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二章ー松尾の依頼と優之助との約束ー
鍋山孝之進
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「よか。うまくいったど」
連れ去られる優之助を見送りながら伝之助が言う。
羽田は苦笑して頷いた。
「優之助さんには申し訳ないですね」
「気にすっこつんなか。あいつも体を張らんと釣り合いが取れん」
「それにこれが最善の作戦でしょうしね」
「そう言うこつじゃ。そいじゃ後は手筈通りじゃの。またの」
にっと笑って言うと羽田は大きく頷き、去って行った。
それを見送ると、伝之助は木本率いる一行の後をつけ始めた。
木本を付けるのは伝之助でも骨が折れる作業であった。
尾行を防ぐ為か人目を避ける為か、かなり回り道をしている。
木本の自宅に行くかは分からないが、伝之助は自宅に行くのだろうと踏んでいた。
そしてその自宅は店からそれほど遠くないと思っていた。
遠いと店に通うまで大変だからだ。
回り道をしているから優之助には遠く感じるであろう。
それだけでなく、時折連れ立っている浪人を一人ずつ置いて行く。
この者達の目を逃れるのにも神経を使わなければならなかった。
そして一つの村に着く頃には、木本と優之助の他には日高のみとなっていた。
この村は木本の店に着くまでに通った町の一つ手前にあった村である。
かなり小さな村で、裏手には小さな山がある。
木本はその小山に入って行く。
普通に行けば小さな山なのですぐに辿り着けるだろうが、警戒してかこの山でも遠回りをし、中腹辺りに到達する。
そこは開拓されており、一軒の大きな平屋が現れる。
門もついており、木本達は中に消えた。
「こいが木本の家か」
随分と遠回りをさせられたが、木本にはもちろん、かなり距離を取って気を付けていたので日高にも気付かれた様子は無かった。
優之助が中に連れられる様をしかと見た。
ここまでの道は、遠回りせずとも辿り着けるよう覚えた。
後は先程の町に戻り、羽田達の到着を待つだけである。
大坂に発つ前、松尾と話した。
松尾は日高の情報を伝え、木本の事を話した。
伝之助達が動くよう整えてくれたが、そこにどう薩摩が介入するかを二人して考えた。
その結果、優之助、つまり一町民を攫わせてその現場を抑えてはどうかとなった。
そうなると奉行所も巻き込んだ方が良い。
次の日には吉沢に話を持ち掛け、やり方は感心しないが、ここらの奉行所としては問題視していたが手を出せなかった木本を仕留めるいい機会だと言う事で協力を取り付けた。
自分達より半日遅れで大坂に入った松尾と吉沢の一行は、敏郎の元で情報を貰い、後は伝之助からの報告を待つ事となった。
その報告をしに、羽田が向かっているのである。
木本の店がある町まで来てしまうと、小さな町だけあって何かと噂が広まり木本の耳まで届くかもしれない。
松尾らはその小さな町よりもう少し離れた場所である堺に身を置いていた。
羽田が堺まで報告に向かい、こちらの町まで向かってくる。
伝之助は町まで戻らずとも、その通り道であるこの近くの村で待機していると出くわすであろうと考える。
後はいつその村で待つかである。
優之助に何かあれば迷いなく助けに出るつもりであったが、木本のあの様子だと人質に取り、こちらの出方を窺うに違いない。
きっと明日からも店に出て何か動きが出るのを待つのだろう。
それ程悠長には出来ない。
勝負は今夜となるだろうと思った。
伝之助は自分の役目は日高の相手をする事だと思っていた。
後は松尾や吉沢、羽田に任せるしかない。
木本がどれ程浪人達を迅速に呼び出せるか分からないし、松尾と吉沢がどれ程の人数で来るかはわからない。
しかしここはやらなければいけない。
日が傾いてきた。
伝之助はそろそろかと村に向かって戻り出した。
村に着くと夕焼けが広がり、のどかな風景の中に夕食の匂いが漂ってくる。
腹が減ったが我慢するしかない。
こののどかな風景も直に乱れる事となるだろう。
この村のすぐそばにある山に木本の家がある。
そこで今から騒ぎとなるのだからこの村も騒ぎの渦中となる事は避けられない。
そんな事を考えながらそれとなく村の様子を探った。
どこにでもある普通の小さな村だ。
木本が浪人を囲っていそうな所は無い。
木本の息のかかった村人がいても不思議ではないので、念の為村人には見つからないよう細心の注意を払った。
こんな村で侍が一人いるだけでも目立つ。
木本に報告でもされると台無しだ。
伝之助は目立たぬよう村から出た所にある木々の影に隠れて松尾達を待った。
今頃優之助は情けない声を上げているに違いないと思うと、自然と笑いが込み上げて来る。
そんな事を考えている余裕さえあった。
日高と戦う事に関して次は後れを取らない自信があった。
日が沈み出し辺りが薄暗くなった頃、先導する羽田に連れられ、松尾達が現れた。
伝之助は羽田の前に姿を現すと、無言で隠れていた木々の影を指差した。
「状況は?」
皆が身を隠すなり、松尾が一番に問うた。
薩摩からは松尾の他に以前共に藤井の元に出向いた橋本と高木に加え、少し腹の出た髭面の大男がいた。
奉行所からは吉沢の他二名が付いている。
皆の視線が伝之助に集中した。
伝之助は自分達が大坂に来てからの動向を、手短に順を追って話す。
優之助を木本の店に向かわせ、計画取り木本が優之助を連れ去った事、この村の近くの小山に木本の隠れ家がある事、そこに行くまで慎重につけたが、相手も尾行を警戒して遠回りし、途中浪人達を置いて行き最終的には日高のみとなった事、今の所は優之助に危害を加える様子は無かった事を話した。
「なるほど。今木本の隠れ家は手薄なのだろうか」
「連れて来た浪人達は置いてきもしたが、中にどげん程いるかはわかりもはん。中にそい程おらんとしても、浪人どもをどげん程で呼び寄せるこつが出来るかもわかりもはん」
伝之助の返答に松尾は考える。
今分かっているのは木本の店から隠れ家に行ったのは最終的には日高のみ。
自分が雇っている浪人達にも基本的には心を許していないと言う事だろう。
だがそこまで警戒する者の隠れ家の警備が手薄なわけがない。
幾人かは隠れ家にもいるはずである。
「木本とて奉行所と薩摩のご家老様が訪ねて来たら無下には出来ません。ましてや刃を向ける事など以っての他でしょう」
吉沢が言うも、松尾は納得しない。
「ええそうでしょう。しかし時を稼ぎ、しらばっくれるに違いない。ここは少々手荒でも逃れようのない方法を選択したい」
「と言いますと?」
吉沢の問いに松尾は目を瞑り黙考する。
二呼吸後、すっと目を開いた。
「二手に別れよう。私と吉沢さん率いる奉行所の方々で、正面を正攻法で訪ねる。そして大山君率いる薩摩の部隊は密かに侵入し、優之助君を探し出す。少々手荒でも証拠を掴めばこちらのものだ。その為にも優之助君の身柄を確実に確保してほしい」
松尾が力強い目を向ける。
伝之助は応えるように強く頷いた。
「しかし二手に別れると、松尾様をお守りするのに手薄となります」
吉沢が心配して言うも、松尾は笑った。
「大丈夫だ。覚悟は出来ている。私の身よりも、作戦の遂行を優先したい」
松尾が言うと、吉沢はそれ以上何も言わず、代わりに頷いた。
当初薩摩侍は全員伝之助と共に行くよう松尾は言ったが、先発隊は密かに行動する事が目的の為、少人数の方が良いだろうと言う事になり、伝之助と羽田に加え、髭面の大男が加わる事となった。
薩摩の家老に刃を向ける事はしないだろうとは言え、何があるか分からない。
橋本と高木は松尾についていた方が良いとも伝之助は考えていた。
松尾は了承した後、大男を前に出した。
「紹介が遅れたな。この男は鍋山孝之進と言う。上級武士で私も彼の兄には世話になった」
鍋山は一つ頭を下げ、「おはんが噂の大山どんでそちらが羽田どんじゃな」と言うと、がははと笑い「よろしく頼む」と言った。
絵に書いたような大らかで豪快な男のようだ。
今から木本の隠れ家に忍び込むと言うのにこんながさつそうな大男で大丈夫だろうか。
伝之助が羽田を見ると意中を察したのか、苦笑いを向けた。
「大丈夫だ。孝之進はこう見えて隠密行動も出来る」
伝之助達の心中を察してか松尾が言った。
鍋山はがははと笑う。
「それにしても大山君、良い羽織を着ているな」
松尾が笑顔で言うのを伝之助は「はあ、まあ」と曖昧に返した。
軽く打ち合わせをする。
月が真上に昇る頃に松尾達が行くので、それまでに優之助を確保する事となる。
木本の隠れ家まで皆で行くと目立つ。
出来るだけ村人にも見られたくはない。
騒ぎとなるのはぎりぎりの方が良い。
行き方を説明し、伝之助達は先に出た。
「鍋山さあは剛刃流でごわすか」
道中、鍋山に話しかける。
薩摩の上級武士は剛刃流をやる者が多い。
「そうじゃ。こげん見えても高弟じゃ」
鍋山は言ってまたがははと笑う。
「鍋山さあ、今から木本の隠れ家に忍び込むち、あまり騒ぎ立てんよう頼みもす」
伝之助が言うと、鍋山はまたがははと笑った。
「おはんの言う通りじゃ。今はおはんが大将じゃち、遠慮なく言うてくれ。おいはこん通りがさつな男での。兄上にも松尾さあにもよう叱られよった」
鍋山は相変わらずの豪快な笑いで言うと、すっと真顔になる。
「じゃっどん安心してくいやい。隠れ家に到着してからはへまはせん」
鍋山の目の奥の光を見ると、只者ではないと言う事に気付かされる。
松尾も剛刃流の高弟だが、あくまで道場での話で、実際に斬り合いをした事は無い。
しかしこの鍋山は道場で高弟となっただけでなく、実際に斬り合いをしていくつか死線を潜り抜けてきたのだろう。
「頼りにしてもす」
伝之助は頷いて応えると先を急いだ。
連れ去られる優之助を見送りながら伝之助が言う。
羽田は苦笑して頷いた。
「優之助さんには申し訳ないですね」
「気にすっこつんなか。あいつも体を張らんと釣り合いが取れん」
「それにこれが最善の作戦でしょうしね」
「そう言うこつじゃ。そいじゃ後は手筈通りじゃの。またの」
にっと笑って言うと羽田は大きく頷き、去って行った。
それを見送ると、伝之助は木本率いる一行の後をつけ始めた。
木本を付けるのは伝之助でも骨が折れる作業であった。
尾行を防ぐ為か人目を避ける為か、かなり回り道をしている。
木本の自宅に行くかは分からないが、伝之助は自宅に行くのだろうと踏んでいた。
そしてその自宅は店からそれほど遠くないと思っていた。
遠いと店に通うまで大変だからだ。
回り道をしているから優之助には遠く感じるであろう。
それだけでなく、時折連れ立っている浪人を一人ずつ置いて行く。
この者達の目を逃れるのにも神経を使わなければならなかった。
そして一つの村に着く頃には、木本と優之助の他には日高のみとなっていた。
この村は木本の店に着くまでに通った町の一つ手前にあった村である。
かなり小さな村で、裏手には小さな山がある。
木本はその小山に入って行く。
普通に行けば小さな山なのですぐに辿り着けるだろうが、警戒してかこの山でも遠回りをし、中腹辺りに到達する。
そこは開拓されており、一軒の大きな平屋が現れる。
門もついており、木本達は中に消えた。
「こいが木本の家か」
随分と遠回りをさせられたが、木本にはもちろん、かなり距離を取って気を付けていたので日高にも気付かれた様子は無かった。
優之助が中に連れられる様をしかと見た。
ここまでの道は、遠回りせずとも辿り着けるよう覚えた。
後は先程の町に戻り、羽田達の到着を待つだけである。
大坂に発つ前、松尾と話した。
松尾は日高の情報を伝え、木本の事を話した。
伝之助達が動くよう整えてくれたが、そこにどう薩摩が介入するかを二人して考えた。
その結果、優之助、つまり一町民を攫わせてその現場を抑えてはどうかとなった。
そうなると奉行所も巻き込んだ方が良い。
次の日には吉沢に話を持ち掛け、やり方は感心しないが、ここらの奉行所としては問題視していたが手を出せなかった木本を仕留めるいい機会だと言う事で協力を取り付けた。
自分達より半日遅れで大坂に入った松尾と吉沢の一行は、敏郎の元で情報を貰い、後は伝之助からの報告を待つ事となった。
その報告をしに、羽田が向かっているのである。
木本の店がある町まで来てしまうと、小さな町だけあって何かと噂が広まり木本の耳まで届くかもしれない。
松尾らはその小さな町よりもう少し離れた場所である堺に身を置いていた。
羽田が堺まで報告に向かい、こちらの町まで向かってくる。
伝之助は町まで戻らずとも、その通り道であるこの近くの村で待機していると出くわすであろうと考える。
後はいつその村で待つかである。
優之助に何かあれば迷いなく助けに出るつもりであったが、木本のあの様子だと人質に取り、こちらの出方を窺うに違いない。
きっと明日からも店に出て何か動きが出るのを待つのだろう。
それ程悠長には出来ない。
勝負は今夜となるだろうと思った。
伝之助は自分の役目は日高の相手をする事だと思っていた。
後は松尾や吉沢、羽田に任せるしかない。
木本がどれ程浪人達を迅速に呼び出せるか分からないし、松尾と吉沢がどれ程の人数で来るかはわからない。
しかしここはやらなければいけない。
日が傾いてきた。
伝之助はそろそろかと村に向かって戻り出した。
村に着くと夕焼けが広がり、のどかな風景の中に夕食の匂いが漂ってくる。
腹が減ったが我慢するしかない。
こののどかな風景も直に乱れる事となるだろう。
この村のすぐそばにある山に木本の家がある。
そこで今から騒ぎとなるのだからこの村も騒ぎの渦中となる事は避けられない。
そんな事を考えながらそれとなく村の様子を探った。
どこにでもある普通の小さな村だ。
木本が浪人を囲っていそうな所は無い。
木本の息のかかった村人がいても不思議ではないので、念の為村人には見つからないよう細心の注意を払った。
こんな村で侍が一人いるだけでも目立つ。
木本に報告でもされると台無しだ。
伝之助は目立たぬよう村から出た所にある木々の影に隠れて松尾達を待った。
今頃優之助は情けない声を上げているに違いないと思うと、自然と笑いが込み上げて来る。
そんな事を考えている余裕さえあった。
日高と戦う事に関して次は後れを取らない自信があった。
日が沈み出し辺りが薄暗くなった頃、先導する羽田に連れられ、松尾達が現れた。
伝之助は羽田の前に姿を現すと、無言で隠れていた木々の影を指差した。
「状況は?」
皆が身を隠すなり、松尾が一番に問うた。
薩摩からは松尾の他に以前共に藤井の元に出向いた橋本と高木に加え、少し腹の出た髭面の大男がいた。
奉行所からは吉沢の他二名が付いている。
皆の視線が伝之助に集中した。
伝之助は自分達が大坂に来てからの動向を、手短に順を追って話す。
優之助を木本の店に向かわせ、計画取り木本が優之助を連れ去った事、この村の近くの小山に木本の隠れ家がある事、そこに行くまで慎重につけたが、相手も尾行を警戒して遠回りし、途中浪人達を置いて行き最終的には日高のみとなった事、今の所は優之助に危害を加える様子は無かった事を話した。
「なるほど。今木本の隠れ家は手薄なのだろうか」
「連れて来た浪人達は置いてきもしたが、中にどげん程いるかはわかりもはん。中にそい程おらんとしても、浪人どもをどげん程で呼び寄せるこつが出来るかもわかりもはん」
伝之助の返答に松尾は考える。
今分かっているのは木本の店から隠れ家に行ったのは最終的には日高のみ。
自分が雇っている浪人達にも基本的には心を許していないと言う事だろう。
だがそこまで警戒する者の隠れ家の警備が手薄なわけがない。
幾人かは隠れ家にもいるはずである。
「木本とて奉行所と薩摩のご家老様が訪ねて来たら無下には出来ません。ましてや刃を向ける事など以っての他でしょう」
吉沢が言うも、松尾は納得しない。
「ええそうでしょう。しかし時を稼ぎ、しらばっくれるに違いない。ここは少々手荒でも逃れようのない方法を選択したい」
「と言いますと?」
吉沢の問いに松尾は目を瞑り黙考する。
二呼吸後、すっと目を開いた。
「二手に別れよう。私と吉沢さん率いる奉行所の方々で、正面を正攻法で訪ねる。そして大山君率いる薩摩の部隊は密かに侵入し、優之助君を探し出す。少々手荒でも証拠を掴めばこちらのものだ。その為にも優之助君の身柄を確実に確保してほしい」
松尾が力強い目を向ける。
伝之助は応えるように強く頷いた。
「しかし二手に別れると、松尾様をお守りするのに手薄となります」
吉沢が心配して言うも、松尾は笑った。
「大丈夫だ。覚悟は出来ている。私の身よりも、作戦の遂行を優先したい」
松尾が言うと、吉沢はそれ以上何も言わず、代わりに頷いた。
当初薩摩侍は全員伝之助と共に行くよう松尾は言ったが、先発隊は密かに行動する事が目的の為、少人数の方が良いだろうと言う事になり、伝之助と羽田に加え、髭面の大男が加わる事となった。
薩摩の家老に刃を向ける事はしないだろうとは言え、何があるか分からない。
橋本と高木は松尾についていた方が良いとも伝之助は考えていた。
松尾は了承した後、大男を前に出した。
「紹介が遅れたな。この男は鍋山孝之進と言う。上級武士で私も彼の兄には世話になった」
鍋山は一つ頭を下げ、「おはんが噂の大山どんでそちらが羽田どんじゃな」と言うと、がははと笑い「よろしく頼む」と言った。
絵に書いたような大らかで豪快な男のようだ。
今から木本の隠れ家に忍び込むと言うのにこんながさつそうな大男で大丈夫だろうか。
伝之助が羽田を見ると意中を察したのか、苦笑いを向けた。
「大丈夫だ。孝之進はこう見えて隠密行動も出来る」
伝之助達の心中を察してか松尾が言った。
鍋山はがははと笑う。
「それにしても大山君、良い羽織を着ているな」
松尾が笑顔で言うのを伝之助は「はあ、まあ」と曖昧に返した。
軽く打ち合わせをする。
月が真上に昇る頃に松尾達が行くので、それまでに優之助を確保する事となる。
木本の隠れ家まで皆で行くと目立つ。
出来るだけ村人にも見られたくはない。
騒ぎとなるのはぎりぎりの方が良い。
行き方を説明し、伝之助達は先に出た。
「鍋山さあは剛刃流でごわすか」
道中、鍋山に話しかける。
薩摩の上級武士は剛刃流をやる者が多い。
「そうじゃ。こげん見えても高弟じゃ」
鍋山は言ってまたがははと笑う。
「鍋山さあ、今から木本の隠れ家に忍び込むち、あまり騒ぎ立てんよう頼みもす」
伝之助が言うと、鍋山はまたがははと笑った。
「おはんの言う通りじゃ。今はおはんが大将じゃち、遠慮なく言うてくれ。おいはこん通りがさつな男での。兄上にも松尾さあにもよう叱られよった」
鍋山は相変わらずの豪快な笑いで言うと、すっと真顔になる。
「じゃっどん安心してくいやい。隠れ家に到着してからはへまはせん」
鍋山の目の奥の光を見ると、只者ではないと言う事に気付かされる。
松尾も剛刃流の高弟だが、あくまで道場での話で、実際に斬り合いをした事は無い。
しかしこの鍋山は道場で高弟となっただけでなく、実際に斬り合いをしていくつか死線を潜り抜けてきたのだろう。
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伝之助は頷いて応えると先を急いだ。
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