[完結]婚約破棄されたけど、わたし、あきらめきれません

朝日みらい

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6 償いの花束

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 エミエルは、クリストフ王子からの怒りに任せた抗議を耐え忍んでいた。

 そして、慈愛に満ちた表情を浮かべながら、王子の脇に控えるリリアナを見つめている。

 (二人の行動は、アンドレの計画どおりだわ)

 エリエルは三人の取り巻きに、リリアナにちょっかいを出すように指示をして、やり過ぎだとは思うが、しっかり役目は果たしてくれた。もちろん、口止めはしているから、安心しているが。

 エリエルは、自分が悪役になることは、正直、嫌だし、もともと思ったことは熟慮しないで、そのまま出すタイプだ。

 本来なら、

「確かに命じました。だけど、そもそもは、リリアナにそそのかされて、殿下が婚約破棄するのがてんで可笑しいんですからねっ」

と、言ってやりたいところだ。

 (でも、アンドレの指示は違っている。ここは、冷静にこななきゃ)

 そろそろ、アンドレが助けにきてくれるまでは、ひとりでがんばるしかない。

「リリアナ様をお慕いするお気持ち、分かります。けれど、思い違いも、甚だしいです。お手紙の通り、わたしは婚約破棄について受け入れ、クリストフ様の幸せを望んでいます。ですから、大切なリリアナ様を傷つける気持ちなんてないんです。友だちには、こういう意地悪はしないよう、しっかり注意しておきますね」

 クリストフ王子はその返答に、次の言葉が思い浮かばすに、ただただ呆気にとられていた。

 ここで揚げ足を取ってやりたいのに、完全にかわされたかたちだ。

 クリストフ王子は、わざとエリエルを怒らせるために、

「なにしろ、花壇の折られた花は元に戻してもらうからな。責任は取ってもらう」

 (友だちのやった損害を弁償する? それって、私が命じたと同じになっちゃうじゃないの)

 それでも、エリエルは奥歯を噛みながらも、無理矢理、口元に笑みを浮かべる。

「リリアナ様がせっかく育ていたお花です。友人のアンドレに代わりのお花を摘んでくるようお願いしてありますわ。わたくし、出来る限りの償いはしたいですもの」

 すると、ちょうど良いところで、ドアのノックがして、アンドレが入室してきた。

 手には、様々な種類の野草の花々を抱えている。

 アンドレは下校後、すぐに花壇の花を探しに早馬にまたがり、城壁の外の平民街を抜けて、郊外の農家から野草の花を手に入れてきたのだった。

 王子とリリアナに気づいて、わざと眉をあげて、驚いた色を浮かべ、

「クリフトフ王太子様、それにリリアナ嬢」

と、丁寧に頭を垂れる。

「エミエル嬢、ご依頼されたとおり、花壇の花々と同じものを探して持参しました。どうぞ、においをかいでみてください」

「いい匂いだこと。リリアナさまもどうぞ」

「エミエル嬢、ではお言葉に甘えて」

 リリアナは、クリフトフ王子の前に歩み出て、アンドレの手に抱かれた花束に近づく。
 
 花からの本来の甘い香りだけでなく、この高原のそよ風まで、運んできたようだ。

「これは……!」

 リリアナは、花びらに引き寄せられる蜜蜂のように、アンドレの胸の中に鼻を寄せる。

「お気に召しましたか? リリアナ様」

 リリアナはうっとりした顔で、視線を花束からアンドレへと向けていく。彼の眼鏡ごしの瞳がきらめいている。

「何かついていましたか?」とアンドレがとぼけて言うと、 

「ごめんなさい。あまりにも素適で懐かしく……」

「これを差し上げます。よろしいですよね、エミエル嬢?」

「も、もちろんよ。これで、友だちへの償いとしてくださいね。クリストフ様、これでお気持ちは晴れまして?」

 クリストフ王子は、苦虫をかみつぶしたような渋い顔でリリアナを見ると、

「では、これで失礼するよ。騒いで悪かった」

と、エミエルとアンドレに一礼して、リリアナを伴い出て行った。
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