上 下
23 / 28

23

しおりを挟む
「はー、すっきりした。さあ、ハクちゃんの番」

 あたしは肩をすぼめながら、踏み台に立って、「えいっ」と投げた。皿は真っ直ぐ火山に命中した。

「ナイスだねー!」
「お見事っ」

 二人は、にこやかに拍手した。だけど、あたしはうつむいたままだった。
 
「あたし、ぜんぜんダメだよ。気持ちが入らない」
「最初はそんな感じだって」

 パロパロちゃんが、あたしの肩にうでをまわした。

「そうだよー。自分を自分でホメてあげなきゃ、苦しいよー」

 あたしは、はっと息をのんでグネグネちゃんを見た。

「自分をほめる?」
「そうだよ。他の人がほめてくれるなんて、ほとんどないじゃんかー。でも、ダメでも自分だけは最高だってほめてあげないとさー」

 グネグネちゃんは、ヘラヘラしたまゆを、急にキリッとまっすぐに結んだ。それは、さっきまでのグネグネちゃんではなく、まったく違う顔だった。 

「うちのかあちゃんはね、気むずかしい人なんだよー。いちいち作法から何から何まで、うちがカンベキじゃないと、気がすまないんだー。お前はダメ、ダメ、ダメ。毎日言われてつらいんだ」
 あたしは、だまってうなづいた。

「わかってる。母ちゃんが悪い人じゃないとはね。だけど、あまり自分の理想ばかり押し付けられて、苦しいんだー。だから、うち、ここだけは本当の自分でいられるんだー」

「わたしはさ」

 パロパロちゃんは、肩を落としながら、踏み台にすわった。

「前の学校で、一年生の時、すごいいじめにあったんだよ。教科書盗まれたり、体操着にいたずら書きされたり。先生は注意してたけど、裏でしつこくやられてね。いられなくなって、他の学校に転校した。でも、今も学校がこわくてさ。うまく友だちがつくれないんだよ」

 パロパロちゃんは、肩を丸めながら目頭をおさえた。

「今でも夢で、あの体操着を思い出すよ。高笑いする、いじめたやつの顔も、グルグル笑って出て来るよ。こわくてつらくて、目が覚めるよ」
「なら、もう一回、なげちゃえよー」
しおりを挟む

処理中です...