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(5)初夜の幕開け…かと思いきや
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アルドラス帝国の厳かな結婚式が終わり、夜も更けた頃、アリシアは広すぎる宮殿の客室に案内された。
部屋は息を呑むほど豪華で、金箔が施された柱や、天井から垂れ下がるシャンデリアが煌めいている。
しかし、そんな絢爛たる部屋の中でも、彼女の心には妙な不安が渦巻いていた。
「これからどうなるのかしら…」
新しい人生が始まるという実感よりも、目の前の現実に対する戸惑いの方が強い。
それに、アリシアにとって“結婚”とは今のところ、形式だけのものに過ぎなかった。
侍女のエマが夜の支度を手伝いながら、控えめに微笑む。
彼女の表情はいつも通り淡々としていて、そんな態度に少しホッとする。
「ねえ、エマ。」
アリシアはふと問いかける。
「初夜って言うけど、あの皇帝陛下がそんなロマンチックな人に見える?」
エマはアリシアの髪を梳かしながら、少しだけ眉を動かして答えた。
「殿下、私には経験がありませんのでわかりませんが…皇帝陛下が突然詩を詠み始めるとは考えにくいですね。」
「詩を詠むどころか、私の名前を覚えてるかどうかも怪しいわよ。」
アリシアはため息混じりに言いながら、ベッドにどさりと腰を下ろした。
部屋を整え終えた侍女たちは、薄く笑いを浮かべながら退出していった。
誰も口には出さないが、彼女たちもまた、この新婚初夜がどのように進むのか興味津々だったのだろう。
しかし、扉は一向に開かない。
時間だけが静かに過ぎていく。天蓋付きの大きすぎるベッドは、アリシアにとって妙に窮屈で、同時に落ち着かない。
「結局、ひとりぼっちじゃない。」
アリシアは立ち上がり、持参した小さな刺繍キットを取り出した。
針を動かすのは心を落ち着ける作業だ。淡い色の糸を布に通しながら、少しだけ気持ちが和らぐ。
「嫁いできた初日に刺繍をしてる花嫁って、私くらいよね。」
呟いた声が広い部屋に虚しく響いた。
その時だった。
廊下の奥から、はっきりとした足音が聞こえてきた。
「…!」
アリシアは思わず針を置き、心臓が大きく跳ねた。
足音は徐々に近づいてくる。
彼女はその音に耳を澄ませながら、自然と背筋を伸ばしてしまう。
「もしかして……。」
期待と不安が入り混じる中、扉がゆっくりと開いた。
その隙間から現れたのは――
黒い軍服をまとったカイゼルだった。
彼は冷静な表情で部屋に足を踏み入れる。
大きな扉が閉まる音が、二人きりになった空間に響いた。
「刺繍とは、面白い趣味だな。」
カイゼルは部屋に視線を巡らせ、ふと手元の刺繍キットに目を留めた。
「趣味というか…ただ手が空いてしまっただけです。」
アリシアはとっさに刺繍布を隠そうとしたが、彼の灰色の瞳はすでにそれを捉えている。
カイゼルは何も言わず、静かに部屋の中央まで歩いてきた。
その動きは静かだがどこか威圧的で、アリシアは針を持つ手を無意識に握りしめた。
「この部屋は気に入ったか?」
低い声で問われ、アリシアは少し戸惑いながら答える。
「はい。素晴らしいお部屋で…感謝しております。」
カイゼルはそれ以上何も言わず、窓辺に立つと外を見つめた。
その背中はどこか寂しげで、アリシアは思わず言葉を飲み込む。
沈黙が続く中、彼女は少しずつ肩の力を抜いていった。
「陛下、もしかして…お忙しい中、無理をして来られたのですか?」
その問いかけに、彼は少しだけ口元を歪めた。
それが微笑なのか嘲笑なのか、アリシアにはわからない。
「お前がどう過ごしているか気になっただけだ。」
アリシアは驚いて彼を見上げた。
彼の言葉は素っ気ないものの、どこか不器用な優しさが感じられるような気がした。
「陛下も…お休みくださいね。」
恐る恐るそう付け加えると、カイゼルは少し驚いたようにアリシアを見た。
「お前もな。」
短い言葉を残し、カイゼルは再び部屋を出ていった。
扉が閉まる音が響くと、アリシアはベッドに腰を下ろし、大きく息をついた。
「少しは私のことを気にしてくれてるのかしら?」
その夜、アリシアはなぜか少しだけ胸が温かくなった。
部屋は息を呑むほど豪華で、金箔が施された柱や、天井から垂れ下がるシャンデリアが煌めいている。
しかし、そんな絢爛たる部屋の中でも、彼女の心には妙な不安が渦巻いていた。
「これからどうなるのかしら…」
新しい人生が始まるという実感よりも、目の前の現実に対する戸惑いの方が強い。
それに、アリシアにとって“結婚”とは今のところ、形式だけのものに過ぎなかった。
侍女のエマが夜の支度を手伝いながら、控えめに微笑む。
彼女の表情はいつも通り淡々としていて、そんな態度に少しホッとする。
「ねえ、エマ。」
アリシアはふと問いかける。
「初夜って言うけど、あの皇帝陛下がそんなロマンチックな人に見える?」
エマはアリシアの髪を梳かしながら、少しだけ眉を動かして答えた。
「殿下、私には経験がありませんのでわかりませんが…皇帝陛下が突然詩を詠み始めるとは考えにくいですね。」
「詩を詠むどころか、私の名前を覚えてるかどうかも怪しいわよ。」
アリシアはため息混じりに言いながら、ベッドにどさりと腰を下ろした。
部屋を整え終えた侍女たちは、薄く笑いを浮かべながら退出していった。
誰も口には出さないが、彼女たちもまた、この新婚初夜がどのように進むのか興味津々だったのだろう。
しかし、扉は一向に開かない。
時間だけが静かに過ぎていく。天蓋付きの大きすぎるベッドは、アリシアにとって妙に窮屈で、同時に落ち着かない。
「結局、ひとりぼっちじゃない。」
アリシアは立ち上がり、持参した小さな刺繍キットを取り出した。
針を動かすのは心を落ち着ける作業だ。淡い色の糸を布に通しながら、少しだけ気持ちが和らぐ。
「嫁いできた初日に刺繍をしてる花嫁って、私くらいよね。」
呟いた声が広い部屋に虚しく響いた。
その時だった。
廊下の奥から、はっきりとした足音が聞こえてきた。
「…!」
アリシアは思わず針を置き、心臓が大きく跳ねた。
足音は徐々に近づいてくる。
彼女はその音に耳を澄ませながら、自然と背筋を伸ばしてしまう。
「もしかして……。」
期待と不安が入り混じる中、扉がゆっくりと開いた。
その隙間から現れたのは――
黒い軍服をまとったカイゼルだった。
彼は冷静な表情で部屋に足を踏み入れる。
大きな扉が閉まる音が、二人きりになった空間に響いた。
「刺繍とは、面白い趣味だな。」
カイゼルは部屋に視線を巡らせ、ふと手元の刺繍キットに目を留めた。
「趣味というか…ただ手が空いてしまっただけです。」
アリシアはとっさに刺繍布を隠そうとしたが、彼の灰色の瞳はすでにそれを捉えている。
カイゼルは何も言わず、静かに部屋の中央まで歩いてきた。
その動きは静かだがどこか威圧的で、アリシアは針を持つ手を無意識に握りしめた。
「この部屋は気に入ったか?」
低い声で問われ、アリシアは少し戸惑いながら答える。
「はい。素晴らしいお部屋で…感謝しております。」
カイゼルはそれ以上何も言わず、窓辺に立つと外を見つめた。
その背中はどこか寂しげで、アリシアは思わず言葉を飲み込む。
沈黙が続く中、彼女は少しずつ肩の力を抜いていった。
「陛下、もしかして…お忙しい中、無理をして来られたのですか?」
その問いかけに、彼は少しだけ口元を歪めた。
それが微笑なのか嘲笑なのか、アリシアにはわからない。
「お前がどう過ごしているか気になっただけだ。」
アリシアは驚いて彼を見上げた。
彼の言葉は素っ気ないものの、どこか不器用な優しさが感じられるような気がした。
「陛下も…お休みくださいね。」
恐る恐るそう付け加えると、カイゼルは少し驚いたようにアリシアを見た。
「お前もな。」
短い言葉を残し、カイゼルは再び部屋を出ていった。
扉が閉まる音が響くと、アリシアはベッドに腰を下ろし、大きく息をついた。
「少しは私のことを気にしてくれてるのかしら?」
その夜、アリシアはなぜか少しだけ胸が温かくなった。
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