【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第25章 花祭りと初夜の誓い

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春――。

まだ風に少し冷たさが残るものの、領内のあちこちには早咲きの花々が咲き誇り、空はどこまでも澄み渡っていた。

「さあさあ、踊るよルアナ嬢! 今日くらい、薬草片手に踊るのは禁止ね!」

「え、いつもそんな奇行してません!」

花祭りは、領内最大の行事。

村人も貴族も関係なく、広場に集まり、踊り、歌い、花を捧げ合う日だ。

ルアナは、村の子どもたちに手を引かれながら、まんまと踊りの輪に放り込まれていた。

「う、うまく踊れないですってば……」

「大丈夫、私もへたくそだ」

後ろからふわりと伸びてきた手が、彼女の手をそっと握る。グレイシアだ。

「え、えっ!? 領主様が踊るなんて! イメージと違いすぎて世界が揺れてる!」

「君の世界観、思った以上に脆弱だな」

そう言って微笑む彼の顔は、いつもより少し柔らかく、そしてとても楽しそうだった。

「こうやって、君と人前で踊れる日が来るなんてな」

「わ、私だって予想外です! まさかこの地味薬師が、領主様と手を取ってくるくる回る日が来るとは……」

「でも、君が一番美しい」

「なに言ってるんですか、みんな花の冠かぶってますし、ここの子供とかめちゃくちゃかわ……」

「いや、間違いなく君が一番。……君の笑顔を見ると、世界がまるごと咲いたようだ」

「……なんなんですか、その花祭りテンション……」

「春だからな」

「便利な言い訳ですね、春……」

でも、そんなやり取りをしながら、ルアナの頬はほんのりと桜のように染まっていた。

夜。

花祭りの宴が終わり、ルアナは自室へ戻っていた。

今日一日、笑いすぎて顔が筋肉痛になりそうだったが、心は不思議と落ち着いている。

――コン、コン。

扉が小さく叩かれた。

「……入って、いいか?」

「……っ、はい」

いつもの冷静な声。

でも、その響きには、微かに緊張がにじんでいた。

部屋に入ってきたグレイシアは、しばらく何も言わなかった。

ただ、窓辺で月明かりに照らされるルアナを見つめ、そっと口を開いた。

「今日、君と手をつないで踊って……思ったんだ」

「……はい」

「もう、君を“ただの薬師”として隣に置いておくのは、我慢できない」

ルアナは、ふっと目を伏せる。

けれど、それは拒絶ではなかった。

「君を、正式に妻として迎えたい」

静かな声だった。

けれど、その一言には、彼のすべての決意が込められていた。

「……グレイシア様」

彼女は、そっと立ち上がって彼の前に進み出る。

「私も……あなたの隣にいたい。どんなときも、どんな場所でも」

そして、まっすぐに彼を見上げる。

「でもひとつだけ、覚悟しておいてくださいね。結婚したら、私は毎日あなたの食生活に口出ししますから」

「……それは、今から覚悟しておく」

「野菜、逃げられませんよ?」

「……もはや魔獣より手強い」

二人は、笑いながら見つめ合う。

やがて、その距離は自然に縮まり――そっと、唇が重なる。


春の夜。

遠くの方でまだ花祭りの名残が響く中、薬師と領主は静かに一つの誓いを交わした。

それは、永遠を約束する最初の口づけだった。
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