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第1章 光の栞と八歳の奇跡
春の風が、中庭に咲く花々をゆるやかに揺らしていました。
リンデンの木の下で、わたしは膝の上に木片を置き、小さな彫刻刀を両手で握っています。
木の香り、鳥のさえずり、陽だまりのぬくもり。どれも優しくて、心がくすぐったくなるような穏やかな午後でした。
「……ふふっ。これが完成したら、お兄さまの勉強の本に挟めるんです。今度こそ喜んでくださるはずです!」
お兄さまはいつも難しい顔で本を読んでいて、時々眉をひそめるんです。だから、せめてそのときにちょっとでも笑顔になってほしくて――。
栞の形は細く、先端には小さな花の模様。豆粒みたいな花びらをひとつひとつ彫るのは、息が止まるほど緊張します。
「……お嬢様? ああ、またですか。わたくし、昨日申し上げましたよね。淑女の手は針と筆を持つためのものですと」
いつものように、執事見習い兼付き人のソフィアさんがやってきます。彼女はいつも心配性で、でも実はとっても優しい人です。
わたしは振り返って笑いました。
「まだちょっとだけなんです。今度こそ上手にできる予感がして」
「マリア様、予感では済まないこともございますのよ。……ああもう、またそんな危なっかしい持ち方して!」
「ひゃっ……!」
注意されて慌てて手元を見た瞬間、ナイフの刃が木に引っかかって、くるりと木片が飛んでしまいました。
軽い音をたてて床に転がったそれが、窓から差す陽の光を反射して――。
次の瞬間、まぶしい光が部屋じゅうを包みこみました。
「ま、眩しいっ……!」
「お嬢様!?」
ソフィアさんの悲鳴が遠く聞こえました。
光は暖かく、やさしく、でも確かに現実離れしていて。
頬にあたる空気までもがほんのり甘く香っていました。
光が静かに収まったあと、わたしの膝の上にあったのは――淡い金色に輝く栞。
「これ……わたしが、作ったんですよね……?」
指先で触れると、まるで心臓みたいに、ふわっと脈打ちました。
ソフィアさんは青ざめた顔で、かすれ声を漏らします。
「こ、これは……聖具の反応……。なんということ、聖なる光を発するなんて……!」
「せ、聖具……って、教会の偉い人が使うものですよね? でも、わたしはただ木を削っただけで……」
「マリア様、これはもう、ご報告しなければ……!」
ソフィアさんは慌てて廊下へ駆け出していきました。
部屋に残されたわたしは、光る栞を胸に抱きしめ、呆然と立ち尽くしました。
あたたかくて、でもどこか切ない光でした。
それが、わたしの運命を変える最初の“奇跡”だなんて、この時は思いもしなかったのです。
* * *
数日後、王都から使者が来ました。
王の命により、“聖なる奇跡”を起こした少女を王宮に招く――という、立派な封蝋つきの書状と共に。
「マリア、これは名誉なことよ。堂々としなさい」
お母さまはそう言って、わたしの髪を丁寧に結ってくださいました。緊張でガチガチのわたしの肩を撫でながら、微笑んでくださるその優しさに、涙が出そうになります。
「だ、大丈夫です! ちゃんとご挨拶してきますっ!」
その元気だけは褒めてもらえたけど、胸の鼓動はずっと落ち着きませんでした。
馬車の車輪が石畳を鳴らす音が、やけに響きます。
王宮の門が見えた瞬間、思わず息を飲みました。
大理石の柱が何本も並ぶ広間、前には銀の鎧を着た騎士たち。
その中の一人が、わたしの方へ歩み寄ってきました。
金色の髪を短く束ねた少年で、青いマントが風に靡いています。
「……怖がらなくていい。俺がついている」
まっすぐにわたしを見つめてそう言った人――それが、勇者の末裔と呼ばれるバルト・エインズワースさんでした。
その眼差しは太陽のように明るく、けれどどこか穏やかで。
はじめてなのに、どうしてだか安心できたのを覚えています。
「マリア・モーリントンです。き、今日はよろしくお願いします……!」
「バルトでいい。緊張してないか?」
「すっごく、してます……」
「はは、それなら俺も同じだな。王宮の式典なんて、誰だってこわいさ」
そう言って笑う顔が、どうしようもなく爽やかで。
心臓がポンっと弾けたように熱くなりました。
――この人は、きっと特別な人になる。根拠もなく、そんな気がしてならなかったのです。
* * *
「マリア・モーリントン。顔を上げなさい」
王座の前、光り輝く玉座の上にいたのは、サウズリンド王国の王様。
穏やかな声に導かれるように、わたしはそっと顔を上げます。
王様の瞳は優しく光っていて、まっすぐにわたしを見つめていました。
その視線の中に、「怖がらなくていい」という響きがあり、少しだけ緊張が解けるのを感じました。
「そなたが奇跡を起こした少女か……。まだ幼いが、心に光を持っているようだ。――そなたを、“聖女”として認めよう」
「せ、聖女……? わたしが?」
「うむ。そなたの作った栞は聖具となった。神の祝福を宿す者は、この国でも久しく現れていない。誇りなさい」
聖女。
なんだか、遠い響き。
でもその時のわたしは、ただ素直にうなずいて言いました。
「わたし……がんばります。誰かのために、光になりたいから」
その場にいた人たちが小さくどよめいたのを覚えています。
陛下はやわらかく笑って、玉座に背をあずけられました。
「うむ、その心意気よ。――“聖女マリア”に祝福を与える」
王の言葉と同時に、荘厳な鐘の音が鳴り響きました。
わたしの髪がふわりと揺れ、栞の光が周囲を照らす。
誰もが息を飲む中、わたしはただ――お兄さまの笑顔と、バルトさんの言葉を思い出していました。
* * *
「マリア!」
式典が終わって控え室に戻ると、バルトが駆け寄ってきました。
差し出された手には、冷たい水滴のついたグラス。
「お疲れさま。ほら、これ飲め。喉、乾いてるだろ?」
「あ……ありがとうございます……っ!」
レモネードの酸味が喉を通ると、張りつめていた緊張が一気にほぐれるようでした。
椅子の背にもたれたところで、バルトがにやりと笑いました。
「王都で一番の話題になってるぞ。泣き虫で小さかったモーリントン家の娘が、“光の聖女”だってさ」
「な、泣き虫は余計ですっ!」
むくれると、彼は悪戯っぽく頭を撫でてきました。
「はは、ごめんごめん。でも本当、よくがんばったな。すげぇよ、マリア」
その手の温かさに、思わず顔が赤くなって視線を下げます。
こうして褒められるなんて、嬉しくて、でも恥ずかしくて――心臓が忙しいです。
「わ、わたし、まだ何もしてません。あの栞だって、偶然ですし……」
「偶然じゃねえよ。おまえが真っすぐで優しいからだ。だから光が生まれたんだろ」
そう言って、軽く手を取られました。
その指先は温かくて、震えるように優しかった。
顔を上げると、バルトの瞳の中に自分の姿が映っていました。
「ねぇ、バルトさん」
「ん?」
「わたし……これから、どうなるんでしょう。聖女って、怖い言葉です」
「大丈夫だ。いつか何があっても、俺が護るって誓う」
「……誓う?」
「そう。王にじゃない、神にもじゃない。おまえに、だ」
その言葉が、心の奥に静かに沁みていきました。
運命を信じるような、そんな一瞬。
「……はい。わたしも、約束します。わたし、もう泣きません。バルトさんが笑って見てくれるように、ちゃんと立てる聖女になります」
ふたりの間を春の風が通り抜けて、カーテンが揺れました。
栞の光が、テーブルの上でやさしく瞬きます。
リンデンの木の下で、わたしは膝の上に木片を置き、小さな彫刻刀を両手で握っています。
木の香り、鳥のさえずり、陽だまりのぬくもり。どれも優しくて、心がくすぐったくなるような穏やかな午後でした。
「……ふふっ。これが完成したら、お兄さまの勉強の本に挟めるんです。今度こそ喜んでくださるはずです!」
お兄さまはいつも難しい顔で本を読んでいて、時々眉をひそめるんです。だから、せめてそのときにちょっとでも笑顔になってほしくて――。
栞の形は細く、先端には小さな花の模様。豆粒みたいな花びらをひとつひとつ彫るのは、息が止まるほど緊張します。
「……お嬢様? ああ、またですか。わたくし、昨日申し上げましたよね。淑女の手は針と筆を持つためのものですと」
いつものように、執事見習い兼付き人のソフィアさんがやってきます。彼女はいつも心配性で、でも実はとっても優しい人です。
わたしは振り返って笑いました。
「まだちょっとだけなんです。今度こそ上手にできる予感がして」
「マリア様、予感では済まないこともございますのよ。……ああもう、またそんな危なっかしい持ち方して!」
「ひゃっ……!」
注意されて慌てて手元を見た瞬間、ナイフの刃が木に引っかかって、くるりと木片が飛んでしまいました。
軽い音をたてて床に転がったそれが、窓から差す陽の光を反射して――。
次の瞬間、まぶしい光が部屋じゅうを包みこみました。
「ま、眩しいっ……!」
「お嬢様!?」
ソフィアさんの悲鳴が遠く聞こえました。
光は暖かく、やさしく、でも確かに現実離れしていて。
頬にあたる空気までもがほんのり甘く香っていました。
光が静かに収まったあと、わたしの膝の上にあったのは――淡い金色に輝く栞。
「これ……わたしが、作ったんですよね……?」
指先で触れると、まるで心臓みたいに、ふわっと脈打ちました。
ソフィアさんは青ざめた顔で、かすれ声を漏らします。
「こ、これは……聖具の反応……。なんということ、聖なる光を発するなんて……!」
「せ、聖具……って、教会の偉い人が使うものですよね? でも、わたしはただ木を削っただけで……」
「マリア様、これはもう、ご報告しなければ……!」
ソフィアさんは慌てて廊下へ駆け出していきました。
部屋に残されたわたしは、光る栞を胸に抱きしめ、呆然と立ち尽くしました。
あたたかくて、でもどこか切ない光でした。
それが、わたしの運命を変える最初の“奇跡”だなんて、この時は思いもしなかったのです。
* * *
数日後、王都から使者が来ました。
王の命により、“聖なる奇跡”を起こした少女を王宮に招く――という、立派な封蝋つきの書状と共に。
「マリア、これは名誉なことよ。堂々としなさい」
お母さまはそう言って、わたしの髪を丁寧に結ってくださいました。緊張でガチガチのわたしの肩を撫でながら、微笑んでくださるその優しさに、涙が出そうになります。
「だ、大丈夫です! ちゃんとご挨拶してきますっ!」
その元気だけは褒めてもらえたけど、胸の鼓動はずっと落ち着きませんでした。
馬車の車輪が石畳を鳴らす音が、やけに響きます。
王宮の門が見えた瞬間、思わず息を飲みました。
大理石の柱が何本も並ぶ広間、前には銀の鎧を着た騎士たち。
その中の一人が、わたしの方へ歩み寄ってきました。
金色の髪を短く束ねた少年で、青いマントが風に靡いています。
「……怖がらなくていい。俺がついている」
まっすぐにわたしを見つめてそう言った人――それが、勇者の末裔と呼ばれるバルト・エインズワースさんでした。
その眼差しは太陽のように明るく、けれどどこか穏やかで。
はじめてなのに、どうしてだか安心できたのを覚えています。
「マリア・モーリントンです。き、今日はよろしくお願いします……!」
「バルトでいい。緊張してないか?」
「すっごく、してます……」
「はは、それなら俺も同じだな。王宮の式典なんて、誰だってこわいさ」
そう言って笑う顔が、どうしようもなく爽やかで。
心臓がポンっと弾けたように熱くなりました。
――この人は、きっと特別な人になる。根拠もなく、そんな気がしてならなかったのです。
* * *
「マリア・モーリントン。顔を上げなさい」
王座の前、光り輝く玉座の上にいたのは、サウズリンド王国の王様。
穏やかな声に導かれるように、わたしはそっと顔を上げます。
王様の瞳は優しく光っていて、まっすぐにわたしを見つめていました。
その視線の中に、「怖がらなくていい」という響きがあり、少しだけ緊張が解けるのを感じました。
「そなたが奇跡を起こした少女か……。まだ幼いが、心に光を持っているようだ。――そなたを、“聖女”として認めよう」
「せ、聖女……? わたしが?」
「うむ。そなたの作った栞は聖具となった。神の祝福を宿す者は、この国でも久しく現れていない。誇りなさい」
聖女。
なんだか、遠い響き。
でもその時のわたしは、ただ素直にうなずいて言いました。
「わたし……がんばります。誰かのために、光になりたいから」
その場にいた人たちが小さくどよめいたのを覚えています。
陛下はやわらかく笑って、玉座に背をあずけられました。
「うむ、その心意気よ。――“聖女マリア”に祝福を与える」
王の言葉と同時に、荘厳な鐘の音が鳴り響きました。
わたしの髪がふわりと揺れ、栞の光が周囲を照らす。
誰もが息を飲む中、わたしはただ――お兄さまの笑顔と、バルトさんの言葉を思い出していました。
* * *
「マリア!」
式典が終わって控え室に戻ると、バルトが駆け寄ってきました。
差し出された手には、冷たい水滴のついたグラス。
「お疲れさま。ほら、これ飲め。喉、乾いてるだろ?」
「あ……ありがとうございます……っ!」
レモネードの酸味が喉を通ると、張りつめていた緊張が一気にほぐれるようでした。
椅子の背にもたれたところで、バルトがにやりと笑いました。
「王都で一番の話題になってるぞ。泣き虫で小さかったモーリントン家の娘が、“光の聖女”だってさ」
「な、泣き虫は余計ですっ!」
むくれると、彼は悪戯っぽく頭を撫でてきました。
「はは、ごめんごめん。でも本当、よくがんばったな。すげぇよ、マリア」
その手の温かさに、思わず顔が赤くなって視線を下げます。
こうして褒められるなんて、嬉しくて、でも恥ずかしくて――心臓が忙しいです。
「わ、わたし、まだ何もしてません。あの栞だって、偶然ですし……」
「偶然じゃねえよ。おまえが真っすぐで優しいからだ。だから光が生まれたんだろ」
そう言って、軽く手を取られました。
その指先は温かくて、震えるように優しかった。
顔を上げると、バルトの瞳の中に自分の姿が映っていました。
「ねぇ、バルトさん」
「ん?」
「わたし……これから、どうなるんでしょう。聖女って、怖い言葉です」
「大丈夫だ。いつか何があっても、俺が護るって誓う」
「……誓う?」
「そう。王にじゃない、神にもじゃない。おまえに、だ」
その言葉が、心の奥に静かに沁みていきました。
運命を信じるような、そんな一瞬。
「……はい。わたしも、約束します。わたし、もう泣きません。バルトさんが笑って見てくれるように、ちゃんと立てる聖女になります」
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