21 / 57
(21)宮廷での大騒動
しおりを挟む
アリシアが焼き菓子の包みを大事そうに抱え、廊下を歩いていると、突然、庭のほうから喧騒が聞こえてきた。
「捕まえろ!逃がすな!」
「なにやってんの!?そっちじゃない、そっち!」
大声とともに兵士たちがあたふたと右往左往しているのが窓越しに見える。
何事かとアリシアは足を止め、思わず顔を窓に近づけた。
「えっ、何あれ……?」
目を凝らすと、庭の中を黒い何かがすごい勢いで走り回っていた。
その動きは俊敏で、兵士たちが全く追いつけていない。
まるで一人だけ別の世界で自由を謳歌しているかのようだった。
近くにいた侍女が慌てた様子で通り過ぎるのを捕まえて、アリシアは尋ねた。
「何があったの?」
「……それが、陛下の愛鷹の『リーヴェ』が脱走したらしくて!」
侍女はそう言いながらも困惑した表情を浮かべている。
その言葉を聞いた瞬間、アリシアは思わず声を上げた。
「愛鷹!?陛下がそんなもの飼ってるの!?」
想像してみるが、どうにもあの冷酷無表情な皇帝が小鳥ならぬ猛々しい鷹を「愛鷹」などと呼んで可愛がっている姿が結びつかない。
「うそでしょう……いや、でもあの人、意外とそういう一面があったりするのかも?」
アリシアは目の前で繰り広げられるカオスな光景を見つめながら、少し不安げに呟いた。
リーヴェと呼ばれるその鷹は、自由を謳歌しているのか庭を縦横無尽に飛び回り、木々を激しく揺らしている。
そのたびに葉が舞い、兵士たちが大慌てで追いかけ回すが、明らかに分が悪い。
「どうするの、これ……全然捕まらないじゃない。」
アリシアが呆れていると――突然、背後から聞き慣れた低い声がした。
「何をしている。」
その声に驚いて振り向くと、そこには案の定カイゼルが立っていた。
彼の無表情は相変わらずだが、いつもより少し鋭い目つきだ。
「陛下!大変ですよ!リーヴェが暴れて――」
「知っている。余が追いかける。」
そう言うと、カイゼルはためらうことなく自分のコートを脱ぎ捨て、その場に投げ捨てた。
そして次の瞬間には庭へと飛び出していった。その行動の素早さに、アリシアは目を丸くして言葉を失う。
「え、陛下ってあんなに身軽だったの!?」
彼の普段の重厚な雰囲気からは想像もつかないほど、動きが俊敏だ。
軽やかに庭を駆け抜ける姿はどこか野性味を帯びていて、そのギャップに思わず見とれてしまう。
リーヴェはというと、自由を満喫しているらしく、高い木の枝にとまったり、突然急降下したりとやりたい放題だ。
カイゼルはそんなリーヴェを鋭い目で追い、時折短い声を上げる。
「リーヴェ、戻れ。」
その声には冷静さがあるものの、どこか真剣な響きも混じっている。
「ちょっと、あの人本当に捕まえられるの?」
アリシアは心配そうに窓の外を見つめながら、ついそんな言葉を漏らした。
しかし同時に、彼の動きには妙に引き込まれるものがあった。
風を切って走る姿、鷹を追いながら見せるわずかな焦り……普段の彼とは全く違う一面が垣間見える。
「……ちょっとカッコいいかも。」
その言葉が頭をよぎった瞬間、アリシアは自分の顔が熱くなるのを感じた。
「な、何考えてるの私!」
慌ててその考えを振り払おうとするが、彼女の視線はどうしても彼を追い続けてしまう。
カイゼルが枝の上にとまるリーヴェに向かってそっと手を伸ばし、優しく話しかけている様子はどこか神秘的ですらあった。
その後も、二人――いや、一人と一羽の追いかけっこはしばらく続いたが、最後にはカイゼルが無事にリーヴェを手懐けた。
手の中に収まった鷹を撫でる彼の横顔には、微かに安堵の色が浮かんでいるように見えた。
「意外とああいう顔もするんだ……」
アリシアはそんな彼をじっと見つめながら、胸の中で小さな温かさを感じていた。
それは焼き菓子を口にしたときのような、優しくて素朴な温もりだった。
「捕まえろ!逃がすな!」
「なにやってんの!?そっちじゃない、そっち!」
大声とともに兵士たちがあたふたと右往左往しているのが窓越しに見える。
何事かとアリシアは足を止め、思わず顔を窓に近づけた。
「えっ、何あれ……?」
目を凝らすと、庭の中を黒い何かがすごい勢いで走り回っていた。
その動きは俊敏で、兵士たちが全く追いつけていない。
まるで一人だけ別の世界で自由を謳歌しているかのようだった。
近くにいた侍女が慌てた様子で通り過ぎるのを捕まえて、アリシアは尋ねた。
「何があったの?」
「……それが、陛下の愛鷹の『リーヴェ』が脱走したらしくて!」
侍女はそう言いながらも困惑した表情を浮かべている。
その言葉を聞いた瞬間、アリシアは思わず声を上げた。
「愛鷹!?陛下がそんなもの飼ってるの!?」
想像してみるが、どうにもあの冷酷無表情な皇帝が小鳥ならぬ猛々しい鷹を「愛鷹」などと呼んで可愛がっている姿が結びつかない。
「うそでしょう……いや、でもあの人、意外とそういう一面があったりするのかも?」
アリシアは目の前で繰り広げられるカオスな光景を見つめながら、少し不安げに呟いた。
リーヴェと呼ばれるその鷹は、自由を謳歌しているのか庭を縦横無尽に飛び回り、木々を激しく揺らしている。
そのたびに葉が舞い、兵士たちが大慌てで追いかけ回すが、明らかに分が悪い。
「どうするの、これ……全然捕まらないじゃない。」
アリシアが呆れていると――突然、背後から聞き慣れた低い声がした。
「何をしている。」
その声に驚いて振り向くと、そこには案の定カイゼルが立っていた。
彼の無表情は相変わらずだが、いつもより少し鋭い目つきだ。
「陛下!大変ですよ!リーヴェが暴れて――」
「知っている。余が追いかける。」
そう言うと、カイゼルはためらうことなく自分のコートを脱ぎ捨て、その場に投げ捨てた。
そして次の瞬間には庭へと飛び出していった。その行動の素早さに、アリシアは目を丸くして言葉を失う。
「え、陛下ってあんなに身軽だったの!?」
彼の普段の重厚な雰囲気からは想像もつかないほど、動きが俊敏だ。
軽やかに庭を駆け抜ける姿はどこか野性味を帯びていて、そのギャップに思わず見とれてしまう。
リーヴェはというと、自由を満喫しているらしく、高い木の枝にとまったり、突然急降下したりとやりたい放題だ。
カイゼルはそんなリーヴェを鋭い目で追い、時折短い声を上げる。
「リーヴェ、戻れ。」
その声には冷静さがあるものの、どこか真剣な響きも混じっている。
「ちょっと、あの人本当に捕まえられるの?」
アリシアは心配そうに窓の外を見つめながら、ついそんな言葉を漏らした。
しかし同時に、彼の動きには妙に引き込まれるものがあった。
風を切って走る姿、鷹を追いながら見せるわずかな焦り……普段の彼とは全く違う一面が垣間見える。
「……ちょっとカッコいいかも。」
その言葉が頭をよぎった瞬間、アリシアは自分の顔が熱くなるのを感じた。
「な、何考えてるの私!」
慌ててその考えを振り払おうとするが、彼女の視線はどうしても彼を追い続けてしまう。
カイゼルが枝の上にとまるリーヴェに向かってそっと手を伸ばし、優しく話しかけている様子はどこか神秘的ですらあった。
その後も、二人――いや、一人と一羽の追いかけっこはしばらく続いたが、最後にはカイゼルが無事にリーヴェを手懐けた。
手の中に収まった鷹を撫でる彼の横顔には、微かに安堵の色が浮かんでいるように見えた。
「意外とああいう顔もするんだ……」
アリシアはそんな彼をじっと見つめながら、胸の中で小さな温かさを感じていた。
それは焼き菓子を口にしたときのような、優しくて素朴な温もりだった。
3
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる