【完結】無自覚モブ令嬢、王宮ラブロマンスの主役にされるなんて ~破棄された平凡侍女ですが、王太子殿下に溺愛されてます~

朝日みらい

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第5章:王女の策略

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 王宮が華やかな舞踏会の準備に沸き立っていた午後、侍女部屋には妙な緊張感が漂っていました。



「このドレス……なにか、変じゃありませんか?」

 控え室に届けられた一着のドレスを前に、わたしは首を傾げました。

見た目は完璧。刺繍も美しく、布も上質で、サイズもぴったり――でも、縫い目に何か引っかかるような違和感があったのです。

 でも、時間はもうありません。



 王太子ユリウス殿下との同席が決まってしまった舞踏会。

私は侍女としてではなく“婚約候補”として、王宮の公式行事に出ることになっていたのです。


 ……正直、逃げ出したかったです。


王女様の命令で舞踏会の代理を務めたあの日から、わたしの周りは変化ばかりでした。

侍女仲間からの冷たい視線、貴族令嬢たちの陰口、そして――セラフィナ様からの絶え間ない“圧”。

「ふふ、リリィ……あなたにできることなんて、せいぜい泥をかぶることだけよ」

 その言葉の意味は、当日になってわかりました。



 舞踏会が始まり、王太子殿下とわたしが踊っている途中――

 ドレスが、破れました。

まるで仕掛けられたように、縫い目が突然ほつれて、裾が大きく崩れたのです。


 ざわめく会場、凍りつく空気。

 誰かが笑いを堪えて、誰かが眉をひそめる中、わたしは身を縮めて立ち尽くしました。

 ……終わった。


 そう思った瞬間――

「気づいていたよ。君のせいじゃない」

 ユリウス殿下が、静かにわたしの手を取って、乱れた裾をそっと持ち上げてくださったのです。

「むしろ……君は、美しい」


 美しい――なんて。

 そんな言葉、初めてでした。

 あの瞬間、わたしの時間が止まったような気がしました。

 セラフィナ様の顔は、信じられないほど歪んでいて――あの完璧な笑顔の奥に、嫉妬が色濃く滲んでいました。



 周囲がざわめく中、静かに一歩踏み出したのは、護衛騎士グレイ様。

 無言で私の前に立ち、ゆっくりとその視線を王女に向けました。

 何も言わずに、ただ、私を“庇う”という行動で、すべてを語っていたのです。

 ……この舞踏会、誰かの思惑通りには進まない。そして、宮廷のお茶会でも、ユリウス殿下は私をちょっと強引?に連れ出したのです。
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