【完結】転生令嬢は、婚約破棄されて毒草令嬢と追放されたのに、冷徹辺境伯に寵愛される。

朝日みらい

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第27章 前世の夢、今世の夢

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それは、ふとした眠りの中だった。

静かな夜、グレイシアの領主邸の寝室。

春の風がカーテンを揺らし、淡い月明かりがルアナの頬を撫でる。

だが、彼女の意識は、どこか遠くへと旅立っていた。

──夢だった。

けれど、それは甘やかな夢ではない。

むしろ、忘れたい記憶の連なりだった。

ビルの谷間。機械音。灰色の空。

「また、仕事……今日も朝まで残業か……」

前世、彼女は“咲(さき)”という名の女性だった。

都心の会社で日々に追われ、夢も希望も、恋すらも手に入れられずに生きていた。

「誰かと手を繋ぐなんて、いつぶりだったかな……」

部屋に帰れば冷たいカップ麺と、点けっぱなしのテレビ。

カーテンの閉じた窓。携帯の通知は、広告と仕事の連絡ばかり。

「──こんなの、人生じゃない。けど、これが“現実”だったんだよね」

走馬灯のように流れていく記憶の中、咲はひとり立ち尽くしていた。

誰もいないホーム、満員電車、薄暗い会議室。

名も顔も忘れてしまった上司たちの怒号がこだまする。

それでも、最後に現れたのは、まばゆい光の中でこちらを見つめる、あの人の姿だった。

──グレイシア。

風に揺れる白銀の髪。強く、優しい瞳。

「君は、もう一度生きることを選んだ。なら、今度こそ幸せになれ」

ルアナの目に、ぽろりと涙が浮かんだ。

「……そうか。私は、生き直せたんだね」


目を覚ました時、朝日が部屋を照らしていた。

となりで眠るグレイシアは、いつものように無防備な寝顔でぐっすりと眠っていた。

彼の髪がふわりと肩にかかり、呼吸は規則正しい。

「ふふ……あなたって、寝てる時が一番素直かもしれないですね」

そっと髪を撫でると、彼が眉をひそめてつぶやいた。

「……ん、触ったな……今のは夢じゃないな……」

「起きてたんですか!?」

「夢の中でも君に会った。相変わらず、泣いていた」

「うそ……っ」

「でも最後は、笑ってた。……今の君のように」

ルアナは、ぽかんとした後、そっと微笑んだ。

「私ね、一人だったの。寂しくて、苦しくて、誰にも“おはよう”って言ってもらえなかった」

「なら、これからは毎朝、私が言おう」

「……え?」

グレイシアは、ルアナの頬に手を伸ばし、優しく撫でる。

「おはよう、ルアナ。今日も君が隣にいることに、ありがとう」

ルアナの目が潤む。

「グレイシア様……なんか、ずるいです。そんなの、惚れ直しちゃうじゃないですか……」

「何度でも惚れさせる。君が飽きるまで、いや、飽きてもずっとだ」

「じゃあ……ずっとです」

二人は朝の光の中、静かに唇を重ねた。

──前世の咲が見られなかった夢を、今世のルアナは確かに手にしていた。
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