【完結】香りの令嬢は追放されたけど、王子に溺愛されています ~元婚約者に無能と罵られた私、香りの魔法で国を救いました~

朝日みらい

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第6章:王城の舞踏会にて

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 王妃様のご快復が王都中に広まったころ、王城では盛大な舞踏会が開かれることになりました。

 その知らせを聞いて、屋敷の使用人たちが口々に言いました。

「ご令嬢、ついに王宮の舞踏会にご出席ですって!」
「“奇跡の香香士”と呼ばれているんですよ。貴族たちもざわついております」

 ……うそみたいでした。

 あの日、“無能”の烙印を押されたわたしが、今度は“奇跡”と呼ばれているなんて。

 でも心のどこかで、少しだけ怖かったのです。

 また笑われるのではないか。期待に応えられなかったら、見放されるのではないか――



 王城の舞踏会は、夢のような世界でした。

 大理石の床、金糸で織られた絨毯、無数のシャンデリアが夜を照らし、貴族たちが宝石のような装いで優雅に集っていました。

 わたしは控えめなベージュのドレスに、“星花の香”をほんのり漂わせて、会場の片隅に立っていました。

 誰とも目を合わせず、ただ香袋を握りしめて。

 ――やっぱり、わたしなんか、場違いなんじゃ……

 そんなときでした。

「緊張してる?」

 低く、やさしい声。

 振り向けば、リアン王子が穏やかな笑みを浮かべて、手を差し伸べてくださっていました。

 濃紺の礼装に身を包んだその姿は、まるで夜空の星のようで――

「こんな場所、慣れていなくて……ごめんなさい、うまく笑えないです」

 わたしが弱々しくこぼすと、王子は真っすぐに言ってくれました。

「なら、僕と一緒にいて。君の香りは、どんな宝石よりも、この夜にふさわしい」

 その言葉が、胸の奥にやさしく落ちて、まるで星花の香りのようにじんわり広がっていきました。



 王子さまの手に導かれて踊る中、心が不思議なほど落ち着いていきました。

 足元のステップも、周囲の視線も、気にならなくて。

 香りがそっと纏うように、わたしの不安を包んでくれていたのです。

 そして気づきました。

(この人のそばなら……きっと、わたしの香りはもっと遠くまで届く)

 リアン王子の言葉には、言葉以上の力がある。

 人の心に寄り添うように、香りと同じ“やさしさ”がある。



「王子と踊っていた方が、あの香香士?」
「まあ、なんて控えめな方……それが逆に品を感じますわね」

 舞踏のあいだ、貴族たちのささやき声が耳に届きました。

 それらは以前のような嘲笑ではなく、羨望のまじった敬意の声でした。

 ――変わったのは、香りか、わたしか。

 いいえ。きっとその両方です。

 香りを信じてくれた人がいて、想いを込め続けたわたし自身も、少しずつ変わっていけたのです。



 夜が更けても、わたしの心は揺れていました。

 でもそれは、不安ではなく――喜びでした。

 香りと想いが、誰かの心に届いた。

 そして、それが“愛”へと変わっていく予感が、どこか胸の奥で、静かに灯っていたのです。
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