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51.激情。
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休み時間、校内は一瞬にして喧騒に包まれる。
相澤和真の隣のクラスの男が二人、教室から出てきた。
西野と前田だ。
「今日、相澤は休みだったらしいな」
「あの時は、マジでビビった。下村先生もマムシが怖くて腰が引けてたもんな」
「黒いヘルメットの奴が来なかったら、相澤マジでヤバかったんじゃないのか?」
「あっ! 足のとこに蛇!」
「うおっ!」
変な叫び声を上げて飛び退く前田の姿に、驚かせた西野がゲラゲラと腹を抱えて笑う。
「ぎゃははははっ! 騙されてやんのっ!」
足元に落ちていた黒くて細長いゴミを指先でつまんでニヤニヤしながら見せつけられ、騙された前田は僅かに涙ぐみながら、怒りを爆発させた。
「バカヤロウ! 西野! ビビらせんな! 心臓が止まるかと思ったんだからな!」
「そうだよな~。今日は、毒蛇担当の相澤が居てくれないもんな~」
「何だ、それ? 何で、相澤が毒蛇担当なんだよ」
「え? だって、一度噛まれたら免疫が出来んじゃねえの? だから相澤が何度噛まれても大丈夫……くっ」
突然、西野の顔が苦痛に歪んだ。胸ぐらを掴み上げられ、つま先立ちになって震えている。西野の胸ぐらを掴み上げているのは福井奏だ。
「うわっ! 福井⁈」
一緒にいた中田の驚いた声が響き、廊下は一瞬で静まり返る。
「……もう一度、言ってみろ。相澤が、何だって?」
「くっ……苦しい──」
「止めろって! 福井‼」
中田は西野を掴み上げている奏の腕を掴み引き剥がそうとするが、びくともしない。西野の顔が真っ赤になってきた頃、騒動に気付いた同じサッカー部の仲間達三人が駆け付け、西野から奏を全力で引き剥がす。
「どうしたんだよ? おまえらしくないぞ!」
奏は四人がかりで拘束されながら、彼の目の前で膝を突き、咳き込んでいる西野を収まらない怒りを瞳に宿したまま睨みつけていた。
「西野、逃げろ! 前田、西野を連れて行け!」
中田の声に、前田はコクコクと壊れた人形のように頷くと、西野を連れてその場から離れて行った。
「落ち着けって! 奏が問題を起こしたら、俺ら試合に出られなくなるんだぞ!」
「分かってる。だから、殴ってない。……腕を離せ」
仲間達は無言で顔を見合わせると、ゆっくりと掴んでいた手を離した。奏は、再び騒がしくなった廊下を西野達が去った方向とは反対の方へ歩き出す。
中田は僅かに逡巡した後、奏の後を追った。奏は、運動場に面した水道の前にいた。徐に蛇口を回し、突然頭を突っ込んだ。
「うわっ!」
中田は慌てて蛇口を締め、水を止める。
「おまえ、何やってんだよ!」
ボタボタと水を下らせたまま奏は無言で俯いている。
中田はため息を一つ大きく吐き出すと、ポケットからハンカチを取り出して、奏の頭を拭く。
「相澤は、無事に退院出来たんだろ?」
奏は小さく頷いた。
「そっか。良かった」
中田が心から安堵して呟くと、「ああ」と一言、奏は素直に応じる。
「福井が怒るのも分かるよ。……確かに、西野の冗談は笑えない。俺でもムカついた。でもさ、相澤が学校に来た時に、自分のことで福井が問題を起こしたって知ったら、あいつはきっと悲しむと思う」
「……」
奏は再び無言になった。休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り響く。中田は、ペシッとビショビショになったハンカチを奏の頭上へ乗せた。
「おまえ、濡れすぎ! このハンカチは遣るから、後は自分で拭け」
「……中田、ありがとう」
感謝の言葉に中田は笑みを浮かべた。
「先に行くけど、ちゃんと戻って来いよ」
中田は奏にクルリと背を向けると、教室へ急いで帰って行った。奏は頭の上に置かれたハンカチを手に取る。
「和真……。俺は、やっぱり──」
呟きと共に強く握りしめたハンカチからは、ボタボタと水がしたたり落ちていく。
教室に戻ってきた福井の姿を見て、すでに教壇に立っていた数学の担当教師だけでなく、クラスメイト達もギョッとする。ハンカチ一つでは、どうにもならなかったようだ。中田は右手で目元を押さえた。
「ど、どうした⁈ 福井?」
「暑かったので……」
「着替えはあるのか?」
「体操着を持ってます」
「すぐに着替えてこい」
「はい」
体操着を掴んで教室を出て行く福井の後ろ姿を、教室にいた者達は唖然としながら見送ったのだった。
相澤和真の隣のクラスの男が二人、教室から出てきた。
西野と前田だ。
「今日、相澤は休みだったらしいな」
「あの時は、マジでビビった。下村先生もマムシが怖くて腰が引けてたもんな」
「黒いヘルメットの奴が来なかったら、相澤マジでヤバかったんじゃないのか?」
「あっ! 足のとこに蛇!」
「うおっ!」
変な叫び声を上げて飛び退く前田の姿に、驚かせた西野がゲラゲラと腹を抱えて笑う。
「ぎゃははははっ! 騙されてやんのっ!」
足元に落ちていた黒くて細長いゴミを指先でつまんでニヤニヤしながら見せつけられ、騙された前田は僅かに涙ぐみながら、怒りを爆発させた。
「バカヤロウ! 西野! ビビらせんな! 心臓が止まるかと思ったんだからな!」
「そうだよな~。今日は、毒蛇担当の相澤が居てくれないもんな~」
「何だ、それ? 何で、相澤が毒蛇担当なんだよ」
「え? だって、一度噛まれたら免疫が出来んじゃねえの? だから相澤が何度噛まれても大丈夫……くっ」
突然、西野の顔が苦痛に歪んだ。胸ぐらを掴み上げられ、つま先立ちになって震えている。西野の胸ぐらを掴み上げているのは福井奏だ。
「うわっ! 福井⁈」
一緒にいた中田の驚いた声が響き、廊下は一瞬で静まり返る。
「……もう一度、言ってみろ。相澤が、何だって?」
「くっ……苦しい──」
「止めろって! 福井‼」
中田は西野を掴み上げている奏の腕を掴み引き剥がそうとするが、びくともしない。西野の顔が真っ赤になってきた頃、騒動に気付いた同じサッカー部の仲間達三人が駆け付け、西野から奏を全力で引き剥がす。
「どうしたんだよ? おまえらしくないぞ!」
奏は四人がかりで拘束されながら、彼の目の前で膝を突き、咳き込んでいる西野を収まらない怒りを瞳に宿したまま睨みつけていた。
「西野、逃げろ! 前田、西野を連れて行け!」
中田の声に、前田はコクコクと壊れた人形のように頷くと、西野を連れてその場から離れて行った。
「落ち着けって! 奏が問題を起こしたら、俺ら試合に出られなくなるんだぞ!」
「分かってる。だから、殴ってない。……腕を離せ」
仲間達は無言で顔を見合わせると、ゆっくりと掴んでいた手を離した。奏は、再び騒がしくなった廊下を西野達が去った方向とは反対の方へ歩き出す。
中田は僅かに逡巡した後、奏の後を追った。奏は、運動場に面した水道の前にいた。徐に蛇口を回し、突然頭を突っ込んだ。
「うわっ!」
中田は慌てて蛇口を締め、水を止める。
「おまえ、何やってんだよ!」
ボタボタと水を下らせたまま奏は無言で俯いている。
中田はため息を一つ大きく吐き出すと、ポケットからハンカチを取り出して、奏の頭を拭く。
「相澤は、無事に退院出来たんだろ?」
奏は小さく頷いた。
「そっか。良かった」
中田が心から安堵して呟くと、「ああ」と一言、奏は素直に応じる。
「福井が怒るのも分かるよ。……確かに、西野の冗談は笑えない。俺でもムカついた。でもさ、相澤が学校に来た時に、自分のことで福井が問題を起こしたって知ったら、あいつはきっと悲しむと思う」
「……」
奏は再び無言になった。休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り響く。中田は、ペシッとビショビショになったハンカチを奏の頭上へ乗せた。
「おまえ、濡れすぎ! このハンカチは遣るから、後は自分で拭け」
「……中田、ありがとう」
感謝の言葉に中田は笑みを浮かべた。
「先に行くけど、ちゃんと戻って来いよ」
中田は奏にクルリと背を向けると、教室へ急いで帰って行った。奏は頭の上に置かれたハンカチを手に取る。
「和真……。俺は、やっぱり──」
呟きと共に強く握りしめたハンカチからは、ボタボタと水がしたたり落ちていく。
教室に戻ってきた福井の姿を見て、すでに教壇に立っていた数学の担当教師だけでなく、クラスメイト達もギョッとする。ハンカチ一つでは、どうにもならなかったようだ。中田は右手で目元を押さえた。
「ど、どうした⁈ 福井?」
「暑かったので……」
「着替えはあるのか?」
「体操着を持ってます」
「すぐに着替えてこい」
「はい」
体操着を掴んで教室を出て行く福井の後ろ姿を、教室にいた者達は唖然としながら見送ったのだった。
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