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第一章
第1話
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神官である少女が馬車の荷台に揺られながらこのヘルデラル皇国の辺境まで来たのは、この田舎町イードでヒドラ獣を退治してほしい、という地元の神官庁からの手紙からだった。
クララは最年少の十五才で、首都のアルデーリアの皇立の神学校で、神の力とされる魔術を学び終えたばかりである。
神学校を卒業した神官は、三年ほど治安の実務を積み、地方の守護となる神官長に任命される。だが、その三年で命を落とす者も多い。
クララは百四十センチほどの身長しかないのに、その身長の数倍も大きなドラゴンやゴブリン、そして得たいの知れないモンスターに立ち向かって行かなくてはならない。
確かに穴が空くほど、魔術の教科書を読み、誰よりも呪文を覚えてはきたが、実際に戦闘をした経験はない。
宿場に泊まりながら、馬車で三日目の昼下がり。そろそろ、目的地のイードの国境まで来ているはずだ。
「クララ様、夕刻には着きそうですぜ」
馬車の御者、セリスが荷台で腰かけている彼女に振り向いて言った。
無精髭を生やし、酒瓶を手放さない。
着ている上着もズボンもところどころすり切れている。
はっきり言って、酔っ払いのダメ男と言ったところだ。
父親の強い勧めで仕方なくこの旅の従者としたものの、クララはこの男に世話が焼けるのである。
「ありがとう、セリスさん。でも、もう少し、やさしい運転はできません?」
クララは、片脇に立てかけてある魔術用の銀杖と、純白のマントの裾をぎゅっと握って、不満を押し殺しながら言った。
「すんません。でも、あなた様みてえな、うら若きお嬢さんを、あんな人食いヒドラと戦わせようなんて。神官庁のお偉いさんも冗談が過ぎますねえ」
「いえいえ。わたしはむしろ、光栄だと思っているんだけどね」
「えっ、それじゃ、何です? もしや、クララ様は志願されたんじゃ……」
「もちろん。主席で卒業したしね」
「ですが、それはあまりに無茶ではないですか」
従者は、馬の手綱を引きながら訊いた。
「ちがうわ。私みたいな若輩者に、これだけの重責を任せてくださるなんて、むしろ、有りがたいと思っているんです」
「はあ。でも、さすがに神官ひとりで退治するのは難しいんじゃないですかね」
セリスは肩をすぼめて、土塊だった砂利と土くればかりの道を見ている。
クララは、つとめて明るい声で言った。
「セリスさん、安心してください。イードの神官様は、すさまじい治癒力の魔術をお持ちだとのこと。だから、必ず助けになってくださるはず」
「治癒力ですか。そりゃ、すごいですな」
セリスが高笑いしたが、クララは苦笑しただけだった。
クララは最年少の十五才で、首都のアルデーリアの皇立の神学校で、神の力とされる魔術を学び終えたばかりである。
神学校を卒業した神官は、三年ほど治安の実務を積み、地方の守護となる神官長に任命される。だが、その三年で命を落とす者も多い。
クララは百四十センチほどの身長しかないのに、その身長の数倍も大きなドラゴンやゴブリン、そして得たいの知れないモンスターに立ち向かって行かなくてはならない。
確かに穴が空くほど、魔術の教科書を読み、誰よりも呪文を覚えてはきたが、実際に戦闘をした経験はない。
宿場に泊まりながら、馬車で三日目の昼下がり。そろそろ、目的地のイードの国境まで来ているはずだ。
「クララ様、夕刻には着きそうですぜ」
馬車の御者、セリスが荷台で腰かけている彼女に振り向いて言った。
無精髭を生やし、酒瓶を手放さない。
着ている上着もズボンもところどころすり切れている。
はっきり言って、酔っ払いのダメ男と言ったところだ。
父親の強い勧めで仕方なくこの旅の従者としたものの、クララはこの男に世話が焼けるのである。
「ありがとう、セリスさん。でも、もう少し、やさしい運転はできません?」
クララは、片脇に立てかけてある魔術用の銀杖と、純白のマントの裾をぎゅっと握って、不満を押し殺しながら言った。
「すんません。でも、あなた様みてえな、うら若きお嬢さんを、あんな人食いヒドラと戦わせようなんて。神官庁のお偉いさんも冗談が過ぎますねえ」
「いえいえ。わたしはむしろ、光栄だと思っているんだけどね」
「えっ、それじゃ、何です? もしや、クララ様は志願されたんじゃ……」
「もちろん。主席で卒業したしね」
「ですが、それはあまりに無茶ではないですか」
従者は、馬の手綱を引きながら訊いた。
「ちがうわ。私みたいな若輩者に、これだけの重責を任せてくださるなんて、むしろ、有りがたいと思っているんです」
「はあ。でも、さすがに神官ひとりで退治するのは難しいんじゃないですかね」
セリスは肩をすぼめて、土塊だった砂利と土くればかりの道を見ている。
クララは、つとめて明るい声で言った。
「セリスさん、安心してください。イードの神官様は、すさまじい治癒力の魔術をお持ちだとのこと。だから、必ず助けになってくださるはず」
「治癒力ですか。そりゃ、すごいですな」
セリスが高笑いしたが、クララは苦笑しただけだった。
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