【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第21章 婚約と小さな指輪

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春の辺境は、信じられないほど美しかった。

雪解け水が大地を潤し、薬草畑には色とりどりの花々が咲き乱れている。

風は優しく、空は限りなく青くて、まるで今日という日が特別であることを、空も地も知っているかのようだった。

ルアナは草むらにしゃがみこみ、薬草の成長を確認していた。

「ああ、ヤロウの葉がいい色……グレイシアが間違って食べなければ最高なんだけど」

そう、数日前に彼はヤロウと間違えて苦味の強い雑草を食べたのだ。

しかも「これが辺境流だ」と豪語していた。

違う、絶対に違うから!

「ルアナ」

不意に後ろから呼ばれて、ルアナは振り返った。

そこにいたのは、いつもの黒い軍装ではなく、柔らかな麻布のシャツを身にまとったグレイシアだった。

彼がそんな姿で現れるなんて、滅多にない。

……というか、たぶん初めて。

「ど、どうしたんですか、その……やけに“野に咲く花と親和性の高い伯爵”みたいな格好で」

「似合わないか?」

「似合いすぎて、逆に怖いです」

彼は少しだけ口元をほころばせた。

そして、ためらうように数歩近づき、手を彼女に差し出す。

「少し、来てくれ」

彼に手を取られるがまま、ルアナは立ち上がった。

そして、歩くこと数分。

二人は一面の花畑の中心に立っていた。

そこは、風が優しく花を揺らし、虫の羽音すら愛おしいような、まるで物語の中の風景のような場所だった。

「ここ……」

「おまえが初めて、この地の薬草を見て笑った場所だ」

ルアナの記憶がふっと蘇る。

そう、初めてこの地に来たとき、不安と孤独に押しつぶされそうだった自分が、それでも草花の生命力に救われた、あの日の場所だった。

「ルアナ」

彼の声が、風を割って届く。

「俺と、婚約してほしい」

彼は膝をつき、掌に乗せていたものを、そっと差し出した。

それは――木彫りの、小さな指輪。

飾り気はまったくない。

だが、指先には彼の彫った跡がくっきりと刻まれている。

「豪奢なものは、きっとおまえには似合わない。宝石より、土の匂いと薬草の香りがおまえらしいから」

「……」

ルアナの胸が、じわりと熱くなった。涙が、音もなくこぼれた。

「これ、全部……あなたが彫ったんですか?」

「不器用だから、何度も失敗した。指先にトゲも刺さった。だが……おまえの指にこれをはめる日だけを思って、作り続けた」

「馬鹿ですね……」

ルアナはくすっと笑って、涙で濡れた頬をぬぐいながら、木の指輪をそっと受け取った。

「でも……私の人生で、一番嬉しい日です」

「……それは、俺にとっても、だ」

彼女の細い指に、彼は指輪をはめた。

その手は震えていたけれど、確かに――愛を、誓う手だった。

「こんなに嬉しいなら、婚約って、毎年してもいいかもしれません」

「やめろ。次は結婚だ。逃がさない」

「えっ、今度は鉄の指輪ですか?」

「……考えておこう。ついでに鍵もつけてな」

ルアナは笑いながら、グレイシアの胸に飛び込んだ。

花々が風に揺れ、ふたりの影を包み込むようにして寄り添った。

辺境の春は、こうして確かに、愛の季節となったのだった。
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