【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

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(9)カイゼルの秘密…? 

その日の午後、アリシアはなんとなく宮殿内を散歩することにした。

あまりにも広大なこの宮殿は、どれだけ歩いても新しい発見が尽きない。

高くそびえる天井、絢爛豪華なシャンデリア、そして左右に並ぶ壮麗な絵画の数々。

それらを眺めるたびに、まるで夢の中に迷い込んだような気持ちになる。  

「これが現実だなんて、まだ信じられないわ…」  

溜息をつきながら進んでいると、ふと廊下の端に見慣れない扉を見つけた。

他の扉よりも少し控えめなデザインで、何か秘密めいた雰囲気が漂っている。  

「ここ、入っちゃまずいのかな…?」  

扉の前で少し迷ったものの、侍女たちの姿も見当たらない今、誰も咎める人はいないだろう。

少しぐらいなら冒険してもいいはず――そんな軽い気持ちで、アリシアはそっと扉の取っ手に手を掛けた。そして静かに開けてみると――  

「なにこれ…」  

目の前に広がったのは、豪華な宮殿とはまるで釣り合わない、驚くほどシンプルな部屋だった。

無駄を徹底的に省いた実用一点張りの家具が並び、壁際には乱雑に積み上げられた本の山。

戦術書や歴史書の類が大半を占めているが、その中に明らかに場違いな一冊が目に留まる。  

『王宮で飼うならこの猫!~性格別おすすめ猫種ガイド~』  

「……え?」  

アリシアは思わず手を伸ばし、その本を手に取った。

表紙には愛らしい猫のイラストが描かれており、ページをめくると、様々な猫種の特徴や世話のコツがカラフルに説明されている。  

「陛下…これ、陛下の部屋よね?」  

自問自答するものの、状況が飲み込めない。

冷酷無情と名高い皇帝が、こんな可愛らしい本を読んでいるなんて、まさかあり得ない。だが、ここは皇帝専用の部屋であることに間違いはないはず。  

「いやいや、誰かが置き忘れただけよね…!」  

彼女が必死に自分を納得させようとしていると、不意に背後から低く冷たい声が響いた。  

「何をしている?」  

その声にアリシアは心臓が飛び跳ねる思いで振り返った。そこには、いつの間にか彼女のすぐ後ろに立っていたカイゼルの姿が。冷ややかな目でこちらをじっと見つめている。  

「あ、あの…これは、その…!」  

慌てて手の中の本を隠そうとするが、カイゼルの視線は鋭く、それを逃さない。  

「その本は…?」  

「こ、これは…えっと、猫の本です!」  

開き直ったようにそう答えた瞬間、カイゼルの眉がほんのわずかに動いた。それは怒りか困惑か、あるいはその両方かもしれない。  

「誰がその本を置いたのか調べさせる。」  

「えっ、ちょっと待って!違うんです!陛下が興味があって置いたんじゃ…?」  

言葉を口にした瞬間、自分が何を言ったのか理解して青ざめるアリシア。

相手はこの国の皇帝だ。

冷酷な決断を下すことで知られる彼が、猫の本に興味を持つなどあり得ない。

だが、彼の返答を待つ間、視線が床に落ち、気まずさでいっぱいだった。  

カイゼルはしばしアリシアを見つめたまま、何も言わずにその場を立ち去った。

その堂々たる背中は普段と変わらないように見えるが、ほんの少し肩がこわばっているようにも思える。  

「えっ…陛下、怒ってるの?それとも…?」  

一人取り残されたアリシアは、呆然とその場に立ち尽くした。

彼の反応があまりにも予想外すぎて、どう受け取ればいいのか分からない。  

猫の本は、彼の趣味なのか、それともただの偶然なのか――この不可解な状況が、後々まで彼女の心を掻き乱すことになるのだった。
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