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44.面倒くさい奴。
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相澤和真は自分を迎えに来た真宮蓮の秘書である宮田太一の車の後部座席に右足を投げ出すように座っていた。ふと身を起こし、自分が乗る車の後ろをピッタリと離れずに付いてくる黒いバイクへ顔を向ける。
ホーネット250という種類だというバイクに乗っているのは、和真を盲目的に慕ってくる後輩の三峰汐音だ。
(本当に免許取りたてなのか?)
そう疑問に思ってしまうほど乗り慣れたような安定した運転をしている。
黒いフルフェイスのヘルメットを被っていて顔は見えないのに、笑みを浮かべこちらを見ている気がした。
「和真様」
呼びかけられ振り返る。
バックミラー越しに運転している宮田と目が合う。
「足の痛みはいかがですか? クラスメイトを庇って毒蛇に噛まれたと学校から連絡が入った時には、肝を冷やしましたよ」
「ははは、心配をお掛けしました」
「どうか無茶だけはなさらないでくださいね」
「はい。気を付けます」
一瞬、あの男にこの事を報告したのかと尋ねようかと思った。和真の事を少しでも心配していたのかと。
だが、尋ねることはしなかった。今自分の側に居いるのは、父の秘書と汐音だ。それが答えだ。身体の奥がすっと冷えていく。
(もし、あのまま毒が回って命を落としていたら、彼らは僅かでも悲しんだりしたのだろうか?)
和真は頭を軽く左右に振った。
(『もし』なんて考えたって仕方がない。おれは今、生きている)
再び後ろを振り返る。
(それに、おれが死んだら確実にあいつが悲しむ。いや、悲しむレベルじゃないか……)
そう思えた瞬間、胸の奥に出来た氷塊が溶け出すような温もりを感じた。
「彼、……三峰さんは本当に高校一年生なのですか」
再び宮田に話しかけられた。
「え? そうですよ。……何か気になる事でもありましたか?」
「いえ。あまりにしっかりとされているというか、どこか高学生とは思えないような落ち着きを感じましたので」
(まあ記憶だけでいえば、宮田さんより上です。とは言えない)
和真は僅かに首を捻った。
確かにしっかりしているし頼りになる。
だが、和真にとってはどこか危なげで、放って置けない存在でもある。
「汐音は首席で合格する程に頭は良いんです。だからそう感じたのかもしれないですね。でも、4月に入学したばかりだし、やっぱりまだ危なっかしくて、手がかかるところもあるんですよ」
「珍しいですね。和真様がこれほど気に掛けられるとは」
「ははは。……まあ、そうですね」
確かに、今まで自分を守るために他人との間に壁を作り、距離を取っていた。それに宮田は気付いていたのだろう。
しかし、その壁を汐音はぶち壊して、瓦礫を乗り越えて、さらに距離を詰め、とうとう和真の心の中にまで入り込んで来てしまったのだ。
脳裏に唇を重ねた時に感じた温かさと優しさ、そして心が満たされたその記憶が思い出され、照れ臭くて頬を人差し指の先でポリポリと掻く。
「とても面倒くさい奴なんですよ」
「ふふふ。良い表情をされておられますよ。和真様」
鏡越しで宮田の優しい眼差しに見つめられ、とうとう赤面した顔を見られたくなくて身を深く沈めたのだった。
ホーネット250という種類だというバイクに乗っているのは、和真を盲目的に慕ってくる後輩の三峰汐音だ。
(本当に免許取りたてなのか?)
そう疑問に思ってしまうほど乗り慣れたような安定した運転をしている。
黒いフルフェイスのヘルメットを被っていて顔は見えないのに、笑みを浮かべこちらを見ている気がした。
「和真様」
呼びかけられ振り返る。
バックミラー越しに運転している宮田と目が合う。
「足の痛みはいかがですか? クラスメイトを庇って毒蛇に噛まれたと学校から連絡が入った時には、肝を冷やしましたよ」
「ははは、心配をお掛けしました」
「どうか無茶だけはなさらないでくださいね」
「はい。気を付けます」
一瞬、あの男にこの事を報告したのかと尋ねようかと思った。和真の事を少しでも心配していたのかと。
だが、尋ねることはしなかった。今自分の側に居いるのは、父の秘書と汐音だ。それが答えだ。身体の奥がすっと冷えていく。
(もし、あのまま毒が回って命を落としていたら、彼らは僅かでも悲しんだりしたのだろうか?)
和真は頭を軽く左右に振った。
(『もし』なんて考えたって仕方がない。おれは今、生きている)
再び後ろを振り返る。
(それに、おれが死んだら確実にあいつが悲しむ。いや、悲しむレベルじゃないか……)
そう思えた瞬間、胸の奥に出来た氷塊が溶け出すような温もりを感じた。
「彼、……三峰さんは本当に高校一年生なのですか」
再び宮田に話しかけられた。
「え? そうですよ。……何か気になる事でもありましたか?」
「いえ。あまりにしっかりとされているというか、どこか高学生とは思えないような落ち着きを感じましたので」
(まあ記憶だけでいえば、宮田さんより上です。とは言えない)
和真は僅かに首を捻った。
確かにしっかりしているし頼りになる。
だが、和真にとってはどこか危なげで、放って置けない存在でもある。
「汐音は首席で合格する程に頭は良いんです。だからそう感じたのかもしれないですね。でも、4月に入学したばかりだし、やっぱりまだ危なっかしくて、手がかかるところもあるんですよ」
「珍しいですね。和真様がこれほど気に掛けられるとは」
「ははは。……まあ、そうですね」
確かに、今まで自分を守るために他人との間に壁を作り、距離を取っていた。それに宮田は気付いていたのだろう。
しかし、その壁を汐音はぶち壊して、瓦礫を乗り越えて、さらに距離を詰め、とうとう和真の心の中にまで入り込んで来てしまったのだ。
脳裏に唇を重ねた時に感じた温かさと優しさ、そして心が満たされたその記憶が思い出され、照れ臭くて頬を人差し指の先でポリポリと掻く。
「とても面倒くさい奴なんですよ」
「ふふふ。良い表情をされておられますよ。和真様」
鏡越しで宮田の優しい眼差しに見つめられ、とうとう赤面した顔を見られたくなくて身を深く沈めたのだった。
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