【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

文字の大きさ
12 / 30

第12章 秘密の書庫

しおりを挟む
「地下室の整理なんて、本当にわたしでいいんですか?」

「いい。使用人は“あそこは幽霊が出る”と言って近寄らん」

「わ、笑えない冗談ですね……」

ルアナは蝋燭を掲げながら、グレイシアの後ろにぴったりとくっついて歩いた。

フィリオノアの伯爵邸、その石造りの地下はひんやりと冷たい空気に包まれ、どこか秘密めいた雰囲気があった。

(幽霊より、この人の背中の方がよっぽど怖い気もするけれど……)

そんな内心を抱えながら、ルアナはひときわ大きな鉄扉の前で立ち止まる。

「ここだ」

「鍵は……?」

グレイシアが懐から古びた鍵を取り出し、ゆっくりと錠前を開けた。

――ギィィ……

重々しい音を立てて開かれたその扉の奥には、古びた本がずらりと並ぶ小さな書庫が現れた。

「……すごい。こんなところがあったなんて」

「母が、生前使っていた場所だ。私も……まともに入るのは、初めてだ」

書架には埃をかぶった瓶や道具が並び、壁には手描きの図表が貼られていた。

ルアナはひときわ分厚い革表紙の書物を見つけて、そっと手に取った。

「これは……薬草の図鑑? いえ、違う……応用薬学の論文……いくつも……!」

ページには、緻密な文字と図解。

薬草と魔力の融合、希少な鉱石を使った治療薬の研究、そして、【フィリオノアで流行る凍瘡病への対処法】という見出しまで。

「これ……お母さまが?」

「そうらしいな。民を救う薬を作ろうとしていたと、少しだけ聞いたことがある」

ルアナは思わずページを抱きしめた。

「すごいです……本当にすごい……。私、これをちゃんと読み解いて、続きを研究したい。伯爵様、もし許していただけるなら――」

「……俺にも、手伝わせろ」

「えっ?」

「……母の夢だった。だが、俺にはそれを受け継ぐ術がなかった。けど今は、お前がいる。薬を作る力も、民を癒す心も……お前が持ってる」

グレイシアの手が、ルアナの肩にそっと触れた。

「一緒にやろう、ルアナ。母の残したものを、完成させるために」

「……はいっ!」

にっこりと微笑んだルアナの頬に、グレイシアの手がふと触れた。

熱い指先に驚いて見上げると、彼はほんの少し困ったような顔をしていた。

「……その笑顔、反則だ」

「えっ?」

「無性に……薬学じゃなくて、お前に夢中になりそうになるだろ」

「そ、それは……研究に集中してください!」

ルアナが顔を真っ赤にして本で顔を隠すと、グレイシアはくすっと喉の奥で笑った。

書庫に積もった埃の向こうで、静かに、新しい夢が動き出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

婚約破棄!?なんですって??その後ろでほくそ笑む女をナデてやりたい位には感謝してる!

まと
恋愛
私、イヴリンは第一王子に婚約破棄された。 笑ってはダメ、喜んでは駄目なのよイヴリン! でも後ろでほくそ笑むあなたは私の救世主!

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!舞踏会で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
デビュタント以来久しぶりに舞踏会に参加しています。久しぶりだからか私の顔を知っている方は少ないようです。何故なら、今から私が婚約破棄されるとの噂で持ちきりなんです。 私は婚約破棄大歓迎です、でも不利になるのはいただけませんわ。婚約破棄の流れは皆様が教えてくれたし、さて、どうしましょうね?

呪いのせいで太ったら離婚宣告されました!どうしましょう!

ルーシャオ
恋愛
若きグレーゼ侯爵ベレンガリオが半年間の遠征から帰ると、愛するグレーゼ侯爵夫人ジョヴァンナがまるまると太って出迎え、あまりの出来事にベレンガリオは「お前とは離婚する」と言い放ちました。 しかし、ジョヴァンナが太ったのはあくまでベレンガリオへ向けられた『呪い』を代わりに受けた影響であり、決して不摂生ではない……と弁解しようとしますが、ベレンガリオは呪いを信じていません。それもそのはず、おとぎ話に出てくるような魔法や呪いは、とっくの昔に失われてしまっているからです。 仕方なく、ジョヴァンナは痩せようとしますが——。 愛している妻がいつの間にか二倍の体重になる程太ったための離婚の危機、グレーゼ侯爵家はどうなってしまうのか。

【完結済】獅子姫と七人の騎士〜婚約破棄のうえ追放された公爵令嬢は戦場でも社交界でも無双するが恋愛には鈍感な件〜

鈴木 桜
恋愛
強く賢く、美しい。絵に描いたように完璧な公爵令嬢は、婚約者の王太子によって追放されてしまいます。 しかし…… 「誰にも踏み躙られない。誰にも蔑ろにされない。私は、私として尊重されて生きたい」 追放されたが故に、彼女は最強の令嬢に成長していくのです。 さて。この最強の公爵令嬢には一つだけ欠点がありました。 それが『恋愛には鈍感である』ということ。 彼女に思いを寄せる男たちのアプローチを、ことごとくスルーして……。 一癖も二癖もある七人の騎士たちの、必死のアプローチの行方は……? 追放された『哀れな公爵令嬢』は、いかにして『帝国の英雄』にまで上り詰めるのか……? どんなアプローチも全く効果なし!鈍感だけど最強の令嬢と騎士たちの英雄譚! どうぞ、お楽しみください!

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

婚約破棄ですか? どうなっても知りませんよ

天宮有
恋愛
 貴族達が集まっている場で、公爵令嬢の私キャシーはドリアス王子に婚約破棄を言い渡されてしまう。  理由は捏造して私を悪者にしてから、王子は侯爵令嬢クノレラを新たな婚約者にすると宣言した。  婚約破棄を受け入れた私は、王子がこれから大変な目に合うことがわかっていた。

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

処理中です...