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王宮の中心部にある侯爵家から、実家の子爵邸までは馬車でも1時間ほどの郊外にある。
だが、軽やかにスバルの蹄は石畳の道を走り抜け、わずか15分ほどで、実家の門前に立っていた。侯爵家に比べたら敷地は狭く、こじんまりとした印象だ。
それでも、かつて、さらに1時間ほども遠方にある男爵家に比べたら、ここは都の中でも貴族の邸宅がひしめく、閑静な住宅街である。それに比べたら、男爵家の屋敷は平民たちの家屋とも混在している地区で治安も悪く、人混みも酷かった。
(わたしが結婚したおかげで、こんなに良い暮らしになって……)
セラフィーヌは、実家の門扉に手をかけた。そのまま、寝静まった寝室に忍び込んで、家族を驚かしてやりたいような悪戯心も、一瞬脳裏によぎる。
けれども、セラフィーヌは肩をすぼめて、再び、スバルの背に乗った。
(中に入らないのか)
スバルは歩きながら、尋ねた。
(はじめはそう思った。わたしの犠牲で、家族だけ幸せになるなんて。でも……)
(でも、どうした?)
(いざ、やろうとしたら、何だかばかばかしく思えてきちゃった)
外灯が路上を照らしていた。夜空には青白い月と、無数の星々が煌めいている。
(セラフィーヌ。これから、どうする。家出でもするか。引き返すか)
スバルが尋ねた。
(そうね……)
馬上で、セラフィーヌは夜空を見あげながら、しばらく思案した後、
(見晴らしの良い所に行きたいかしら)
と、頬笑んだ。
スバルは長い首で頷くと、スキップするように、軽やかな足取りで都を取り囲む城壁を出た。平民たちの市街地を抜けた先にある小高い丘へ向けて走っていく。
(スバル、どうしてこんな道に詳しいの?)
セラフィーヌは、手なれたようにスバルが誘導してくれるので、妙に気になった。
(俺は、国王直属の騎士団に所属していた)
(スバルが、騎士だった?)
(信じられないのは、無理ない)
セラフィーヌは、首を振りながら、胸の中で言った。
(そうじゃなくて。ただ、どうして騎士が馬になったのかなって、思っただけ)
スバルは、ためらいがちに、
(三年前、俺は国王の密命で、辺境地帯に視察に出かけた。その時に警備兵が村人への略奪行為を目撃して報告しようとして……口封じに殺された)
(こ、殺されたって……お義父様の命令?)
(ヒラリー、アルベールの一族全員が知ってるはずだ。だから、俺の一族への恨みの想いが、侯爵家の軍馬に乗り移ったんだろう)
(……!)
セラフィーヌは、驚きのあまり、唇が震えた。
スバルは林の舗装されていない、土塊だった道を登っていった。次第に夜が明けようとしていた。
「あ、大変!」
曲がり角で、セラフィーヌは叫び声を上げた。馬車がぬかるみにはまって動けなくなっている。金細工で飾られた美しい車体の中には怯えきった令嬢の顔が見える。御者は逃げ去った後で、その周りには5、6頭の狼が二頭の白馬に群がり、すでに馬たちは息絶えていた。
一匹の狼が、赤い目を光らせて、セラフィーヌに気づいた。うなり声を上げて仲間を呼ぶと、一斉にこちらに近づいてくる。
だが、軽やかにスバルの蹄は石畳の道を走り抜け、わずか15分ほどで、実家の門前に立っていた。侯爵家に比べたら敷地は狭く、こじんまりとした印象だ。
それでも、かつて、さらに1時間ほども遠方にある男爵家に比べたら、ここは都の中でも貴族の邸宅がひしめく、閑静な住宅街である。それに比べたら、男爵家の屋敷は平民たちの家屋とも混在している地区で治安も悪く、人混みも酷かった。
(わたしが結婚したおかげで、こんなに良い暮らしになって……)
セラフィーヌは、実家の門扉に手をかけた。そのまま、寝静まった寝室に忍び込んで、家族を驚かしてやりたいような悪戯心も、一瞬脳裏によぎる。
けれども、セラフィーヌは肩をすぼめて、再び、スバルの背に乗った。
(中に入らないのか)
スバルは歩きながら、尋ねた。
(はじめはそう思った。わたしの犠牲で、家族だけ幸せになるなんて。でも……)
(でも、どうした?)
(いざ、やろうとしたら、何だかばかばかしく思えてきちゃった)
外灯が路上を照らしていた。夜空には青白い月と、無数の星々が煌めいている。
(セラフィーヌ。これから、どうする。家出でもするか。引き返すか)
スバルが尋ねた。
(そうね……)
馬上で、セラフィーヌは夜空を見あげながら、しばらく思案した後、
(見晴らしの良い所に行きたいかしら)
と、頬笑んだ。
スバルは長い首で頷くと、スキップするように、軽やかな足取りで都を取り囲む城壁を出た。平民たちの市街地を抜けた先にある小高い丘へ向けて走っていく。
(スバル、どうしてこんな道に詳しいの?)
セラフィーヌは、手なれたようにスバルが誘導してくれるので、妙に気になった。
(俺は、国王直属の騎士団に所属していた)
(スバルが、騎士だった?)
(信じられないのは、無理ない)
セラフィーヌは、首を振りながら、胸の中で言った。
(そうじゃなくて。ただ、どうして騎士が馬になったのかなって、思っただけ)
スバルは、ためらいがちに、
(三年前、俺は国王の密命で、辺境地帯に視察に出かけた。その時に警備兵が村人への略奪行為を目撃して報告しようとして……口封じに殺された)
(こ、殺されたって……お義父様の命令?)
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(……!)
セラフィーヌは、驚きのあまり、唇が震えた。
スバルは林の舗装されていない、土塊だった道を登っていった。次第に夜が明けようとしていた。
「あ、大変!」
曲がり角で、セラフィーヌは叫び声を上げた。馬車がぬかるみにはまって動けなくなっている。金細工で飾られた美しい車体の中には怯えきった令嬢の顔が見える。御者は逃げ去った後で、その周りには5、6頭の狼が二頭の白馬に群がり、すでに馬たちは息絶えていた。
一匹の狼が、赤い目を光らせて、セラフィーヌに気づいた。うなり声を上げて仲間を呼ぶと、一斉にこちらに近づいてくる。
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