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52.情欲。
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静寂の中、カチャッと扉が開く音が響き、三峰汐音がリビングに静かに姿を現した。ソファで寝そべっている相澤和真の姿を見つけた途端、嬉しそうに表情を綻ばせる。
「起きていて大丈夫なのですか?」
学校の帰りに夕飯の買い物もして来たのだろう、持っていたレジ袋を床に置くと、すぐに和真の側へ駆け寄って来た。
「おかえり」
そう声を掛けると、汐音は大きく目を見開き、整った顔を紅潮させる。
「! 和真さん‼」
『おかえり』だけで、大喜びする姿に、『本当に可愛い奴だな』と和真の顔も自然と緩む。
汐音は和真の前で膝を付くと、和真の額に手を当てた。手を洗ってきたからなのか、冷たい手が心地いい。
「……まだ、微熱があるようですね」
「そうか? ずいぶん体は楽になった気がするんだけど?」
額に当てていた手をスルリと滑らせ、汐音は和真の頬に触れる。
「な、何?」
恥じらうことなく至近距離で見つめてくるので、和真の方が落ち着かない気分にさせられる。
「あの……、抱きしめてもいいですか?」
ワザとなのか、控えめに上目遣いで庇護欲を刺激する聞き方をしてくる。自分の顔が熱のせいでなく、赤くなっていくのが分かる。
「え? な、何で? 急に、どうした?」
「学校にいる間、和真さん不足……、心配だったんです。貴方の存在を確かめさせてください」
(今、心配って言い直したけど、不足って言ったよな? 不足ってどういう事だ?)
時折汐音は独特の言い回しをする。聞いたところで理解できるか分からないので、突っ込まないでおく。
「はあ~、いいよ。嫌だって言っても、どうせ抱きついてくるんだろ?」
照れ隠しで、ぶっきらぼうに言い捨てる。
「和真さんが、嫌がることはしませんよ! ですが、許可してくださり、ありがとうございます!」
汐音の温もりに包まれれば、どこかホッとしている自分がいる。さらに、汐音の髪からフワリと漂って来た自分と同じシャンプーの残り香に、なんとも言えない親近感を感じた。
ぐぅ~
気が緩んだからなのか、和真のお腹が空腹を訴えてきた。今まで食欲など全く感じていなかったのにだ。
「……」
恥ずかしさから、さらに真っ赤になったて汐音から逸らした顔を、わざわざ汐音は覗き込んで来くる。
「もしかして、お昼は何も食べられなかったのですか?」
「……さっき、起きたばかりだ。トイレ以外ずっと寝ていたんだ」
「申し訳ありません! すぐに夕飯をご用意いたします!」
ガバっと汐音が立ち上がった。思わず、温もりを追うように手が勝手に汐音へ伸びる。
「!」
急いでその手を後ろへ隠したが、汐音と目が合った。どうやら見逃してくれなかったようだ。立ったまま和真をガン見してくる。
「……嫌だったら、殴ってください」
「え? な……」
驚き見上げながら発した和真の言葉は途中で途切れ、残りの言葉は汐音の口の中に吸い込まれてしまった。
あまりに突然過ぎる口付けに、固まってしまう。その間にも汐音は図々しく和真の唇を割って舌を入れて来た。何が起きているのか理解するより前に汐音の巧みな口付けに頭の中は溶かされ、ただ必死で汐音の体に縋りつく。
やっと唇を離してくれた時には、息が上がり、文句を言ってやりたいが、涙目で汐音を見つめる事しか出来ない。汐音の瞳には、まだ情欲を宿らせていたが、和真の耳元で『はぁ』と熱い吐息を吐き出すと、和真の体をぎゅっと強く抱きしめてきた。
暫くして、ゆっくりと体を離した汐音はぐったりとした和真の体をソファにそっと横たえさせる。
「あまり私を煽らないでくださいね」
「⁉ ……煽ってない。おまえが勝手に暴走しただけだろ?」
ムッとしながら応じれば、何が楽しいのか、汐音は笑みを深めた。
「ふふふ。そうですね。夕飯を作ってきますね」
今度こそ、汐音は和真に背を向け、キッチンへと向かう。その広い背中を見つめながら、和真は両手で顔を覆った。容赦なくグイグイくる汐音に対して、和真はだんだんと拒絶できなくなってきていた。
「いいのか? このままで?」
自問する声に、応じる声はない。
「起きていて大丈夫なのですか?」
学校の帰りに夕飯の買い物もして来たのだろう、持っていたレジ袋を床に置くと、すぐに和真の側へ駆け寄って来た。
「おかえり」
そう声を掛けると、汐音は大きく目を見開き、整った顔を紅潮させる。
「! 和真さん‼」
『おかえり』だけで、大喜びする姿に、『本当に可愛い奴だな』と和真の顔も自然と緩む。
汐音は和真の前で膝を付くと、和真の額に手を当てた。手を洗ってきたからなのか、冷たい手が心地いい。
「……まだ、微熱があるようですね」
「そうか? ずいぶん体は楽になった気がするんだけど?」
額に当てていた手をスルリと滑らせ、汐音は和真の頬に触れる。
「な、何?」
恥じらうことなく至近距離で見つめてくるので、和真の方が落ち着かない気分にさせられる。
「あの……、抱きしめてもいいですか?」
ワザとなのか、控えめに上目遣いで庇護欲を刺激する聞き方をしてくる。自分の顔が熱のせいでなく、赤くなっていくのが分かる。
「え? な、何で? 急に、どうした?」
「学校にいる間、和真さん不足……、心配だったんです。貴方の存在を確かめさせてください」
(今、心配って言い直したけど、不足って言ったよな? 不足ってどういう事だ?)
時折汐音は独特の言い回しをする。聞いたところで理解できるか分からないので、突っ込まないでおく。
「はあ~、いいよ。嫌だって言っても、どうせ抱きついてくるんだろ?」
照れ隠しで、ぶっきらぼうに言い捨てる。
「和真さんが、嫌がることはしませんよ! ですが、許可してくださり、ありがとうございます!」
汐音の温もりに包まれれば、どこかホッとしている自分がいる。さらに、汐音の髪からフワリと漂って来た自分と同じシャンプーの残り香に、なんとも言えない親近感を感じた。
ぐぅ~
気が緩んだからなのか、和真のお腹が空腹を訴えてきた。今まで食欲など全く感じていなかったのにだ。
「……」
恥ずかしさから、さらに真っ赤になったて汐音から逸らした顔を、わざわざ汐音は覗き込んで来くる。
「もしかして、お昼は何も食べられなかったのですか?」
「……さっき、起きたばかりだ。トイレ以外ずっと寝ていたんだ」
「申し訳ありません! すぐに夕飯をご用意いたします!」
ガバっと汐音が立ち上がった。思わず、温もりを追うように手が勝手に汐音へ伸びる。
「!」
急いでその手を後ろへ隠したが、汐音と目が合った。どうやら見逃してくれなかったようだ。立ったまま和真をガン見してくる。
「……嫌だったら、殴ってください」
「え? な……」
驚き見上げながら発した和真の言葉は途中で途切れ、残りの言葉は汐音の口の中に吸い込まれてしまった。
あまりに突然過ぎる口付けに、固まってしまう。その間にも汐音は図々しく和真の唇を割って舌を入れて来た。何が起きているのか理解するより前に汐音の巧みな口付けに頭の中は溶かされ、ただ必死で汐音の体に縋りつく。
やっと唇を離してくれた時には、息が上がり、文句を言ってやりたいが、涙目で汐音を見つめる事しか出来ない。汐音の瞳には、まだ情欲を宿らせていたが、和真の耳元で『はぁ』と熱い吐息を吐き出すと、和真の体をぎゅっと強く抱きしめてきた。
暫くして、ゆっくりと体を離した汐音はぐったりとした和真の体をソファにそっと横たえさせる。
「あまり私を煽らないでくださいね」
「⁉ ……煽ってない。おまえが勝手に暴走しただけだろ?」
ムッとしながら応じれば、何が楽しいのか、汐音は笑みを深めた。
「ふふふ。そうですね。夕飯を作ってきますね」
今度こそ、汐音は和真に背を向け、キッチンへと向かう。その広い背中を見つめながら、和真は両手で顔を覆った。容赦なくグイグイくる汐音に対して、和真はだんだんと拒絶できなくなってきていた。
「いいのか? このままで?」
自問する声に、応じる声はない。
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