【完結】無自覚モブ令嬢、王宮ラブロマンスの主役にされるなんて ～破棄された平凡侍女ですが、王太子殿下に溺愛されてます～

第10章：誓いの指輪と血塗られたドレス

　その日、王宮は輝いていました。

　年に一度の最大の式典――王家の未来を祝う戴冠祭。



王太子ユリウス殿下の婚約者として、わたしリリィ・エンフィールドが式典に臨むなど、本来なら考えられないことだったはずです。


　でも、現実は動きました。

「これで君は、正式に未来の妃だ」

　ユリウス殿下がわたしの指にそっと嵌めてくださった、緋色の宝石が煌めく指輪。

　それは、誓いの印。

　夢のようでした。夢で終わらないように、心を強く持とうと――そう思ったのに。



　式典の最中。

ふと聞こえたざわめき。

そして、衣装係の一人が駆け寄ってきて、震える声で告げました。

「セラフィナ王女様の……ドレスに……毒が塗られていた可能性があります！　最後にドレスを触ったのはリリィだと王女様はおっしゃって……！」


　……え？

　頭が真っ白になりました。

やってない！　やるわけないないじゃない……！



場内が凍りつき、誰かが叫びました。

「やっぱり、侍女の端くれだ！」

「王女の命を狙った反逆者だ！」

「そもそも、そんな女が王女になるなど、あり得ない！」


頭が真っ白で、唇はわなわな震えて……足はガクガクして……。


お願いだからやめて。

こんな茶番、やめて、やめてください！


　誰かが、わたしを罠にかけたのです。



　でも、証拠はありません。


　ユリウス殿下は……なぜ、黙っているのですか？

　わたしを見ているけれど、その眼差しは動揺に揺れていました。

きっと、殿下も戸惑っている。それはわかります。

でも、誰かに否定してほしいよ。



　わたしは反逆者なんかじゃない。暗殺なんて、するわけがないじゃない。



　――そのとき。

「彼女を捕らえろ」

　衛兵たちが、静かに前に出ました。

　その声は、強くて、静かで、冷徹でした。

　わたしを、捕まえる。

　王女様の命を危険に晒したとされる“容疑者”であるわたしを、逮捕――



　周囲の声は止み、空気が変わりました。

　侍女たちも、貴族たちも、目を見張っています。

　……その現実に、心が震えました。

「助けて……」