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第12章:運命の選択と二人だけの戴冠式
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牢を出たわたしは、白銀の光が射す城の中庭を静かに歩いていました。
……すべてが夢のようでした。
王家の血を引く者として迎えられたわたしに、侍女も貴族も、誰もが敬意をもって接してくれます。
でも、心の中は――決して晴れやかではありませんでした。
「わたしは、誰かになりたいのではなく、わたし自身でいたいです」
王族の地位。豪奢な衣装。誰もが羨む未来。
けれど、それは“わたし”の願いではありません。
ユリウス殿下が現れて、静かに言いました。
「王宮の選び方はひとつではない。君の意思が、すべてを決めるんだ」
その手が、わたしに差し出されたとき――
わたしは、迷わず、手を取りました。
「この場所に、わたしの役割を築いていきたい。誰かの代理ではなく、“わたし”として歩みたい」
殿下は、微笑みながらうなずいて――その日、ふたりだけの戴冠式が、小さな礼拝堂で行われました。
誰もが見守るなかではなく。
誰かに見せるための飾りではなく。
純粋に、ふたりが互いを選び合う瞬間でした。
額に輝く銀のティアラと、手を繋ぐぬくもり。
それは、ただの王女の証ではなく。
「リリィ」としての、わたし自身の“始まり”だったのです。
---
春風が、白いカーテンをふわりと揺らしました。
新しい季節の訪れに、胸の奥がやさしく温まる気がします。
戴冠式から、ひと月が過ぎました。
それは盛大な祝宴ではなく、わたしと殿下、そしてごく少数の親しい人々だけが見守る、静かな誓いの場でした。
――けれど、その瞬間の空気は、いまでも忘れられません。
「リリィ、君は春の芽吹いた青葉だね。みすみずしくて、新鮮で、活き活きしている。君がいるだけで、王宮に春をもたらしたようだ」
そう言ってくれた殿下の言葉が、わたしの心にぽっと温かい風を吹き込んでくれます。
わたしは、誰かに仕える侍女ではなく。
誰かの代わりでも、影でもなく。
この王宮に、自分の色を、心を、息づかいを残せる存在になりたいのです。
――きっと、すべての人に、それぞれの“物語”があります。
痛みも、希望も、涙も。
それらすべてが“自分だけの真実”を紡ぐ糸となり、いつか誰かの心に届く日が来るのだと、わたしは信じているんです。
だからこそ。
心からの感謝を込めて、わたしは殿下の鼻先に、ちょっと背伸びしてキスをしました。
春の光の中で、わたしは誇れる本当の自分と、愛する人の前に立てて、本当に幸せなんです。
さあ、これから――わたしの人生という物語のはじまりです!
【完】
……すべてが夢のようでした。
王家の血を引く者として迎えられたわたしに、侍女も貴族も、誰もが敬意をもって接してくれます。
でも、心の中は――決して晴れやかではありませんでした。
「わたしは、誰かになりたいのではなく、わたし自身でいたいです」
王族の地位。豪奢な衣装。誰もが羨む未来。
けれど、それは“わたし”の願いではありません。
ユリウス殿下が現れて、静かに言いました。
「王宮の選び方はひとつではない。君の意思が、すべてを決めるんだ」
その手が、わたしに差し出されたとき――
わたしは、迷わず、手を取りました。
「この場所に、わたしの役割を築いていきたい。誰かの代理ではなく、“わたし”として歩みたい」
殿下は、微笑みながらうなずいて――その日、ふたりだけの戴冠式が、小さな礼拝堂で行われました。
誰もが見守るなかではなく。
誰かに見せるための飾りではなく。
純粋に、ふたりが互いを選び合う瞬間でした。
額に輝く銀のティアラと、手を繋ぐぬくもり。
それは、ただの王女の証ではなく。
「リリィ」としての、わたし自身の“始まり”だったのです。
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春風が、白いカーテンをふわりと揺らしました。
新しい季節の訪れに、胸の奥がやさしく温まる気がします。
戴冠式から、ひと月が過ぎました。
それは盛大な祝宴ではなく、わたしと殿下、そしてごく少数の親しい人々だけが見守る、静かな誓いの場でした。
――けれど、その瞬間の空気は、いまでも忘れられません。
「リリィ、君は春の芽吹いた青葉だね。みすみずしくて、新鮮で、活き活きしている。君がいるだけで、王宮に春をもたらしたようだ」
そう言ってくれた殿下の言葉が、わたしの心にぽっと温かい風を吹き込んでくれます。
わたしは、誰かに仕える侍女ではなく。
誰かの代わりでも、影でもなく。
この王宮に、自分の色を、心を、息づかいを残せる存在になりたいのです。
――きっと、すべての人に、それぞれの“物語”があります。
痛みも、希望も、涙も。
それらすべてが“自分だけの真実”を紡ぐ糸となり、いつか誰かの心に届く日が来るのだと、わたしは信じているんです。
だからこそ。
心からの感謝を込めて、わたしは殿下の鼻先に、ちょっと背伸びしてキスをしました。
春の光の中で、わたしは誇れる本当の自分と、愛する人の前に立てて、本当に幸せなんです。
さあ、これから――わたしの人生という物語のはじまりです!
【完】
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