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「よっこらせっと」

 あたしたちは、入り口そばの棚に皿をしまった。その棚の上には、ツバキの花をあしらった高そうな花びんがある。あたしは気になって、目を止めた。

「あの花びんは?」

 パロパロちゃんは、くちびるに指を押し当ててから言った。

「これは、ぜったい割っちゃいけないよ。すごく高いんだって、ミノワっちが言ってた」
「いくらぐらい?」

 パロパロちゃんは、人差し指をつき立てた。あたしは、身を乗り出した。

「まさか一億?」
「な、わけないでしょ。一万くらい」
「それでも高いね」
「よし、じゃあ、グネグネ、お先にいきまーす」

 グネグネちゃんが、壁にぶら下がっていたゴーグルと手袋を手にし、もうひとつをあたしにわたした。そして、皿を手にすると、

「かあちゃん、ネチネチネチネチ、うるせーんだよ!」

と、火山に向かって投げつけた。皿は見事にこなごなになって散らばった。
「あー、すっきりした。次、ハクちゃん、やってみてー」
「あたしは、ちょっと」

 肩をすくめると、

「なら、わたしが先ね」

と、パロパロちゃんがグネグネちゃんからゴーグルや手袋を受けとる。

「あたしをいじめやがって、本当、ふざけんな!」

 だ円にのびた皿は、回転しながら火山に吸いこまれてはじけた。

 あたしは、ふたりの横顔を見た。表では、なんら普通の女の子にしか見えない。だけど、その小さな体でたくさんの不満や怒りをかかえていたんだ。でも、あたしは? なんらわきあがらないのは、黒いブラックホールのせいなんだろうな。
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