【完結】作家の伯爵令嬢は婚約破棄をされたので、愛読者の第三王太子と偽装結婚して執筆活動に邁進します！

(5)

「おい、アナリス！　ソフィアになんてことをするんだ！」

　アランが冷たい眼差しを向けながら、アナリスを睨みつけて叫んだ。

「わたし、突き飛ばしてなんか…していないわ…」

　大広間にいた貴族たちもざわつき始める。

　アナリスはそんな周囲の視線を感じ取り、冷や汗が流れ落ちるのを感じた。

（どうしよう……）

「アナリス！ 　だから君とは婚約を白紙にしたいんだよ。この、乱暴猫め！」

「乱暴……猫！？」

　アナリスはほっとして思わず涙目になりそうになるが、ぐっと堪えた。

　今ここで弱味を見せるわけにはいかないと自分に言い聞かせる。

「君はいつも本ばかり読んで、妄想癖が過ぎる！　そして思い通りにならないと感情的になって、すぐに手を出すんだよな。君とはもう、うんざりしていた。付き合っていられないよ」

「何、おっしゃるの？　妄想癖でも、乱暴でもないわ…」

（何それ……二人で芝居でもしているの？）

　アランは大袈裟な身振り手振りで、まるで舞台役者のようにアナリスを責め立てる。

「婚約を白紙にすることで、君も心を入れ替えたほうがいい。これからはソフィアと新しい人生を歩んでいくよ」

　アランはそう言って胸に手を当てると、にっこりと微笑んだ。

　その仕草はまるで一枚の絵のように美しい。だが、言っていることは無茶苦茶だ！

（ああ……もういやだ！ アランのばか！）

　アナリスは心の中で泣き叫びながら、拳を強く握りしめた。

「…んっ！」

　アナリスはそう言うと、その場から駆け出した。


「ちょっと！ 　待ってください！」

　誰かが叫ぶ声が聞こえたが、無視して大広間から走り去る。

（もうやだ！ もう知らないわ！）

　そんな思いが頭の中でぐるぐると渦を巻いていた。