【完結】無自覚モブ令嬢、王宮ラブロマンスの主役にされるなんて ~破棄された平凡侍女ですが、王太子殿下に溺愛されてます~

朝日みらい

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第11章:真実の涙と砕かれた仮面

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 牢の中に座り込んだわたしは、冷たい石の壁に背を預けていました。



 ……なんて静かな空間なんでしょうか。

 王女暗殺未遂――そんなとんでもない濡れ衣を着せられて、気づけば侍女の肩書も、婚約者の立場も、なにもかもが剥がれていました。



「どうして……殿下は、来てくださらないのですか……」

 絹のようなあの声が、わたしの名前を優しく呼んでくれたことを思い出しながら、何度もそう呟いてしまいました。

 涙が頬を伝っていても、誰にも見られないのがせめてもの救いです。



 そのとき、重々しい足音が、扉の向こうから近づいてきました。

「誰……ですか?」

 ゆっくり開いた扉から現れたのは――


 グレイ様!

 でも、そのすぐ後ろに立っていたのは、わたしが初めて見る顔の男でした。

年配で、物静かな気配。そして、その瞳は――

 ……わたしと同じ色。

 金茶色。誰にも似ていないと思っていたこの瞳。

「あなたは……」

「わたしはアルバイン公爵家セリングといいます。リリィ嬢。あなたは、王家の血を引く方です。あなたの父親はわたしの亡くなった兄で、あなたの母、正妃が密かに遺した子なのです」

 言葉が……理解できませんでした。

 わたしが……王族の血筋? 正妃の隠し子?



「これが証拠です。正妃様と兄が同じ絵を描かせたのです」

 目の前の男は、ゆっくりと一枚の肖像画を手渡してきました。

 そこに描かれていたのは――若き日の正妃と、腕の中で笑っている幼い少女。



 その顔は。

「……わたし、なのですね」

「数年前、事故の混乱で消息を絶っていたが、手がかりがあった。ペンダントも、記憶の断片も。ようやく、見つけることができた」



 あの銀のペンダント。

 “記憶”と“絵”が繋がっていきます。

「……!」

 涙が、止まりませんでした。

 これまで、地味侍女として影のように生きてきたわたしが。

 誰かの代用品として扱われてきたわたしが。

 実は、正妃様の“本当の娘”だったなんて。



 その時、扉の向こうからまた別の足音が――

「遅くなってすまない」

 ユリウス殿下。

 涙でぼやけた瞳の先、殿下の姿は確かにそこにありました。

 静かに、わたしだけを見つめている――その眼差しに、他の誰も映っていないことが、はっきりとわかったのです。



「遅れてすまない。セラフィナ王女が仕向けた罠だと白状したよ――」

 その声に、また、涙があふれました。



 砕かれた仮面の向こうで、ほんとうの“わたし”が、ようやく目を覚ました気がしました。
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