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第6章:王城の舞踏会にて
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王妃様のご快復が王都中に広まったころ、王城では盛大な舞踏会が開かれることになりました。
その知らせを聞いて、屋敷の使用人たちが口々に言いました。
「ご令嬢、ついに王宮の舞踏会にご出席ですって!」
「“奇跡の香香士”と呼ばれているんですよ。貴族たちもざわついております」
……うそみたいでした。
あの日、“無能”の烙印を押されたわたしが、今度は“奇跡”と呼ばれているなんて。
でも心のどこかで、少しだけ怖かったのです。
また笑われるのではないか。期待に応えられなかったら、見放されるのではないか――
*
王城の舞踏会は、夢のような世界でした。
大理石の床、金糸で織られた絨毯、無数のシャンデリアが夜を照らし、貴族たちが宝石のような装いで優雅に集っていました。
わたしは控えめなベージュのドレスに、“星花の香”をほんのり漂わせて、会場の片隅に立っていました。
誰とも目を合わせず、ただ香袋を握りしめて。
――やっぱり、わたしなんか、場違いなんじゃ……
そんなときでした。
「緊張してる?」
低く、やさしい声。
振り向けば、リアン王子が穏やかな笑みを浮かべて、手を差し伸べてくださっていました。
濃紺の礼装に身を包んだその姿は、まるで夜空の星のようで――
「こんな場所、慣れていなくて……ごめんなさい、うまく笑えないです」
わたしが弱々しくこぼすと、王子は真っすぐに言ってくれました。
「なら、僕と一緒にいて。君の香りは、どんな宝石よりも、この夜にふさわしい」
その言葉が、胸の奥にやさしく落ちて、まるで星花の香りのようにじんわり広がっていきました。
*
王子さまの手に導かれて踊る中、心が不思議なほど落ち着いていきました。
足元のステップも、周囲の視線も、気にならなくて。
香りがそっと纏うように、わたしの不安を包んでくれていたのです。
そして気づきました。
(この人のそばなら……きっと、わたしの香りはもっと遠くまで届く)
リアン王子の言葉には、言葉以上の力がある。
人の心に寄り添うように、香りと同じ“やさしさ”がある。
*
「王子と踊っていた方が、あの香香士?」
「まあ、なんて控えめな方……それが逆に品を感じますわね」
舞踏のあいだ、貴族たちのささやき声が耳に届きました。
それらは以前のような嘲笑ではなく、羨望のまじった敬意の声でした。
――変わったのは、香りか、わたしか。
いいえ。きっとその両方です。
香りを信じてくれた人がいて、想いを込め続けたわたし自身も、少しずつ変わっていけたのです。
*
夜が更けても、わたしの心は揺れていました。
でもそれは、不安ではなく――喜びでした。
香りと想いが、誰かの心に届いた。
そして、それが“愛”へと変わっていく予感が、どこか胸の奥で、静かに灯っていたのです。
その知らせを聞いて、屋敷の使用人たちが口々に言いました。
「ご令嬢、ついに王宮の舞踏会にご出席ですって!」
「“奇跡の香香士”と呼ばれているんですよ。貴族たちもざわついております」
……うそみたいでした。
あの日、“無能”の烙印を押されたわたしが、今度は“奇跡”と呼ばれているなんて。
でも心のどこかで、少しだけ怖かったのです。
また笑われるのではないか。期待に応えられなかったら、見放されるのではないか――
*
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誰とも目を合わせず、ただ香袋を握りしめて。
――やっぱり、わたしなんか、場違いなんじゃ……
そんなときでした。
「緊張してる?」
低く、やさしい声。
振り向けば、リアン王子が穏やかな笑みを浮かべて、手を差し伸べてくださっていました。
濃紺の礼装に身を包んだその姿は、まるで夜空の星のようで――
「こんな場所、慣れていなくて……ごめんなさい、うまく笑えないです」
わたしが弱々しくこぼすと、王子は真っすぐに言ってくれました。
「なら、僕と一緒にいて。君の香りは、どんな宝石よりも、この夜にふさわしい」
その言葉が、胸の奥にやさしく落ちて、まるで星花の香りのようにじんわり広がっていきました。
*
王子さまの手に導かれて踊る中、心が不思議なほど落ち着いていきました。
足元のステップも、周囲の視線も、気にならなくて。
香りがそっと纏うように、わたしの不安を包んでくれていたのです。
そして気づきました。
(この人のそばなら……きっと、わたしの香りはもっと遠くまで届く)
リアン王子の言葉には、言葉以上の力がある。
人の心に寄り添うように、香りと同じ“やさしさ”がある。
*
「王子と踊っていた方が、あの香香士?」
「まあ、なんて控えめな方……それが逆に品を感じますわね」
舞踏のあいだ、貴族たちのささやき声が耳に届きました。
それらは以前のような嘲笑ではなく、羨望のまじった敬意の声でした。
――変わったのは、香りか、わたしか。
いいえ。きっとその両方です。
香りを信じてくれた人がいて、想いを込め続けたわたし自身も、少しずつ変わっていけたのです。
*
夜が更けても、わたしの心は揺れていました。
でもそれは、不安ではなく――喜びでした。
香りと想いが、誰かの心に届いた。
そして、それが“愛”へと変わっていく予感が、どこか胸の奥で、静かに灯っていたのです。
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