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42.退院。
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入院四日目の朝。
相澤和真は最後の診察を終え、無事に退院が出来ることになった。
「今日、帰っちゃうの? 寂しいわ。いっそのこと、私と付き合っちゃう?」
医師が居なくなった途端、可愛いナース姿のお姉さんが口説きはじめた。
だが、口説かれているのは和真ではない。
後輩の三峰汐音だ。
「ありがとうございます。でも、俺には好きな人がいるので、お付き合いする事は出来ないです。すみません。でも、本当にお姉さんには大変お世話になりました。感謝しています」
深々と頭を下げる汐音の腰に小柄なお姉さんが抱きつく。
「感謝だなんて! なんて可愛いの! もし、その好きな人と上手くいかなかったら私のところへいらっしゃい。慰めてあげるから」
「その時はお願いします。お姉さんは、本当に優しいですね」
部屋の隅とはいえ、会話はしっかりと和真の耳に入ってくる。
(おれは何を聞かされているんだ?)
遠い目で和真はボソリと呟く。
「それじゃあ、元気でね」
「お姉さんもお元気で。ありがとうございました」
小さく手を振りながら部屋を出ていく看護師の姿が消えるまで、汐音は頭を下げていた。
「……か、可愛い人だったじゃないか。断って良かったのか?」
さりげなさを装い、和真は汐音に声をかける。汐音が頭を上げ、振り返った。
「どうしてそんなつれない事をおっしゃるのですか? 私が誰を好きかご存じなのに」
「……」
「それとも、……嫉妬をしてくださっているのですか?」
「し、嫉妬?! そんなものする訳ないだろう!」
「そうなんですか? 残念です」
口では『残念』などと言っているが、汐音は目尻を下げ、甘々な表情を浮かべながら近づいてくる。
「……あの人に、何か世話になるような事があったのか?」
和真は汐音から視線を逸らし、気になっていたことを訊ねる。
「え? ああ、ここは完全看護だったので、私は和真さんの病室に泊まる事が出来なくて困っていると、あの方が自分の家に泊めてくださったんです」
「え?! 泊まった⁉」
「はい。泊めていただきました。ご家族の方も皆さん優しい方達でした」
「! あ、……家族。家族……ね」
「はい。年の離れたまだ小学生の可愛い弟さんがいらっしゃるんですよ」
ニコニコと笑みを浮かべたまま汐音がベッドの横の椅子に腰を下ろした。いろいろと心の内を見透かされているようで、和真は落ち着かない気持ちになる。
コンコン。
控えめに扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
和真の声に応じて扉が開き、濃い色のスーツ姿の男が入って来た。年齢は40代半ばぐらいで汐音ほどではないが、背が高い。
「和真様。心配致しました」
男は本当に心配していたのだろう。表情が固い。
「先ほどの診察で、予定通り退院出来るそうです。ホッと致しました」
言葉のとおり、宮田はホッと息を吐いた。
「宮田さん。すみません。こんなところまで来ていただく事になってしまって」
「お気になさらず。これも私の仕事ですので。退院用のお着替えもお持ちしております」
「あ、ありがとうございます」
和真の父である真宮グループの総裁である真宮蓮の秘書の一人である、宮田太一だ。
彼は三人いる跡継ぎ候補の中で、和真の担当をしている。
「では、和真様のお荷物を車へお運び致しましょう。鞄はどこにございますか?」
「これです」
汐音が和真のボストンバッグを宮田へ手渡す。
「君が、三峰汐音君だね?」
「はい」
「毒蛇から和真様を助けてくださったのは君だと、担任の先生から聞いているよ。本当にありがとう。今度お礼をさせてくれないかい?」
「お礼なんていいです。それより、和真さんの足はまだパンパンに腫れていて痛みもあるようです。日常生活に支障があると思うので、僕を和真さんの介護兼ハウスキーパーとして雇っていただけないでしょうか?」
「え?!」
驚いた和真は思わず声を上げていた。
「……介護? ハウスキーパー?」
宮田も一瞬驚いた顔をしたが、すぐに秘書らしく落ち着いた表情へ戻る。
「なるほど。では、まず数点確認させてください。和真様はこの提案を受け入れられますか?」
「え? ま、まあ、汐音が居てくれると、助かるけど……」
「そうですか。では、2点目。学校はアルバイト禁止ではありませんか?」
「はい。禁止ではないです」
「では、あなたの親御様から貴方がアルバイトをすることに対して、許可はいただけますか?」
「はい。それは、大丈夫です」
「分かりました。では、書類をご用意いたします。早速、今日からお願いできますか?」
「もちろんです」
「では、まず退院の手続きをしてまいりますので、ここで少々お待ちください」
それだけ言い残すと、宮田は颯爽と病室を出て行ってしまった。思いもしなかった話の展開に、呆然とする和真だった。
相澤和真は最後の診察を終え、無事に退院が出来ることになった。
「今日、帰っちゃうの? 寂しいわ。いっそのこと、私と付き合っちゃう?」
医師が居なくなった途端、可愛いナース姿のお姉さんが口説きはじめた。
だが、口説かれているのは和真ではない。
後輩の三峰汐音だ。
「ありがとうございます。でも、俺には好きな人がいるので、お付き合いする事は出来ないです。すみません。でも、本当にお姉さんには大変お世話になりました。感謝しています」
深々と頭を下げる汐音の腰に小柄なお姉さんが抱きつく。
「感謝だなんて! なんて可愛いの! もし、その好きな人と上手くいかなかったら私のところへいらっしゃい。慰めてあげるから」
「その時はお願いします。お姉さんは、本当に優しいですね」
部屋の隅とはいえ、会話はしっかりと和真の耳に入ってくる。
(おれは何を聞かされているんだ?)
遠い目で和真はボソリと呟く。
「それじゃあ、元気でね」
「お姉さんもお元気で。ありがとうございました」
小さく手を振りながら部屋を出ていく看護師の姿が消えるまで、汐音は頭を下げていた。
「……か、可愛い人だったじゃないか。断って良かったのか?」
さりげなさを装い、和真は汐音に声をかける。汐音が頭を上げ、振り返った。
「どうしてそんなつれない事をおっしゃるのですか? 私が誰を好きかご存じなのに」
「……」
「それとも、……嫉妬をしてくださっているのですか?」
「し、嫉妬?! そんなものする訳ないだろう!」
「そうなんですか? 残念です」
口では『残念』などと言っているが、汐音は目尻を下げ、甘々な表情を浮かべながら近づいてくる。
「……あの人に、何か世話になるような事があったのか?」
和真は汐音から視線を逸らし、気になっていたことを訊ねる。
「え? ああ、ここは完全看護だったので、私は和真さんの病室に泊まる事が出来なくて困っていると、あの方が自分の家に泊めてくださったんです」
「え?! 泊まった⁉」
「はい。泊めていただきました。ご家族の方も皆さん優しい方達でした」
「! あ、……家族。家族……ね」
「はい。年の離れたまだ小学生の可愛い弟さんがいらっしゃるんですよ」
ニコニコと笑みを浮かべたまま汐音がベッドの横の椅子に腰を下ろした。いろいろと心の内を見透かされているようで、和真は落ち着かない気持ちになる。
コンコン。
控えめに扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
和真の声に応じて扉が開き、濃い色のスーツ姿の男が入って来た。年齢は40代半ばぐらいで汐音ほどではないが、背が高い。
「和真様。心配致しました」
男は本当に心配していたのだろう。表情が固い。
「先ほどの診察で、予定通り退院出来るそうです。ホッと致しました」
言葉のとおり、宮田はホッと息を吐いた。
「宮田さん。すみません。こんなところまで来ていただく事になってしまって」
「お気になさらず。これも私の仕事ですので。退院用のお着替えもお持ちしております」
「あ、ありがとうございます」
和真の父である真宮グループの総裁である真宮蓮の秘書の一人である、宮田太一だ。
彼は三人いる跡継ぎ候補の中で、和真の担当をしている。
「では、和真様のお荷物を車へお運び致しましょう。鞄はどこにございますか?」
「これです」
汐音が和真のボストンバッグを宮田へ手渡す。
「君が、三峰汐音君だね?」
「はい」
「毒蛇から和真様を助けてくださったのは君だと、担任の先生から聞いているよ。本当にありがとう。今度お礼をさせてくれないかい?」
「お礼なんていいです。それより、和真さんの足はまだパンパンに腫れていて痛みもあるようです。日常生活に支障があると思うので、僕を和真さんの介護兼ハウスキーパーとして雇っていただけないでしょうか?」
「え?!」
驚いた和真は思わず声を上げていた。
「……介護? ハウスキーパー?」
宮田も一瞬驚いた顔をしたが、すぐに秘書らしく落ち着いた表情へ戻る。
「なるほど。では、まず数点確認させてください。和真様はこの提案を受け入れられますか?」
「え? ま、まあ、汐音が居てくれると、助かるけど……」
「そうですか。では、2点目。学校はアルバイト禁止ではありませんか?」
「はい。禁止ではないです」
「では、あなたの親御様から貴方がアルバイトをすることに対して、許可はいただけますか?」
「はい。それは、大丈夫です」
「分かりました。では、書類をご用意いたします。早速、今日からお願いできますか?」
「もちろんです」
「では、まず退院の手続きをしてまいりますので、ここで少々お待ちください」
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