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第16章 秘密の契約書
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「……これは……本物……?」
ルアナの手元には、一枚の羊皮紙があった。
それは、セドリックとルアナの婚約解消した“はず”の契約書――しかし、見覚えのある署名とは明らかに違っていた。
かつての侍女フィリアが、危険を冒してセドリックの地下書庫から盗み出して、使者に託して送り届けてくれたものだ。
添えられた手紙には、セドリックから脅されて嘘の証言をさせられたことの謝罪とともに、もう侯爵家を辞めて田舎に帰ることが記されていた。
「契約書の筆跡が……まるで違う。……これ、偽造よ……!」
小さな震えが、指先から広がる。
彼女の婚約破棄は、セドリックの一方的な濡れ衣と、偽の証拠によって行われていた――。
それが今、明らかになったのだ。
「これを使えば、あいつを……陥れられるな」
だが、ルアナの顔は晴れない。
胸の奥が、もやもやと曇っていた。
「こんなことをして……私、何になるの……」
紅茶を冷ましながら、ルアナはぽつりと呟いた。
「復讐しても……私の人生が、元に戻るわけじゃない。名誉が戻っても、過去は消えないわ……」
すると背後から、重くも温かな声がした。
「……だが、過去に蹴りをつけることはできる」
グレイシアだった。
ルアナが振り返ると、彼はいつものように無愛想な顔で、部屋の扉にもたれていた。
「蹴りって……そんな乱暴な表現で……」
「事実だ。汚された名を、黙って飲み込んで笑ってろと?」
彼は静かに歩み寄り、ルアナの手から契約書を取る。その目は、炎のように燃えていた。
「復讐なんて言葉が嫌なら、こう思えばいい。“正すだけ”だ」
「……正す?」
「お前は間違っていなかった。悪いのは奴だ。その事実を世に知らしめるだけだ」
「…………」
ルアナは、目を伏せたまま口を引き結んだ。
「でも……それをしたら、私は“もう関わりたくない”って思っていた世界に、また戻ることになる」
「戻る必要はない」
グレイシアは、不意にルアナの頬に触れた。
手袋越しのその手は、ごつくて、でも驚くほど優しかった。
「必要なら、俺が全部引き受ける。お前はただ、前を向いていればいい」
「……なにそれ、かっこいい台詞……似合わない……」
「うるさい。練習した」
「練習したんですか!?」
ルアナは吹き出した。
思わず口元に手を当てて笑いながら、顔を赤く染めた。
「……私、グレイシア様と出会えてよかったな」
「今さら気づいたのか」
「もしかして……この“正す”って計画、あなたも楽しいんじゃないですか?」
「……俺の領地の住人を馬鹿にした貴族を、合法的に叩ける。最高だろ?」
「うわー、領主様が言う台詞じゃない……」
二人の間に、笑いと静けさが流れる。
けれど、ルアナの胸の奥には、一つの確かな想いが芽生えていた。
「復讐なんて、もうどうでもいいって、思ってた。けど……」
「けど?」
「今は……あなたの隣に立てるなら、ちょっとくらい戦ってもいいかな、って」
その言葉に、グレイシアの眉がかすかに動いた。
「……“ちょっとくらい”じゃすまないかもしれんがな」
「ひぃ……」
「だが安心しろ。お前は俺の後ろに隠れてればいい」
「じゃあ背中、ぎゅって掴んでていいですか?」
「……手を繋ぐくらいにしとけ」
「ええ~~っ、けち~~っ!」
こうして二人は、セドリックへの反撃の一歩を踏み出した。
ルアナの手元には、一枚の羊皮紙があった。
それは、セドリックとルアナの婚約解消した“はず”の契約書――しかし、見覚えのある署名とは明らかに違っていた。
かつての侍女フィリアが、危険を冒してセドリックの地下書庫から盗み出して、使者に託して送り届けてくれたものだ。
添えられた手紙には、セドリックから脅されて嘘の証言をさせられたことの謝罪とともに、もう侯爵家を辞めて田舎に帰ることが記されていた。
「契約書の筆跡が……まるで違う。……これ、偽造よ……!」
小さな震えが、指先から広がる。
彼女の婚約破棄は、セドリックの一方的な濡れ衣と、偽の証拠によって行われていた――。
それが今、明らかになったのだ。
「これを使えば、あいつを……陥れられるな」
だが、ルアナの顔は晴れない。
胸の奥が、もやもやと曇っていた。
「こんなことをして……私、何になるの……」
紅茶を冷ましながら、ルアナはぽつりと呟いた。
「復讐しても……私の人生が、元に戻るわけじゃない。名誉が戻っても、過去は消えないわ……」
すると背後から、重くも温かな声がした。
「……だが、過去に蹴りをつけることはできる」
グレイシアだった。
ルアナが振り返ると、彼はいつものように無愛想な顔で、部屋の扉にもたれていた。
「蹴りって……そんな乱暴な表現で……」
「事実だ。汚された名を、黙って飲み込んで笑ってろと?」
彼は静かに歩み寄り、ルアナの手から契約書を取る。その目は、炎のように燃えていた。
「復讐なんて言葉が嫌なら、こう思えばいい。“正すだけ”だ」
「……正す?」
「お前は間違っていなかった。悪いのは奴だ。その事実を世に知らしめるだけだ」
「…………」
ルアナは、目を伏せたまま口を引き結んだ。
「でも……それをしたら、私は“もう関わりたくない”って思っていた世界に、また戻ることになる」
「戻る必要はない」
グレイシアは、不意にルアナの頬に触れた。
手袋越しのその手は、ごつくて、でも驚くほど優しかった。
「必要なら、俺が全部引き受ける。お前はただ、前を向いていればいい」
「……なにそれ、かっこいい台詞……似合わない……」
「うるさい。練習した」
「練習したんですか!?」
ルアナは吹き出した。
思わず口元に手を当てて笑いながら、顔を赤く染めた。
「……私、グレイシア様と出会えてよかったな」
「今さら気づいたのか」
「もしかして……この“正す”って計画、あなたも楽しいんじゃないですか?」
「……俺の領地の住人を馬鹿にした貴族を、合法的に叩ける。最高だろ?」
「うわー、領主様が言う台詞じゃない……」
二人の間に、笑いと静けさが流れる。
けれど、ルアナの胸の奥には、一つの確かな想いが芽生えていた。
「復讐なんて、もうどうでもいいって、思ってた。けど……」
「けど?」
「今は……あなたの隣に立てるなら、ちょっとくらい戦ってもいいかな、って」
その言葉に、グレイシアの眉がかすかに動いた。
「……“ちょっとくらい”じゃすまないかもしれんがな」
「ひぃ……」
「だが安心しろ。お前は俺の後ろに隠れてればいい」
「じゃあ背中、ぎゅって掴んでていいですか?」
「……手を繋ぐくらいにしとけ」
「ええ~~っ、けち~~っ!」
こうして二人は、セドリックへの反撃の一歩を踏み出した。
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