【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい

文字の大きさ
31 / 57

(31)「カイゼルの不器用な心」

しおりを挟む
カイゼルがふと立ち止まった。

その瞬間、アリシアの胸の中でガッツポーズが上がった。

ああ、ちょっとだけ心の扉が開いたような気がする! 

これは勝利だ、勝利! 

でも、その顔は相変わらず無表情で、まるで自分の気持ちには全く関係ないような顔をしている。

ああ、またこの冷たい感じか…でも、少しは変わったと思いたい!

アリシアは心の中で勝手にカイゼルの気持ちを想像してみた。

「お前が言うなら…」

カイゼルは淡々と、しかしどこか納得していないような顔をして言った。

彼のクールな態度、なんだかこっちの気持ちなんて全然お構いなしって感じだ。

まあ、きっと「うるさいなぁ」って心の中で思ってるに違いない。

そんな妄想を膨らませてみたアリシアは、少しだけ楽しんでいた。

「そうだよねー、だって信じることって大事だもん!カイゼル様だって、信じることができればもっと楽になれるよ。」

アリシアは柔らかい口調で、ほんのり優しさを込めて言った。

カイゼルの心に届けばいいなと思いながら。

「…お前は本当に、どんなことでも軽々と信じるんだな。」

カイゼルがちょっと不敵な笑みを浮かべながら言うと、アリシアはふっと驚いた。

少しだけ、彼の中で驚きの色が見え隠れしているような気がした。

でも、それがただの冷やかしじゃないように思えた。

「うん、信じるのはタダだから!」

アリシアは思わず笑いながら答えた。

その言葉に、カイゼルは微妙に眉をひそめたが、何も言わずに黙って歩き始めた。

アリシアはその表情を見逃さず、心の中でまた小さなガッツポーズを決める。

ふたりはしばらく無言で歩き続けた。

アリシアは気づいた。

あ、ちょっとだけ違うかも…?

カイゼルの歩くスピードが、いつもよりほんの少しだけ遅くなっている。

もしかして、少しは気を使ってくれてるの? 

いや、そんなことないか…でも、ちょっとだけその変化に心が温かくなった。

突然、アリシアはひらめいた。

もっと彼との距離を縮める方法があるかもしれない。

「ねえ、カイゼル様。じゃあ、もし私が信じられたら、ちょっとだけ優しくしてくれる?」

アリシアは意地悪く、けれど少し真剣に言ってみた。

彼の反応が楽しみだった。

カイゼルは一瞬立ち止まり、アリシアの顔をじっと見つめた後、また無表情で言った。

「…お前は本当に、何でも言うな。」

その言葉の裏に、少しだけ驚きが混じっているように見えたけれど、アリシアはそれを見逃さず、心の中でニヤリとした。

「それはもう、私の特技だから。」

アリシアはにっこりと笑って答えた。

少し無理に言ったかもしれないけれど、こういうことを言わないと、なんだか心が軽くならないから。

カイゼルは溜息をついて、再び歩き出した。

その歩き方、少しだけスピードが遅くなっている。

アリシアは、もしかして少し心が開かれたのかなと思いながら、ちょっとだけ嬉しくなった。

そして何度も顔を合わせるたび、カイゼルは少しずつ、以前ほど冷たくなくなってきた。

無表情を崩さないものの、どこか照れくさい瞬間が増えてきたような気がする。

例えば、アリシアが何か言った後、しばらく黙っていることが増えたり、目をそらしたり。

あれ?ちょっとだけ、照れ隠ししてるのかな?

「カイゼル様、今日はなんだか顔色悪いですよ?」

アリシアはちょっと心配そうに言ってみた。

「…余の顔色に、関心を持つな。」

カイゼルは冷たく言ったけれど、その後、微妙に顔が赤くなったように見えた。

まさか照れてる…?

「えー、だってカイゼル様が元気ないと、なんだか心配でしょ?」

アリシアはわざと大きな声で言ってみた。

すると、カイゼルは少しだけ顔をしかめ、目を横にそらした。

「余はただ、考え事をしていただけだ。」

その言い訳はどこか不自然で、アリシアはつい笑ってしまった。

「ふーん、考え事かぁ。そんなことより、顔色よくして、ちょっとは元気出してよ。」

「…余が、顔色を気にするか?」

カイゼルは少し強気に言い返したが、その目にはほんの少しの困惑が浮かんでいた。

「気にしないで元気になる方法を知ってるなら、教えて欲しいくらいだよ。」

アリシアはにっこりと微笑みながら言った。

からかっているわけではなく、ほんとうに彼が少しでも楽になれるように、心からの気持ちを込めて。

「…お前は本当に、面倒なやつだな。」

カイゼルは苦笑いをして、少しだけ頭をかいた。

その一瞬、アリシアの胸はドキッとした。

普段の冷徹なカイゼルからは想像できない、ほんの少しだけ見せた表情が、まるで別人のようだった。

そして、もしかして彼も自分の中で何かを感じているのかもしれないと思った。

「面倒でも、あなたが少しでも笑顔になれるなら、それだけで私は嬉しいよ。」

アリシアは真剣に言った。

その言葉には、どこか本当の思いがこもっていた。

カイゼルはまたもや無言で歩き始めたが、アリシアは確信した。

きっと彼も、少しずつ変わっていく。心を開いてくれる日は、近いのかもしれない。

そう思って、アリシアは心の中で小さな微笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】契約結婚のはずが、旦那様の独占欲が強すぎます!

22時完結
恋愛
契約結婚のはずが、冷徹な旦那様の独占欲が強すぎて、毎日が予想外の展開に。 心優しい私は、彼の冷酷な態度に傷つきながらも次第にその愛に溺れていく。けれど、旦那様の過去の秘密と強すぎる愛情に、私はどう対処すればいいのか…?波乱万丈な日々の中で、二人の関係は一歩一歩進んでいく。果たして、彼の独占欲が私を束縛するのか、それとも二人で幸せな未来を築けるのか?

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...