【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第10章 初めての笑顔

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「これ、全部……毒草です」

ルアナは、屋敷から少し離れた丘に広がる一面の花畑の中心に立っていた。

まだ残雪は残っているが、逞しく色とりどりの花々が顔を出している。

そこは、風が優しく早咲きの花を揺らし、虫の羽音すら愛おしいような、まるで物語の中の風景のような場所だった。

ルアナはしゃがみ込んで、一本一本、草を抜きながら呟いた。

「シルフェリア草、見た目は可愛いけど、嘔吐を引き起こす。こっちはユメクサ。幻覚作用あり。で、これが――」

「そこまで一気に言われても分からん」

背後からぼそりと聞こえた低い声に、ルアナは振り向いた。

「……あ、グレイシアさま」

「何をしているのかと思えば、草むしりか?」

「草むしりじゃありません。命を守る草選別ですよ」

「……それはもう、無駄にすごいな」

グレイシアは肩をすくめると、珍しく口元を――ほんの少しだけ――緩めた。

ルアナは思わず、抜いた草を取り落とした。

(え? 今、笑った……? この氷の獣とまで呼ばれる男が? え? 見間違い?)

「……なにをポカンとしている」

「い、いえっ! その、あの、まさか、あの冷凍庫のような伯爵様が、笑った気がして!」

「……冷凍庫?」

「いえ、なんでもありませんっ!」

ルアナは慌てて毒草を籠に詰めながら、耳まで真っ赤になった。

***

その日から、グレイシアの態度が少しだけ、変わった。

「なにか薬草が欲しいのなら、直接言えばいいのに……こっそり裏庭で採ってるし……」

「お前の目を盗むのが楽しいんだ」

「子どもですかっ!」

「……お前に“無駄にすごい”と褒めたのは、訂正する。“普通にすごい”」

「訂正しても、褒めてるのか微妙じゃないですか!?」

ときには彼にからかわれ、ときには真面目に薬草を相談され、ときには何でもない言葉にどぎまぎして――

ルアナの心は、少しずつ、知らぬ間に柔らかく解けていった。

「……お前のように、笑って話せる相手は久しぶりだ」

そんなふうに言われると、もう、ずるい。

「……それ、困りますわ」

「なにが」

「……そっちが不意打ちするから、私、また変な顔してたらどうするんですか」

「それはそれで面白い」

「やっぱり氷じゃなくて、イジワル獣です! 名前変えましょう、イジ獣です!」

グレイシアは吹き出しそうになるのを、咳払いでごまかした。

ルアナは、彼の顔が紅潮したのを見逃さなかった。

(……あ。かわいい)

そう思った自分にも驚いて、ルアナは今度こそ本気で顔を真っ赤にした。

雪国の空気はまだ冷たく、庭の草花は芽吹いたばかり。

けれど、ふたりの間には、確かにあたたかな春が訪れようとしていた。
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