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第3章:まさかの夜の訪問者!?塀越しトークが止まりません!
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その夜、わたしは眠れませんでした。
昼間の礼拝堂でのケンカが尾を引いているせい――というより、口論のあとに残る胸のモヤモヤが、どうにも消えなかったのです。
「もう、ほんとに……レオンの顔なんて思い出したくないのに……」
布団に顔を埋めながら何度もごろごろ転がって、それでも眠気は来てくれません。
仕方なく、バルコニーに出て夜風を浴びることにしました。
そして、庭へと降りる階段をそっと下りて、月明かりの照らす芝に立った瞬間――
「……お前、まだ起きてたのか」
不意に塀の向こうから声がして、心臓が跳ねました。
「な、なななんで!? レオン!? あんた何してるの!?」
「いや……暇だったから、つい来た。顔見たくなっただけだ」
「いやいやいやいや、正気ですか!? 塀越しで愛の告白って、どこの恋愛小説!?」
「誰が告白した。顔見たかっただけだっつってんだろ」
塀の上から顔をのぞかせたレオンは、普段通りの生意気顔だけど、少しだけ照れているようにも見えました。
月明かりのおかげか、それとも……単なる視力の錯覚でしょうか。
「忍び込むとか、馬鹿ですか!? 今ここに衛兵いたら射抜かれてますよ!? 死にますよ!?」
「俺を撃てるような衛兵、お前の家にはいないだろ。毎回、俺のほうが先に気づいてんだから」
「うぅ……確かに……!」
悔しいけれど否定できません。
そうして、なぜか始まった“夜の塀越し会話”。
最初は、ただの小競り合いの延長だったはずなのに――
「お前、意外と悩み多そうだな」
「は? 何を突然」
「顔に出てる。眉間のシワとか」
「うるさいです!」
毒舌の応酬がありながらも、どこか優しさも混じってきて。
わたしも、ついぽろりと口を滑らせてしまいました。
「……婚約の話が出てるんです。勝手に。家同士の都合で」
「はあ? なんでだよ。お前にその気あるのか?」
「ないです。けど、誰も聞いてくれないんです。わたしの“本音”なんて」
夜風に吹かれながら、ふと胸の奥にしまっていた気持ちが顔を出します。
塀越しのレオンが、それを遮るように言いました。
「だったら、俺が聞いてやるよ。お前の本音、ちゃんと全部」
その言葉に、心がふっと揺れました。
「……ほんと、あんたって、ずるい」
「よく言われる」
「褒めてません!」
怒鳴るでもなく、ふざけるでもなく。
言い合いのはずが、少しずつ笑いに変わっていき、そして、やがて静かな沈黙へ。
「なあ」
「……何ですか」
「お前のこと、“敵”だと思ってた。でも最近、それが崩れてきてる気がする」
「……あたしも。なんか、よくわかんなくなってます」
塀の向こうに見えたレオンの横顔は、初めて見たときよりずっと柔らかくて。
誰にも見られていない、この“秘密の時間”だけが、今のわたしたちを少しだけ正直にしてくれる。
それから数日――夜の塀越し会話は、すっかり習慣になりました。
「今日のドレス、似合ってたぞ」
「……あんた、ほんとどこで見てるの? 尾行してる?」
「褒めてやってんだから素直に喜べよ」
「喜ぶもんですかー!」
怒っては笑って、笑ってはまた怒って。
でも、心は確かに、ふたりだけの特別な場所に近づいていました。
知らないうちに、“敵”というラベルが剥がれかけている。
でも、幸せな時間が長く続くとは限らない。
それを、この後の急展開がわたしたちに教えてくれることになります――。
昼間の礼拝堂でのケンカが尾を引いているせい――というより、口論のあとに残る胸のモヤモヤが、どうにも消えなかったのです。
「もう、ほんとに……レオンの顔なんて思い出したくないのに……」
布団に顔を埋めながら何度もごろごろ転がって、それでも眠気は来てくれません。
仕方なく、バルコニーに出て夜風を浴びることにしました。
そして、庭へと降りる階段をそっと下りて、月明かりの照らす芝に立った瞬間――
「……お前、まだ起きてたのか」
不意に塀の向こうから声がして、心臓が跳ねました。
「な、なななんで!? レオン!? あんた何してるの!?」
「いや……暇だったから、つい来た。顔見たくなっただけだ」
「いやいやいやいや、正気ですか!? 塀越しで愛の告白って、どこの恋愛小説!?」
「誰が告白した。顔見たかっただけだっつってんだろ」
塀の上から顔をのぞかせたレオンは、普段通りの生意気顔だけど、少しだけ照れているようにも見えました。
月明かりのおかげか、それとも……単なる視力の錯覚でしょうか。
「忍び込むとか、馬鹿ですか!? 今ここに衛兵いたら射抜かれてますよ!? 死にますよ!?」
「俺を撃てるような衛兵、お前の家にはいないだろ。毎回、俺のほうが先に気づいてんだから」
「うぅ……確かに……!」
悔しいけれど否定できません。
そうして、なぜか始まった“夜の塀越し会話”。
最初は、ただの小競り合いの延長だったはずなのに――
「お前、意外と悩み多そうだな」
「は? 何を突然」
「顔に出てる。眉間のシワとか」
「うるさいです!」
毒舌の応酬がありながらも、どこか優しさも混じってきて。
わたしも、ついぽろりと口を滑らせてしまいました。
「……婚約の話が出てるんです。勝手に。家同士の都合で」
「はあ? なんでだよ。お前にその気あるのか?」
「ないです。けど、誰も聞いてくれないんです。わたしの“本音”なんて」
夜風に吹かれながら、ふと胸の奥にしまっていた気持ちが顔を出します。
塀越しのレオンが、それを遮るように言いました。
「だったら、俺が聞いてやるよ。お前の本音、ちゃんと全部」
その言葉に、心がふっと揺れました。
「……ほんと、あんたって、ずるい」
「よく言われる」
「褒めてません!」
怒鳴るでもなく、ふざけるでもなく。
言い合いのはずが、少しずつ笑いに変わっていき、そして、やがて静かな沈黙へ。
「なあ」
「……何ですか」
「お前のこと、“敵”だと思ってた。でも最近、それが崩れてきてる気がする」
「……あたしも。なんか、よくわかんなくなってます」
塀の向こうに見えたレオンの横顔は、初めて見たときよりずっと柔らかくて。
誰にも見られていない、この“秘密の時間”だけが、今のわたしたちを少しだけ正直にしてくれる。
それから数日――夜の塀越し会話は、すっかり習慣になりました。
「今日のドレス、似合ってたぞ」
「……あんた、ほんとどこで見てるの? 尾行してる?」
「褒めてやってんだから素直に喜べよ」
「喜ぶもんですかー!」
怒っては笑って、笑ってはまた怒って。
でも、心は確かに、ふたりだけの特別な場所に近づいていました。
知らないうちに、“敵”というラベルが剥がれかけている。
でも、幸せな時間が長く続くとは限らない。
それを、この後の急展開がわたしたちに教えてくれることになります――。
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