春の風のシノリ

朝日みらい

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「一人でボートに?」

 ママが鼻の下にしわをつくる。北原のおばさんが、あごに手をあてた。

「だったら、華子もいっしょに行ってらっしゃいよ」

 華子は上目づかいで、あたしのブローチを見た。

「わたしはべつにいいですけど」

 となりのシノリがあたしの肩をつついた。

「なんか、感じ悪い子ね!」
「うん!」と、あたしはおもわず返事してしまった。

 まずい。シノリは、あたしにしか見えないんだった。

「なら、ふたりでなかよくね」と、ママは財布からお金をくれた。

 華子はスカートをはらってから、

「おばさま、ありがとうございます」

 なんておじぎして、あたしの前を歩きだす。

 でも広場をぬけて親が見ていないとわかるや、

「はあー」なんて、鼻をあげる。

「春菜のブローチ、ダサーい。わたしの髪留め、おじさまからいただいたの。オーストラリアから送ってくださったのよ」

 そして、コアラの飾りをいじってみせる。

「ちなみに、わたし、並ばないからね。春菜が乗りたいんだから」
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