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5 王太子の憂鬱
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放課後、学園から王宮の離れにいたクリストフ王子は、エミエルの使者からの手紙を再読しながら、力なく椅子に腰かけた。
あの素直だが、わがままなエリエルのこと。必ず、恨み辛み、罵りで埋め尽くされるだろう。そうなれば、父王にそのまま手紙を持参し、婚約破棄の正当化ができると、高をくくっていたのだ。
――ところが、である。
エリエルはクリストフ王子の気持ちを推し量ることが出来なかった自分を恥じるとともに、婚約破棄を受け入れること。そして、王子の今後の幸せを祈るとまで、書かれていた。
王位は長男に、補佐を次男に任せ、自由気ままな人生を謳歌してきた。エリエルも、王族の遠縁にある由緒正しい家柄の割に、言動は素直すぎるほどざっくばらんで明朗な性格だった。
だが、毎朝、けなげに花いじりをするリリアナと出会い、背が高く、ほっそりしていて、その目鼻立ちが整った女生徒と出会った時、背筋に雷を打たれたような衝撃があったのだ。
それからは、互いに好きな植物の話で意気投合して、王立の植物園に出かけたり、珍しい花を探しに、遠方の山まで遊びに出かけたりした。
その中で、物腰が低く、控えめであるが、しっかりとした意思がある彼女と結ばれたいという気持ちが抑えきれなくなった。
学園卒業後の十八才という、結婚期限が迫る中での決断は彼が勝手にしたこともあるし、しかもリリアナは男爵家出身で、結婚資格がまだない。
卒業までの一年と半年で、何とか父王に法令を変えさせたい。そのためには、なんとか、エミエルが、ろくでもない女だと納得して貰わないといけない。
だが、今、王子の気持ちは激しく動揺している。
今朝、リリアナが男爵家の三男アンドレとかいう男に抱きかかえられ、介抱されているのを目撃してしまった。
いったい、あのアンドレと、どんな関係だというんだ。
そうだ。リリアナ嬢に直接会って、どんなことがあったのか、訊いてみればいいのだ。
クリストフ王子は、ただちに従者に命じて馬車を用意させ、カリストル男爵邸まで白馬を走らせた。
銀行家の男爵邸は、城壁の外にある平民居住区でも、一番大きな敷地がある豪奢な屋敷を構えている。
リリアナはいつもの笑顔で、王子を出迎えてくれる。
客室に招かれた王子は、リリアナに率直に今朝、アンドレ・ファイナス男爵とどのようなことがあったのか、問いただした。
リリアナは一瞬、とまどいの表情を浮かべたものの、それはかえってチャンスだととらえて、
「わたくし、今朝、エミエルのお友達から嫌がらせを受けましたの」
と、いじめを受けたことや、それをアンドレ介抱してくれただけで、特別な関係でもないと説明した。
エミエルめ。おしとやかな手紙を送っておきながら、陰で友人を使って愛しきリリアナをいじめていたとは!
「リリアナ、これからエミエル嬢の屋敷に抗議をする。それから、いっしょに行こう」
「でも、わたし、べつにそれほど、気にはしておりませんわ。これくらいのこと、覚悟しておりましたもの」
クリストフ王子は、リリアナをそっと抱き寄せた。
「なんて、けなげな方なんだろう。わたしは、きみを守るつもりだ。さあ、おいで」
「え、ええ」
エミエルの屋敷に、王家の白馬車が到着し、クリストフ王子が怒りにまかせて乗り込んできた。その後ろを、リリアナが肩をすぼめてついていく。
あの素直だが、わがままなエリエルのこと。必ず、恨み辛み、罵りで埋め尽くされるだろう。そうなれば、父王にそのまま手紙を持参し、婚約破棄の正当化ができると、高をくくっていたのだ。
――ところが、である。
エリエルはクリストフ王子の気持ちを推し量ることが出来なかった自分を恥じるとともに、婚約破棄を受け入れること。そして、王子の今後の幸せを祈るとまで、書かれていた。
王位は長男に、補佐を次男に任せ、自由気ままな人生を謳歌してきた。エリエルも、王族の遠縁にある由緒正しい家柄の割に、言動は素直すぎるほどざっくばらんで明朗な性格だった。
だが、毎朝、けなげに花いじりをするリリアナと出会い、背が高く、ほっそりしていて、その目鼻立ちが整った女生徒と出会った時、背筋に雷を打たれたような衝撃があったのだ。
それからは、互いに好きな植物の話で意気投合して、王立の植物園に出かけたり、珍しい花を探しに、遠方の山まで遊びに出かけたりした。
その中で、物腰が低く、控えめであるが、しっかりとした意思がある彼女と結ばれたいという気持ちが抑えきれなくなった。
学園卒業後の十八才という、結婚期限が迫る中での決断は彼が勝手にしたこともあるし、しかもリリアナは男爵家出身で、結婚資格がまだない。
卒業までの一年と半年で、何とか父王に法令を変えさせたい。そのためには、なんとか、エミエルが、ろくでもない女だと納得して貰わないといけない。
だが、今、王子の気持ちは激しく動揺している。
今朝、リリアナが男爵家の三男アンドレとかいう男に抱きかかえられ、介抱されているのを目撃してしまった。
いったい、あのアンドレと、どんな関係だというんだ。
そうだ。リリアナ嬢に直接会って、どんなことがあったのか、訊いてみればいいのだ。
クリストフ王子は、ただちに従者に命じて馬車を用意させ、カリストル男爵邸まで白馬を走らせた。
銀行家の男爵邸は、城壁の外にある平民居住区でも、一番大きな敷地がある豪奢な屋敷を構えている。
リリアナはいつもの笑顔で、王子を出迎えてくれる。
客室に招かれた王子は、リリアナに率直に今朝、アンドレ・ファイナス男爵とどのようなことがあったのか、問いただした。
リリアナは一瞬、とまどいの表情を浮かべたものの、それはかえってチャンスだととらえて、
「わたくし、今朝、エミエルのお友達から嫌がらせを受けましたの」
と、いじめを受けたことや、それをアンドレ介抱してくれただけで、特別な関係でもないと説明した。
エミエルめ。おしとやかな手紙を送っておきながら、陰で友人を使って愛しきリリアナをいじめていたとは!
「リリアナ、これからエミエル嬢の屋敷に抗議をする。それから、いっしょに行こう」
「でも、わたし、べつにそれほど、気にはしておりませんわ。これくらいのこと、覚悟しておりましたもの」
クリストフ王子は、リリアナをそっと抱き寄せた。
「なんて、けなげな方なんだろう。わたしは、きみを守るつもりだ。さあ、おいで」
「え、ええ」
エミエルの屋敷に、王家の白馬車が到着し、クリストフ王子が怒りにまかせて乗り込んできた。その後ろを、リリアナが肩をすぼめてついていく。
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