【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

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(4)初対面 

アルドラス帝国の城門を越えた瞬間、アリシアの視界に広がったのは、まるで別世界の光景だった。

高くそびえる城壁は大理石で作られており、その白さは曇り空を背景に輝くようで、思わず目を細めてしまう。

門を通るたびに響く馬車の音は、冷たい石畳に反響し、どこか威圧的だった。  

「リュネリアの王宮なんて、子供のおままごとみたいなものね。」  

心の中で自嘲気味にそう思いながらも、アリシアは背筋を伸ばした。

この場で見せるべきは、恐れでも不安でもない――それがどれほど難しいかは別として。  

馬車が止まり、侍従たちが静かに扉を開ける。

アリシアが外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。

その目の前には、巨大な宮殿がそびえ立っている。

リュネリアの王宮と比べても圧倒的に大きく、壮麗さは目を見張るものがあった。

壁には繊細な装飾が施されており、金色と青のモザイクが幾何学模様を描いている。  

「これは……。」  

アリシアは息を飲み、その場で言葉を失った。

一歩進むたび、足元に敷かれたカーペットがふわりと沈む感覚があり、無意識にスカートを握りしめる。  

「リュネリアの姫君、こちらへどうぞ。」  

宰相らしき人物が静かに促す声に従い、アリシアは足を進めた。

その目線の先には、謁見の間へと続く大きな扉が見える。

その扉は、黒檀に銀の細工が施されており、重厚感がありながらも不思議と冷たさを感じさせた。  

やがて扉が開き、アリシアは大広間へと足を踏み入れた。

その瞬間、思わず息を飲む。

天井は驚くほど高く、壁一面に掛けられた巨大なタペストリーが、帝国の長い歴史を語るようだった。

窓から差し込む光が冷たく反射し、全体的に荘厳でありながらもどこか冷ややかな雰囲気を醸し出している。  

彼女が指示された場所で待つこと数分、突然、静寂を切り裂くように扉が再び開いた。  

「…!」

アリシアは咄嗟に振り返り、目を見開いた。

そこに立っていたのは、黒い軍服をまとった男――皇帝カイゼルその人だった。  

彼の姿を見た瞬間、アリシアの心臓が一瞬だけ強く跳ねる。

その理由は恐怖なのか、それとも別の感情なのか、自分でもよくわからなかった。  

カイゼルは噂以上の迫力を持つ人物だった。

整った顔立ちだが、その表情には一切の感情がなく、まるで石像のようだ。灰色の瞳がまっすぐにアリシアを見据える。

冷たいその視線は、まるで彼女のすべてを見透かそうとしているかのようだった。  

「お前がリュネリアの姫か。」

低く響く声が広間にこだまする。

その一言に、アリシアの体がわずかに震えた。

慌てて深くお辞儀をする。  

「はい、アリシア・リュネリアでございます。」  

自分でも驚くほど震えのない声が出たことに、少しだけほっとする。

しかしその次の瞬間、カイゼルは彼女をじっと見たまま、ほんの一瞬だけ眉を動かした。

それが何を意味するのか、アリシアにはわからない。

ただ、その瞳の中にどんな感情も読み取れなかった。  

「ふむ。」  

それ以上の言葉はなく、彼は視線を外すと、隣に控えていた宰相に何か指示を出した。

その声は低くて聞き取れない。  

アリシアは唇を引き結びながら、心の中で思う。  

「この人、本当に心がないのかもしれない。」

だが、怯える一方で、彼女はなぜか少しだけ興味を抱いていた。

こんなにも冷たい態度の人間が、何を考えているのか知りたい――そんな気持ちが、ほんの少しだけ胸をくすぐったのだ。  

彼の視線が再び自分に向けられるその瞬間を、アリシアはひそかに待ち望んでいる自分に気づき、思わず小さく息を飲んだ。  

「でも、きっと私なんて、彼にとってはただの駒。」

そう言い聞かせながらも、アリシアの胸の奥には、ほんのわずかに灯る奇妙な感情が生まれていた。

それが何なのか、この時点では彼女自身もまだわからないままで――。
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