
「……村の子どもが作った、御守りらしい。先日の薬のおかげで、妹の熱が下がったと感謝していた」
ルアナは、思わず両手でそれを受け取った。
素朴な木彫りの中に、小さな乾燥ハーブが詰められている。
「……わあ……私、こんなの、初めてです……」
「必要とされるというのは、そういうことだ。……忘れるな」
その声は相変わらず低く、無愛想で。
でも――
(……やさしい)
(この人、ほんとうに“氷の獣”?)
ルアナはそっと箱を胸に抱きしめた。
そしてその夜、毛布にくるまりながら、ひとりごとを漏らす。
「こんなとこに来るなんて、思ってなかったけど……でも今、ちょっとだけ……幸せかも」
吹雪の夜、冷たい風の中で、温かな何かが芽生えはじめていた。
案内された部屋は、城の南塔の一室。日の光がたっぷり差し込み、窓からは雪に覆われた森が見える。
「わ、わあ……えっ、ベッド、ふっかふか……! ふつう薬草臭で追い出されそうな身分なのに……」
「その代わり、薬草保管室は塔の一階だ。薬はその場で調合しろ。臭いが屋敷中に充満するのは困る」
「うわああやっぱり気にしてるーーー!!」
グレイシアが突き刺さるような冷静さで釘を刺し、ルアナはぺたんとベッドに座り込んだ。
***
最初の夜。
ルアナは執務室に薬の報告をしに行った。
「これが、兵士の咳止めと、傷の回復促進薬です」
「……よくやった。腕だけは確かだ」
「……へ?」
グレイシアは書類から顔を上げ、真っ直ぐにルアナを見た。
「この地では、信頼を得るのは命より重い。お前のように命を顧みず人を救う者は、滅多にいない」
「そ、そんな……。私、ただ、誰かに必要とされたいだけなんです。昔から、そういう社畜癖で……」
言ってから、ルアナはハッと口を押えた。
(あっ、またポロっと言っちゃった! 私の前世からの欠乏感、出ちゃった……!)
だがグレイシアは、何も言わずに立ち上がると、机の引き出しから何かを取り出した。
それは、小さな木製の箱だった。
「これは?」
「……村の子どもが作った、御守りらしい。先日の薬のおかげで、妹の熱が下がったと感謝していた」
ルアナは、思わず両手でそれを受け取った。
素朴な木彫りの中に、小さな乾燥ハーブが詰められている。
「……わあ……私、こんなの、初めてです……」
「必要とされるというのは、そういうことだ。……忘れるな」
その声は相変わらず低く、無愛想で。
でも――
(……やさしい)
(この人、ほんとうに“氷の獣”?)
ルアナはそっと箱を胸に抱きしめた。
そしてその夜、毛布にくるまりながら、ひとりごとを漏らす。
「こんなとこに来るなんて、思ってなかったけど……でも今、ちょっとだけ……幸せかも」
吹雪の夜、冷たい風の中で、温かな何かが芽生えはじめていた。
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