【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第11章 優しい夜の紅茶

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ルアナは寝台の中で、ごろりと何度目かの寝返りを打った。

(……眠れない)

屋敷の夜は静かすぎて、時折きしむ柱の音が妙に耳に残る。

雪の音さえ吸い込んでしまうようなこの静寂のなかで、心だけがざわざわと浮ついていた。

ふいに扉がノックされた。

「……ルアナ。起きているか?」

「……グレイシアさま?」

(こんな時間に……?)

急いで羽織を引っかけて扉を開けると、グレイシアが銀のトレイを持って立っていた。

ほんの少し、視線を逸らしている。

「……眠れないと聞いた」

「誰からです!? っていうか、どうしてわざわざ……」

「……使用人に紅茶を頼んだら、“ルアナ様が眠れずにおられるようです”と、ついでのように報告された」

「おしゃべりね……!」

「で、これを」

彼はトレイの上のカップに目をやった。

湯気が、ほのかに青く香っている。

「カモミール、レモンバーム、ミント少々。胃に優しく、体を温め、眠りを誘う調合だ」

「……伯爵様がご自分で?」

「ああ。まあ……昔、母がよく眠れない夜に、こうしてくれていたからな」

その一言で、ルアナの心の奥が、ほわりと温まった。

彼が椅子に腰かけ、無言のままトレイを渡してくれる。

そのぎこちなさに、ルアナはくすりと笑った。

「……どうした?」

「いいえ。なんだか、可愛いなって思いました」

「……俺が?」

「ええ。伯爵なのに、お母さまの真似して紅茶を淹れてくれるなんて。すごく……優しいです」

グレイシアは黙りこくってしまった。

耳が、ほんのり赤い。

ルアナは紅茶を口に含み、目を細める。

「……あ。ほんとに、落ち着く……。やさしい味……。こんなに優しくされたの、初めてかもしれません」

「……それは、困ったな」

「どうして?」

「これが“初めて”だと言われるのは……他の誰かに先を越されていたら、面白くなかったかもしれん」

「――えっ」

不意打ちだった。

ルアナはごくんとお茶を飲み干して、むせた。

「こ、こほんっ! な、なんですかそれ……!」

「事実だ。今さら誤魔化しても無駄だろう」

「困ります、そんなの……!」

「では、次からは正面から言おう。“お前を、大切にしたい”」

「まってください、心の準備が――!」

ルアナは顔を真っ赤にして、カップで顔を隠した。

カップの向こうで、グレイシアがまた、ほんの少しだけ笑ったのが見えた。

静かな夜のなか、紅茶の香りと共に――ふたりの距離が、またひとつ縮まっていった。
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