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第二小節 彩るハルの季節、軋んでナル世界
p19 悲しみ一つ
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うねりを沈めたのはやはりイルミナ様だった。その後、リタを促し、その後ろへと下がった。
「……大神候補者として、ソルア・オオミカミの意志に従います。そして……あなた達亜種の友として、ソルア・オオミカミの意志に従います」
手を軽くあげて宣誓しているかに見えた。そして、後半の言葉を紡いだ瞬間にイルミナ様の首がこちらでも分かるほどにリタへと向いた。一方で僕らには亜種の友であるという言葉は、いつの間にか神であることを前提とした意味にとってかわっていた。そういった意味なら友であると言ってしまっても平等な関係を表す言葉にはなりえない。そう捉えるようになったのに理由なんてない。ただそういう風にしか捉えられないのだ。たぶん、何故か言葉通りに受け取った僕を除いては。
リタは先ほどよりも少し背筋が伸びたように感じた。どこかすっきりとしたような印象だった。
「では……私の守護者となり共に大神を目指す者の名を告げます」
その瞬間を待った。もちろん僕も淡い期待をしていたことは否定しない。ただそれ以上に欠陥品である僕が選ばれるわけはないと思っていた。いくら君を知っていたとしても。彼女だけの話ではないのだ。
などと考えているが、なかなかその名を口にせず。息を止めている者達も少なからずいるのか、苦しそうだった。
見かねたのか後ろのイルミナ様が何かを耳打ちするように横顔を近づけた。リタは驚いたようにイルミナ様に振り向いた。そしてこちらを見下ろし直し、一歩力強く前に進んだ。何かの踏ん切りがついたかのように、その一声は力強く意志に満ちていた。
「守護者は……ナル! ナルを選びます!」
ん、ナルか。おめでとうナル。僕は残念というか当然だったけど、リタの側で守ってあげてほしい。というか皆、呆けてないでさっきみたいに喜んだらどうだ? さすがに可哀想じゃないか。それにしても、どこだナルは、早く出てこいよ。
「妖精族のナル! いないのか!!」
ティフがまさかの大声で叫んでいた。妖精族にナルなんていただろうか? ナル、ナル……ナル?
「ナル兄ちゃん……?」
またラナに袖を引っ張られた。ラナは僕の顔を不思議そうに見つめていた。目が合うと大粒の涙が溢れ出していた。まずい何故か泣かせてしまったと、後ろのジクラを振り返る。怒られるかと思ったが、ジクラも泣き出していた。ドラクはこちらを強い眼差しで見つめていた。というか周りの皆が僕を見ている。そんな……わけがない。欠陥品である僕が……?
「お兄ちゃん。おめでとう」
ラナが僕に向けた賛辞。その瞳から涙が止まることはなく、ただそれでも精一杯の笑顔が僕がナルで、選びれたことを物語っていた。後ろからの拍手。ドラクがそうしたのを皮切りに、波紋が広がっていき拍手が広場を満たした。動けずにいるとラナに背中を押される。すると皆がおめでとうやら頑張れやら言って僕の背中を押していく。
「ラナ……っ」
僕は前ではなく後ろをかろうじて振り向いた。ちょうど垣間見えた隙間から、笑顔をなくし泣き顔だけになったラナ、その周りにジクラ、ドラク、そしてルルにセラ、クインが集まり励ましていた。僕は自分を恥じた。少しでも願ってしまった自分を。僕はあの子達の側に戻れないんだと、消えてしまった面影を僕は後悔と共に記憶に刻み込んだ。
祭壇の階段を登り切る。それなりに長い階段だったはずだが、気づけば終わりを迎え、真っ白に染められた地上ではない床に現実感が薄れる。少し奥ではエナがこちらを見つめていた。僕は約束を破ってしまったことに、目を背けてしまった。
「やっぱりあなたでしたね」
「え……?」
声をかけてきたのはイルミナ様だった。イルミナ様から僕はどんな風に見えているんだろう。少なくとも喜んでは見えないはずだ。それでも優しい声は変わりなかった。
「つらい選択をさせてしまいましたね」
ああ、やっぱり気づいていたのか。少しだけほんの少しだけ救われた気がした。
「ナル」
そうだ。もう後戻りはできない。この声に選ばれた以上、僕は前に進まざるを得ない。ラナ、皆、いつか必ず帰るから。
「ごめん。ナルの気持ち考えられなかった」
先ほどのやりとりが聞こえていたのか、それと、眼下で押し流される僕を見たのだろうか。リタはそのベール越しでも分かるほど落ち込んでいた。覗く口元が堅く結ばれ震えていた。
「ううん。僕こそ君の気持ち考えてなかった。ごめん。そして、僕を選んでくれてありがとう」
リタは顔を上げた。解いた口元には歯の後がくっきりと残っていた。選んでしまった罪悪と内に秘めた理由を抱えていたのだろう。リタも同じなんだと思うと重苦しさが薄れていく。代わりに彼女の守護者としての自覚が芽生えていく。
「では、守護者として、妖精族、ナルを選定したことを宣言します」
僕は膝をつき、リタから灰色の金属でできたブレスレットを左手首にはめられた。契約の証だと後から聞いた。施された文様は美しく、そして神の象徴の目に三角のエンブレムが存在を主張していた。その目が僕を睨んでいる気がして、そのエンブレム部分を下に回した。
僕の心は残したもののつっかえとこれからの希望と不安で入り交じった感情とで、軋み始めていた。
「……大神候補者として、ソルア・オオミカミの意志に従います。そして……あなた達亜種の友として、ソルア・オオミカミの意志に従います」
手を軽くあげて宣誓しているかに見えた。そして、後半の言葉を紡いだ瞬間にイルミナ様の首がこちらでも分かるほどにリタへと向いた。一方で僕らには亜種の友であるという言葉は、いつの間にか神であることを前提とした意味にとってかわっていた。そういった意味なら友であると言ってしまっても平等な関係を表す言葉にはなりえない。そう捉えるようになったのに理由なんてない。ただそういう風にしか捉えられないのだ。たぶん、何故か言葉通りに受け取った僕を除いては。
リタは先ほどよりも少し背筋が伸びたように感じた。どこかすっきりとしたような印象だった。
「では……私の守護者となり共に大神を目指す者の名を告げます」
その瞬間を待った。もちろん僕も淡い期待をしていたことは否定しない。ただそれ以上に欠陥品である僕が選ばれるわけはないと思っていた。いくら君を知っていたとしても。彼女だけの話ではないのだ。
などと考えているが、なかなかその名を口にせず。息を止めている者達も少なからずいるのか、苦しそうだった。
見かねたのか後ろのイルミナ様が何かを耳打ちするように横顔を近づけた。リタは驚いたようにイルミナ様に振り向いた。そしてこちらを見下ろし直し、一歩力強く前に進んだ。何かの踏ん切りがついたかのように、その一声は力強く意志に満ちていた。
「守護者は……ナル! ナルを選びます!」
ん、ナルか。おめでとうナル。僕は残念というか当然だったけど、リタの側で守ってあげてほしい。というか皆、呆けてないでさっきみたいに喜んだらどうだ? さすがに可哀想じゃないか。それにしても、どこだナルは、早く出てこいよ。
「妖精族のナル! いないのか!!」
ティフがまさかの大声で叫んでいた。妖精族にナルなんていただろうか? ナル、ナル……ナル?
「ナル兄ちゃん……?」
またラナに袖を引っ張られた。ラナは僕の顔を不思議そうに見つめていた。目が合うと大粒の涙が溢れ出していた。まずい何故か泣かせてしまったと、後ろのジクラを振り返る。怒られるかと思ったが、ジクラも泣き出していた。ドラクはこちらを強い眼差しで見つめていた。というか周りの皆が僕を見ている。そんな……わけがない。欠陥品である僕が……?
「お兄ちゃん。おめでとう」
ラナが僕に向けた賛辞。その瞳から涙が止まることはなく、ただそれでも精一杯の笑顔が僕がナルで、選びれたことを物語っていた。後ろからの拍手。ドラクがそうしたのを皮切りに、波紋が広がっていき拍手が広場を満たした。動けずにいるとラナに背中を押される。すると皆がおめでとうやら頑張れやら言って僕の背中を押していく。
「ラナ……っ」
僕は前ではなく後ろをかろうじて振り向いた。ちょうど垣間見えた隙間から、笑顔をなくし泣き顔だけになったラナ、その周りにジクラ、ドラク、そしてルルにセラ、クインが集まり励ましていた。僕は自分を恥じた。少しでも願ってしまった自分を。僕はあの子達の側に戻れないんだと、消えてしまった面影を僕は後悔と共に記憶に刻み込んだ。
祭壇の階段を登り切る。それなりに長い階段だったはずだが、気づけば終わりを迎え、真っ白に染められた地上ではない床に現実感が薄れる。少し奥ではエナがこちらを見つめていた。僕は約束を破ってしまったことに、目を背けてしまった。
「やっぱりあなたでしたね」
「え……?」
声をかけてきたのはイルミナ様だった。イルミナ様から僕はどんな風に見えているんだろう。少なくとも喜んでは見えないはずだ。それでも優しい声は変わりなかった。
「つらい選択をさせてしまいましたね」
ああ、やっぱり気づいていたのか。少しだけほんの少しだけ救われた気がした。
「ナル」
そうだ。もう後戻りはできない。この声に選ばれた以上、僕は前に進まざるを得ない。ラナ、皆、いつか必ず帰るから。
「ごめん。ナルの気持ち考えられなかった」
先ほどのやりとりが聞こえていたのか、それと、眼下で押し流される僕を見たのだろうか。リタはそのベール越しでも分かるほど落ち込んでいた。覗く口元が堅く結ばれ震えていた。
「ううん。僕こそ君の気持ち考えてなかった。ごめん。そして、僕を選んでくれてありがとう」
リタは顔を上げた。解いた口元には歯の後がくっきりと残っていた。選んでしまった罪悪と内に秘めた理由を抱えていたのだろう。リタも同じなんだと思うと重苦しさが薄れていく。代わりに彼女の守護者としての自覚が芽生えていく。
「では、守護者として、妖精族、ナルを選定したことを宣言します」
僕は膝をつき、リタから灰色の金属でできたブレスレットを左手首にはめられた。契約の証だと後から聞いた。施された文様は美しく、そして神の象徴の目に三角のエンブレムが存在を主張していた。その目が僕を睨んでいる気がして、そのエンブレム部分を下に回した。
僕の心は残したもののつっかえとこれからの希望と不安で入り交じった感情とで、軋み始めていた。
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