【完結】香りの令嬢は追放されたけど、王子に溺愛されています ~元婚約者に無能と罵られた私、香りの魔法で国を救いました~

朝日みらい

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第5章:あふれる微笑み

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「この“星花”を、王妃様に捧げたいんです」

 わたしはそう言って、温室の奥に咲く淡青色の花にそっと触れました。

 “星花”――夜空に浮かぶ星のように、香りが静かに沁みる癒しの花。香りは控えめで、けれど忘れられない深さを持っています。

 王妃様の枕元に添えるには、きっとぴったりだと思いました。



 調香室に籠もった数日間。

 瓶の中に封じ込める香りを、何度も、何度も調整しました。

 甘すぎず、苦しすぎず、心に寄り添うバランス。

 少しでも王妃様の夜が安らかになるようにと、指先が薬草の粉で染まり、調香帳は何十枚も試作で埋まりました。

 わたしは、もうひとりぼっちじゃありません。

 この香りに、誰かを守りたいという気持ちを込められるようになったから。



「手を、見せてください」

 不意にかけられた言葉に驚いて顔を上げると、リアン王子がすぐ傍にいらっしゃいました。

 いつも通り、涼やかな瞳。でもその奥には、少し心配そうな光が揺れていました。

「ごめんなさい。忙しすぎて、気づいていませんでした……。指先、荒れてますね」

 王子さまは、わたしの手をそっと取って、小瓶から薬を取り出し、静かに塗ってくださったのです。

「あなたの手は、誰かを癒すためにある。僕は、それを守りたいと思っています」

 その声は、香りよりも優しくて、深くて――胸の奥にじんわり染みていきました。

「王妃様に、気に入っていただけるでしょうか……」

 思わず心の不安がこぼれてしまいます。

 でもリアン王子は、わたしの手を握ったまま、まっすぐに言ってくれました。

「きっと。僕が保証します」

 その笑顔が、星花の香りに包まれているようで。

「……それなら、もう少しだけ、頑張れそうです」



 完成した香りを王妃様のもとに届けた日。

 宮廷医師が、香袋を枕元にそっと置くと、王妃様は目を閉じて深く呼吸をし――そして、微笑まれたのです。

「……これは、やさしい香りですね」

 初めて見ました。王妃様の、安らぎに満ちた微笑み。

 その夜、王妃様はぐっすりと眠られたそうです。



「香りが、誰かの笑顔を咲かせることって、本当にあるんですね」

 わたしはそう言って、調香室に戻る途中の中庭で、王子さまと並んで歩いていました。

「うん。君の香りには、“心を包む力”がある。それは誰にでもできることじゃない」

「でも……わたしは、ただ香りが好きなだけで、技術だってまだまだ未熟ですし……」

「だからこそ、君の香りは人を癒すんだよ。努力だけじゃ届かない、“やさしさのかたち”だから」

 その言葉に、なぜか涙がにじみました。

 誰かに、わたしの香りを“本物”だと言ってもらえる日が来るなんて――あの日、舞踏会の隅で立ち尽くしていたわたしに教えてあげたいです。



 王妃様の快復が宮廷内に広まったころ。

 わたしは、温室の小さな花たちに微笑みながら語りかけました。

「ありがとう。わたしは、もう逃げないよ。もっと遠くまで、香りを届けてみたい」

 そっと星花を摘み、瓶に封じる瞬間。

 心が、少しだけ軽くなるような――そんな香りがしました。
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