【完結】お飾り花嫁のはずなのに、なぜか皮肉ばかり言う意地悪伯爵の溺愛が止まりません。

朝日みらい

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(16)深夜の打ち明け話 

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暖炉の前、ぽっと温かい火が揺らめく中、エリーナはアルフォンスの膝に座っていた。

体はすっかり彼に寄りかかり、顔は真っ赤になっていたが、心の中では何も言えないままでいた。

温もりがあまりにも心地よくて、何だか現実じゃないような気がして、エリーナは目を閉じてその感覚に身を任せていた。

「…こんな風にされると、なんだか夢みたいです。」  

エリーナがぽつりと呟いたその瞬間、アルフォンスは少しだけ肩をすくめた後、優しく彼女の肩を抱き寄せた。  

「夢なら、私が覚めないようにしてやる。安心しろ。」  

その言葉は驚くほど温かく、まるで魔法のようにエリーナの心を包み込んだ。

アルフォンスの手が彼女の肩に触れるたびに、エリーナはその優しさに体を預けるしかなかった。

そして、その手のひらが彼女の心に何かを引き出していくようで、突然、過去の記憶が彼女の胸に浮かんできた。  

「…アルフォンスさん。」  

声をかけると、アルフォンスは少しだけ彼女の方を向いた。  

「なんだ?」  

エリーナは少し黙って考え込みながら、ゆっくりと口を開いた。  

「…私、昔、こんな風に誰かに優しくされたこと、ほとんどないんです。」  

アルフォンスの手がわずかに止まり、彼の目がわずかに鋭くなるのを感じた。  

「ほとんど、とは?」  

「…両親が亡くなってから、叔父夫婦に引き取られたけど…結局、私は家族じゃなくてただの使用人みたいな扱いでした。」  

その言葉に、アルフォンスは黙って聞いていたが、彼の目の中には明らかに怒りの色が見えた。

エリーナはその目を見ないようにして続けた。  

「朝から晩まで掃除や洗濯、料理をしても、誰も感謝なんてしてくれなくて…それが普通だって思ってました。でも、辛い時に泣くことすら許されなかったんです。」  

その言葉がエリーナの胸を締めつけた。

彼女の声は静かだったが、どこか遠くを見つめるような、切ない響きがあった。

アルフォンスはただ黙って彼女の話を聞いていたが、目の中にはますます深い怒りがこみ上げていた。  

「そんなこと、私にもっと早く言え。」  

突然、アルフォンスがそう言ったので、エリーナは驚いて彼を見上げた。  

「だって、言ったところで変わるわけじゃないし…」  

「変わる。」  

アルフォンスはきっぱりとそう言った。彼の瞳は真剣そのもので、まるで誓いのようだった。  

「私は、君がそんな目に遭うことを許さない。」  

その言葉に、エリーナは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。  

「アルフォンスさん…?」  

「君を泣かせる者がいるなら、私はそれを叩き潰す。それが過去の記憶だろうと関係ない。」  

アルフォンスの真剣な目が、エリーナの心を揺さぶった。

彼がそこまで言ってくれるなんて、まるで想像もしていなかった。

エリーナは少しだけ目を伏せてから、ゆっくりと口を開いた。  

「…そんな風に言ってもらえるなんて、思ってもみませんでした。」  

アルフォンスは微笑んだが、その笑顔にはどこか真剣な色があった。  

「思ってなかったなら、今から慣れろ。私は君に、もう二度と寂しい思いをさせない。」  

その言葉を聞いた瞬間、エリーナは感情が込み上げてきて、思わず涙がこぼれてしまった。

涙が頬を伝うと、アルフォンスはすぐに彼女の頬に触れて、優しく言った。  

「泣くな。」  

「だ、だって…なんだか、胸がいっぱいで…」  

「泣くくらいなら、もっと私に甘えろ。」  

その言葉に、エリーナは驚きつつも、思わず吹き出してしまった。  

「そんなに簡単に甘えられたら、アルフォンスさんが困るんじゃないですか?」  

アルフォンスはふっと笑って肩をすくめた。  

「困らん。それどころか、歓迎だ。」  

彼の言葉に、エリーナはまた少しだけ頬を赤くしたが、その温かさに安心感を覚え、思わずもう一度彼に寄りかかってしまった。

アルフォンスは優しく彼女を抱きしめ、そのまま二人は静かな時間を共有した。
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