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第17章 凱旋と真実
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都へと続く石畳の街道を、二頭立ての馬車が静かに進んでいた。
重たい曇り空の下、ルアナは窓越しに王都の高い城壁を見つめていた。
「まさか、またこの街に戻ることになるなんて……」
呟いた彼女の声は、小さく震えていた。
「怖いのか?」と、隣に座るグレイシアが尋ねる。
「ううん……怖くないわ。ただ、懐かしくて、少しだけ胸が苦しいだけ」
「ふむ。なら、俺が隣にいるから安心しろ」
「ふふ、それが一番効くおまじないかも」
グレイシアは咳払いを一つ。
「……そろそろ慣れてもいい頃だろ。俺が隣にいるのは、もう日常だ」
「そうね。じゃあ、たまには手でも握ってくれてもいいのに?」
「……その誘惑には耐え難いが、今は戦場だ。手を出したら命取りだ」
「王都の謁見の間を“戦場”って呼ぶ人、初めて聞いたわ」
そんな軽口を交わしているうちに、馬車は王城の前で止まった。
二人はゆっくりと降り立ち、護衛たちに導かれて玉座の間へと向かう。
石造りの長い廊下。
豪奢な赤絨毯の先に、王と側近たちが座していた。
王は、年老いていたが、その目は鋭かった。
グレイシアが一礼し、ルアナも深く頭を垂れる。
「辺境の薬学、王都に献上いたします。特に疫病に有効な調合薬と記録を……」
そうして献上の儀式が一通り終わると、ルアナが一歩、前へ出た。
会場に一瞬、静寂が走る。
「陛下……もう一つ、献上したき物がございます」
「……申してみよ」
ルアナは一枚の羊皮紙を差し出す。
「これは、数年前に私と元婚約者・セドリック殿との間で交わされたとされる契約書……その偽造の証拠です」
その言葉に、貴族たちがざわつきはじめる。
「まさか……!」
「偽造? あの侯爵家が?」
「まさかルアナ嬢が、そんなことを今になって……!」
冷たい視線と熱を帯びた視線とが交錯する中、ルアナは一つもたじろがなかった。
「私は……間違ったことをしたとは思っておりません。けれど、黙って去ったことが、誰かに誤解を与えたのなら、それだけは謝罪いたします」
王はゆっくりと契約書に目を通し、側近たちが顔をしかめた。
「これは……確かに偽造の痕跡がある。筆跡の変化、印章の微妙な歪み……意図的なものと見られるな」
王が声を発すると、さらにざわつきが強まる。ルアナはぐっと拳を握った。
「私は、復讐を望んでおりません。ただ、真実だけを……知っていただきたかったのです」
その背中を、グレイシアがぴたりと支えた。
「誇りを持っていい。お前は、自分の名誉を取り戻すだけでなく、王都の貴族の腐敗にも風穴を開けた」
「グレイシア様……」
「それと――誰かが陰で言ってたぞ。“あの辺境の女が、見違えるほど美しくなった”ってな」
「……っ、な、なにそれ、どこで聞いたの!?」
「秘密だ。だが……俺もそう思ってる」
耳元で囁かれ、ルアナの顔が一気に赤く染まる。
「この緊迫した場で口説かないでください!」
「場を和ませようとしてるだけだ」
「うそだ~~っ!」
場の空気が、微かに和らいだように感じた。王が頷いた。
「確かに、そなたの訴えは誠実である。そして……王都に、まだ希望があることを示してくれた」
そして王は、厳かに告げた。
「セドリック侯爵家に調査を命じる。ルアナ嬢、および辺境伯グレイシアには、その結果が出るまで都に留まり、報告に協力してもらいたい」
「……はい。ありがたき幸せにございます」
こうして、ルアナは真実を語り、王都の空気は確かに変わり始めた。
かつて追放された少女が、今、凱旋の光の中に立っている。
隣には、決して離れようとしない騎士――いや、誰よりも彼女を守る男がいた。
重たい曇り空の下、ルアナは窓越しに王都の高い城壁を見つめていた。
「まさか、またこの街に戻ることになるなんて……」
呟いた彼女の声は、小さく震えていた。
「怖いのか?」と、隣に座るグレイシアが尋ねる。
「ううん……怖くないわ。ただ、懐かしくて、少しだけ胸が苦しいだけ」
「ふむ。なら、俺が隣にいるから安心しろ」
「ふふ、それが一番効くおまじないかも」
グレイシアは咳払いを一つ。
「……そろそろ慣れてもいい頃だろ。俺が隣にいるのは、もう日常だ」
「そうね。じゃあ、たまには手でも握ってくれてもいいのに?」
「……その誘惑には耐え難いが、今は戦場だ。手を出したら命取りだ」
「王都の謁見の間を“戦場”って呼ぶ人、初めて聞いたわ」
そんな軽口を交わしているうちに、馬車は王城の前で止まった。
二人はゆっくりと降り立ち、護衛たちに導かれて玉座の間へと向かう。
石造りの長い廊下。
豪奢な赤絨毯の先に、王と側近たちが座していた。
王は、年老いていたが、その目は鋭かった。
グレイシアが一礼し、ルアナも深く頭を垂れる。
「辺境の薬学、王都に献上いたします。特に疫病に有効な調合薬と記録を……」
そうして献上の儀式が一通り終わると、ルアナが一歩、前へ出た。
会場に一瞬、静寂が走る。
「陛下……もう一つ、献上したき物がございます」
「……申してみよ」
ルアナは一枚の羊皮紙を差し出す。
「これは、数年前に私と元婚約者・セドリック殿との間で交わされたとされる契約書……その偽造の証拠です」
その言葉に、貴族たちがざわつきはじめる。
「まさか……!」
「偽造? あの侯爵家が?」
「まさかルアナ嬢が、そんなことを今になって……!」
冷たい視線と熱を帯びた視線とが交錯する中、ルアナは一つもたじろがなかった。
「私は……間違ったことをしたとは思っておりません。けれど、黙って去ったことが、誰かに誤解を与えたのなら、それだけは謝罪いたします」
王はゆっくりと契約書に目を通し、側近たちが顔をしかめた。
「これは……確かに偽造の痕跡がある。筆跡の変化、印章の微妙な歪み……意図的なものと見られるな」
王が声を発すると、さらにざわつきが強まる。ルアナはぐっと拳を握った。
「私は、復讐を望んでおりません。ただ、真実だけを……知っていただきたかったのです」
その背中を、グレイシアがぴたりと支えた。
「誇りを持っていい。お前は、自分の名誉を取り戻すだけでなく、王都の貴族の腐敗にも風穴を開けた」
「グレイシア様……」
「それと――誰かが陰で言ってたぞ。“あの辺境の女が、見違えるほど美しくなった”ってな」
「……っ、な、なにそれ、どこで聞いたの!?」
「秘密だ。だが……俺もそう思ってる」
耳元で囁かれ、ルアナの顔が一気に赤く染まる。
「この緊迫した場で口説かないでください!」
「場を和ませようとしてるだけだ」
「うそだ~~っ!」
場の空気が、微かに和らいだように感じた。王が頷いた。
「確かに、そなたの訴えは誠実である。そして……王都に、まだ希望があることを示してくれた」
そして王は、厳かに告げた。
「セドリック侯爵家に調査を命じる。ルアナ嬢、および辺境伯グレイシアには、その結果が出るまで都に留まり、報告に協力してもらいたい」
「……はい。ありがたき幸せにございます」
こうして、ルアナは真実を語り、王都の空気は確かに変わり始めた。
かつて追放された少女が、今、凱旋の光の中に立っている。
隣には、決して離れようとしない騎士――いや、誰よりも彼女を守る男がいた。
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