【完結】無自覚モブ令嬢、王宮ラブロマンスの主役にされるなんて ~破棄された平凡侍女ですが、王太子殿下に溺愛されてます~

朝日みらい

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第7章:婚約発表と偽りのキス

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 王宮の大広間――その場の空気は、まるで氷のようでした。

 絢爛なシャンデリアに照らされた舞踏の場に響き渡ったのは、ユリウス殿下の堂々たる声。

「リリィ・エンフィールドは、私の婚約者であることを改めてここに宣言する」

 ……うそ。

 わたしの手を握った殿下は、いま、誰もが聞いている中で、“公の宣言”をされたのです。

 あのお茶会の庭園での告白だけではなかった。

これはもう、“王国の未来”に関わる発表。

 わたしの心臓が、信じられないほど速く鳴っていました。

 右手の温もりは優しくて――でも、わたしの頭の中は、混乱の嵐。

 これは……政治の駒になった、ということなのでしょうか?

 突然現れた侍女が、“王太子の婚約者”に指名されるなど、誰も納得するはずがありません。

 しかも、わたしには“血筋”も“称号”もない。背後に名門貴族がいるわけでもないのです。

「殿下、お考え直しを……!」

「王家の面目に関わります!」

 宰相、側近、そして貴族の面々が次々と口を開く中、ユリウス殿下は一歩も退きませんでした。

「僕が選びたいのは、“心”を信じられる相手だ」

「心だけで王妃は務まりません!」

「ならば、王妃ではなく“僕の妻”にしよう」

 その言葉に、大広間の空気が震えた気がしました。

 わたしは、あまりに場違いなこの空気の中で、ただ俯いていました。

 でも、殿下はそっと顔を上げさせようとして――

「君と過ごした時間は、たとえ“嘘”から始まっても、嘘じゃなかったから」

 その言葉は、どこまでも真っすぐでした。

 「嘘から始まってもいい」――それは、殿下が舞踏会の“代理”でわたしに興味を持ったということを含んでいるはずです。

でも、嘘が真実になったら、それは、きっと“本物”なのです。



 そして――

 唇が、重なった。

 わたしの頬が、熱くなりました。

 王宮中が息を飲んだ、その瞬間。

 ユリウス殿下が、誰もが見ている中で、わたしに“キス”をしたのです。



 唇に触れたその感覚は、やさしく、でも確かで。

 誰かと唇を重ねることが、こんなにも混乱と衝撃と、そしてときめきを含んでいるとは、思いもしませんでした。

「君は、僕の大切な人だ」

 その言葉に、わたしの心は完全に動き出しました。



 でも――まだ、“愛”と呼ぶには早すぎる。

 それでも、胸の奥で確かに何かが跳ねたのです。

 わたしは、誰かの代用品でも、政略の駒でもなく。

 “誰かの隣”に立つ“わたし自身”になろうとしている。

 ……でも、この決断は、きっと、波乱を招く。

 セラフィナ様の瞳は、火を宿したように燃えていて。

 侍女仲間の目は、凍えるような冷たさで。

 そして、グレイ様――彼の視線だけは、最後まで、優しさを滲ませていました。

 わたしの“居場所”が、揺らぎ始めている。

 でも、手を握ってくれるこの温もりだけは――信じても、いいですよね?
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