生まれる前から好きでした。

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43.靴。

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 マムシに噛まれ入院を余儀なくされた相澤和真だったが、無事に退院する事となった。父の秘書である宮田太一が用意してくれた白のパーカーとゆったりとしたズボンに患者衣から着替える。薬が効いているのか、痛みはかなり和らいでいた。
 だが、スリッパを履き、ゆっくりと立ち上がってみると、血が足へ下りてきて痛みが増した気がした。思わず顔を歪めた和真の顔を心配そうに覗き込んできたのは、非常に整った男の顔だった。
 和真の後輩である三峰汐音だ。

「痛みますか?」
「ああ。……かなりマシにはなってるんだけど……。うわっ! 足が腫れてて、靴が履けない!」

 スリッパからスニーカーへ足を移そうとして、腫れた足では履けない事に今更ながら気付く。

「私が宮田さんの車までお連れいたします」
「え?」

『どうやって?』と訊ねる前に、汐音が和真を横抱きにして持ち上げた。

「わっ! や、やめろ! 下ろせ!」
「暴れないでください。危ないです。それに、騒ぐと余計に目立ちますよ。いいんですか?」
「……良くない」
「人目が気になるなら、私の首に腕を回して肩口に顔を引っ付けておけば、誰にも顔を見られないですよ」
「……」

 和真は逡巡しゅんじゅんのすえ、言われたとおりに汐音の首に腕を回し、肩に顔を伏せた。

「……ありがとう」
 
 和真の恥ずかしそうな小さな声に、汐音は満面の笑みを浮かべる。

「これからはどんな些細ささいなことでも私を頼ってくださいね」
「……くっ、早く良くなってみせる!」

 そう宣言すれば、汐音がクスっと笑う声が聞こえてきた。

「はい。早く良くなってください。治ったら、二人でどこかに出かけましょう」

 どこか楽し気な汐音の言葉に応じる前に、扉をノックする音が響く。『どうぞ』と返事をすれば、想像していたとおり宮田が入って来た。汐音に抱き上げられている和真の姿を見て目を丸くする。

(あ! おれは今、汐音に抱っこされていたんだった!)

「あ、あの、……これは」
「和真さんはまだ足が痛む上に、腫れていて靴が履けないので、僕が車まで運びますね」

 焦る和真に対して、汐音は余裕の笑みを浮かべて宮田へ事の次第を説明する。

「靴が履けない……。私としたことが、うっかりしておりました。すぐに車椅子をご用意いたします」

 今にも駆けだしそうな宮田を汐音が止める。

「いいえ、大丈夫です。それに、このまま車へ向かう方が少しでも早く家に帰れますから、案内をしていただけますか?」
「分かりました。腕が疲れたら遠慮なく言ってください。交代しましょう。では、私の車へご案内いたします」

 そう言うと、宮田はすばやく和真の靴を持ち、病室の扉を開けた。汐音は和真を抱き抱えたまま扉を抜ける。

「エレベーターがあるのはあちらです」

 宮田が行き先を指し示めせば、汐音が頷く。再び先導して歩き出した宮田の後に続いて汐音もしっかりとした足取りで歩き出した。和真は恥ずかしいと思いながらも、汐音に身を委ねる心地よさに胸を熱くしていた。

(今日から汐音が毎日おれの家にいるのか……)

 無意識に汐音の首に回していた腕に力が入る。汐音が自分の肩に顔を埋めている和真へまるで今にも蕩けそうな顔を向けた事など知る由もなかった。
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