【完結】これは望んだ結婚じゃありませんでした! じゃじゃ馬侯爵令嬢の不思議な話

朝日みらい

文字の大きさ
5 / 8

(五)

しおりを挟む
 王宮の中心部にある侯爵家から、実家の子爵邸までは馬車でも1時間ほどの郊外にある。

 だが、軽やかにスバルの蹄は石畳の道を走り抜け、わずか15分ほどで、実家の門前に立っていた。侯爵家に比べたら敷地は狭く、こじんまりとした印象だ。

 それでも、かつて、さらに1時間ほども遠方にある男爵家に比べたら、ここは都の中でも貴族の邸宅がひしめく、閑静な住宅街である。それに比べたら、男爵家の屋敷は平民たちの家屋とも混在している地区で治安も悪く、人混みも酷かった。

(わたしが結婚したおかげで、こんなに良い暮らしになって……)

 セラフィーヌは、実家の門扉に手をかけた。そのまま、寝静まった寝室に忍び込んで、家族を驚かしてやりたいような悪戯心も、一瞬脳裏によぎる。

 けれども、セラフィーヌは肩をすぼめて、再び、スバルの背に乗った。

(中に入らないのか)

 スバルは歩きながら、尋ねた。

(はじめはそう思った。わたしの犠牲で、家族だけ幸せになるなんて。でも……)

(でも、どうした?)

(いざ、やろうとしたら、何だかばかばかしく思えてきちゃった)

 外灯が路上を照らしていた。夜空には青白い月と、無数の星々が煌めいている。

(セラフィーヌ。これから、どうする。家出でもするか。引き返すか)

 スバルが尋ねた。

(そうね……)

 馬上で、セラフィーヌは夜空を見あげながら、しばらく思案した後、

(見晴らしの良い所に行きたいかしら)

と、頬笑んだ。 

 スバルは長い首で頷くと、スキップするように、軽やかな足取りで都を取り囲む城壁を出た。平民たちの市街地を抜けた先にある小高い丘へ向けて走っていく。

(スバル、どうしてこんな道に詳しいの?)

 セラフィーヌは、手なれたようにスバルが誘導してくれるので、妙に気になった。

(俺は、国王直属の騎士団に所属していた)

(スバルが、騎士だった?)

(信じられないのは、無理ない)

 セラフィーヌは、首を振りながら、胸の中で言った。

(そうじゃなくて。ただ、どうして騎士が馬になったのかなって、思っただけ)

 スバルは、ためらいがちに、

(三年前、俺は国王の密命で、辺境地帯に視察に出かけた。その時に警備兵が村人への略奪行為を目撃して報告しようとして……口封じに殺された)

(こ、殺されたって……お義父様の命令?)

(ヒラリー、アルベールの一族全員が知ってるはずだ。だから、俺の一族への恨みの想いが、侯爵家の軍馬に乗り移ったんだろう)

(……!)

 セラフィーヌは、驚きのあまり、唇が震えた。

 スバルは林の舗装されていない、土塊だった道を登っていった。次第に夜が明けようとしていた。

「あ、大変!」

 曲がり角で、セラフィーヌは叫び声を上げた。馬車がぬかるみにはまって動けなくなっている。金細工で飾られた美しい車体の中には怯えきった令嬢の顔が見える。御者は逃げ去った後で、その周りには5、6頭の狼が二頭の白馬に群がり、すでに馬たちは息絶えていた。

 一匹の狼が、赤い目を光らせて、セラフィーヌに気づいた。うなり声を上げて仲間を呼ぶと、一斉にこちらに近づいてくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

せめて、淑女らしく~お飾りの妻だと思っていました

藍田ひびき
恋愛
「最初に言っておく。俺の愛を求めるようなことはしないで欲しい」  リュシエンヌは婚約者のオーバン・ルヴェリエ伯爵からそう告げられる。不本意であっても傷物令嬢であるリュシエンヌには、もう後はない。 「お飾りの妻でも構わないわ。淑女らしく務めてみせましょう」  そうしてオーバンへ嫁いだリュシエンヌは正妻としての務めを精力的にこなし、徐々に夫の態度も軟化していく。しかしそこにオーバンと第三王女が恋仲であるという噂を聞かされて……? ※ なろうにも投稿しています。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

処理中です...