25 / 25
第二小節 彩るハルの季節、軋んでナル世界
p19 悲しみ一つ
しおりを挟む
うねりを沈めたのはやはりイルミナ様だった。その後、リタを促し、その後ろへと下がった。
「……大神候補者として、ソルア・オオミカミの意志に従います。そして……あなた達亜種の友として、ソルア・オオミカミの意志に従います」
手を軽くあげて宣誓しているかに見えた。そして、後半の言葉を紡いだ瞬間にイルミナ様の首がこちらでも分かるほどにリタへと向いた。一方で僕らには亜種の友であるという言葉は、いつの間にか神であることを前提とした意味にとってかわっていた。そういった意味なら友であると言ってしまっても平等な関係を表す言葉にはなりえない。そう捉えるようになったのに理由なんてない。ただそういう風にしか捉えられないのだ。たぶん、何故か言葉通りに受け取った僕を除いては。
リタは先ほどよりも少し背筋が伸びたように感じた。どこかすっきりとしたような印象だった。
「では……私の守護者となり共に大神を目指す者の名を告げます」
その瞬間を待った。もちろん僕も淡い期待をしていたことは否定しない。ただそれ以上に欠陥品である僕が選ばれるわけはないと思っていた。いくら君を知っていたとしても。彼女だけの話ではないのだ。
などと考えているが、なかなかその名を口にせず。息を止めている者達も少なからずいるのか、苦しそうだった。
見かねたのか後ろのイルミナ様が何かを耳打ちするように横顔を近づけた。リタは驚いたようにイルミナ様に振り向いた。そしてこちらを見下ろし直し、一歩力強く前に進んだ。何かの踏ん切りがついたかのように、その一声は力強く意志に満ちていた。
「守護者は……ナル! ナルを選びます!」
ん、ナルか。おめでとうナル。僕は残念というか当然だったけど、リタの側で守ってあげてほしい。というか皆、呆けてないでさっきみたいに喜んだらどうだ? さすがに可哀想じゃないか。それにしても、どこだナルは、早く出てこいよ。
「妖精族のナル! いないのか!!」
ティフがまさかの大声で叫んでいた。妖精族にナルなんていただろうか? ナル、ナル……ナル?
「ナル兄ちゃん……?」
またラナに袖を引っ張られた。ラナは僕の顔を不思議そうに見つめていた。目が合うと大粒の涙が溢れ出していた。まずい何故か泣かせてしまったと、後ろのジクラを振り返る。怒られるかと思ったが、ジクラも泣き出していた。ドラクはこちらを強い眼差しで見つめていた。というか周りの皆が僕を見ている。そんな……わけがない。欠陥品である僕が……?
「お兄ちゃん。おめでとう」
ラナが僕に向けた賛辞。その瞳から涙が止まることはなく、ただそれでも精一杯の笑顔が僕がナルで、選びれたことを物語っていた。後ろからの拍手。ドラクがそうしたのを皮切りに、波紋が広がっていき拍手が広場を満たした。動けずにいるとラナに背中を押される。すると皆がおめでとうやら頑張れやら言って僕の背中を押していく。
「ラナ……っ」
僕は前ではなく後ろをかろうじて振り向いた。ちょうど垣間見えた隙間から、笑顔をなくし泣き顔だけになったラナ、その周りにジクラ、ドラク、そしてルルにセラ、クインが集まり励ましていた。僕は自分を恥じた。少しでも願ってしまった自分を。僕はあの子達の側に戻れないんだと、消えてしまった面影を僕は後悔と共に記憶に刻み込んだ。
祭壇の階段を登り切る。それなりに長い階段だったはずだが、気づけば終わりを迎え、真っ白に染められた地上ではない床に現実感が薄れる。少し奥ではエナがこちらを見つめていた。僕は約束を破ってしまったことに、目を背けてしまった。
「やっぱりあなたでしたね」
「え……?」
声をかけてきたのはイルミナ様だった。イルミナ様から僕はどんな風に見えているんだろう。少なくとも喜んでは見えないはずだ。それでも優しい声は変わりなかった。
「つらい選択をさせてしまいましたね」
ああ、やっぱり気づいていたのか。少しだけほんの少しだけ救われた気がした。
「ナル」
そうだ。もう後戻りはできない。この声に選ばれた以上、僕は前に進まざるを得ない。ラナ、皆、いつか必ず帰るから。
「ごめん。ナルの気持ち考えられなかった」
先ほどのやりとりが聞こえていたのか、それと、眼下で押し流される僕を見たのだろうか。リタはそのベール越しでも分かるほど落ち込んでいた。覗く口元が堅く結ばれ震えていた。
「ううん。僕こそ君の気持ち考えてなかった。ごめん。そして、僕を選んでくれてありがとう」
リタは顔を上げた。解いた口元には歯の後がくっきりと残っていた。選んでしまった罪悪と内に秘めた理由を抱えていたのだろう。リタも同じなんだと思うと重苦しさが薄れていく。代わりに彼女の守護者としての自覚が芽生えていく。
「では、守護者として、妖精族、ナルを選定したことを宣言します」
僕は膝をつき、リタから灰色の金属でできたブレスレットを左手首にはめられた。契約の証だと後から聞いた。施された文様は美しく、そして神の象徴の目に三角のエンブレムが存在を主張していた。その目が僕を睨んでいる気がして、そのエンブレム部分を下に回した。
僕の心は残したもののつっかえとこれからの希望と不安で入り交じった感情とで、軋み始めていた。
「……大神候補者として、ソルア・オオミカミの意志に従います。そして……あなた達亜種の友として、ソルア・オオミカミの意志に従います」
手を軽くあげて宣誓しているかに見えた。そして、後半の言葉を紡いだ瞬間にイルミナ様の首がこちらでも分かるほどにリタへと向いた。一方で僕らには亜種の友であるという言葉は、いつの間にか神であることを前提とした意味にとってかわっていた。そういった意味なら友であると言ってしまっても平等な関係を表す言葉にはなりえない。そう捉えるようになったのに理由なんてない。ただそういう風にしか捉えられないのだ。たぶん、何故か言葉通りに受け取った僕を除いては。
リタは先ほどよりも少し背筋が伸びたように感じた。どこかすっきりとしたような印象だった。
「では……私の守護者となり共に大神を目指す者の名を告げます」
その瞬間を待った。もちろん僕も淡い期待をしていたことは否定しない。ただそれ以上に欠陥品である僕が選ばれるわけはないと思っていた。いくら君を知っていたとしても。彼女だけの話ではないのだ。
などと考えているが、なかなかその名を口にせず。息を止めている者達も少なからずいるのか、苦しそうだった。
見かねたのか後ろのイルミナ様が何かを耳打ちするように横顔を近づけた。リタは驚いたようにイルミナ様に振り向いた。そしてこちらを見下ろし直し、一歩力強く前に進んだ。何かの踏ん切りがついたかのように、その一声は力強く意志に満ちていた。
「守護者は……ナル! ナルを選びます!」
ん、ナルか。おめでとうナル。僕は残念というか当然だったけど、リタの側で守ってあげてほしい。というか皆、呆けてないでさっきみたいに喜んだらどうだ? さすがに可哀想じゃないか。それにしても、どこだナルは、早く出てこいよ。
「妖精族のナル! いないのか!!」
ティフがまさかの大声で叫んでいた。妖精族にナルなんていただろうか? ナル、ナル……ナル?
「ナル兄ちゃん……?」
またラナに袖を引っ張られた。ラナは僕の顔を不思議そうに見つめていた。目が合うと大粒の涙が溢れ出していた。まずい何故か泣かせてしまったと、後ろのジクラを振り返る。怒られるかと思ったが、ジクラも泣き出していた。ドラクはこちらを強い眼差しで見つめていた。というか周りの皆が僕を見ている。そんな……わけがない。欠陥品である僕が……?
「お兄ちゃん。おめでとう」
ラナが僕に向けた賛辞。その瞳から涙が止まることはなく、ただそれでも精一杯の笑顔が僕がナルで、選びれたことを物語っていた。後ろからの拍手。ドラクがそうしたのを皮切りに、波紋が広がっていき拍手が広場を満たした。動けずにいるとラナに背中を押される。すると皆がおめでとうやら頑張れやら言って僕の背中を押していく。
「ラナ……っ」
僕は前ではなく後ろをかろうじて振り向いた。ちょうど垣間見えた隙間から、笑顔をなくし泣き顔だけになったラナ、その周りにジクラ、ドラク、そしてルルにセラ、クインが集まり励ましていた。僕は自分を恥じた。少しでも願ってしまった自分を。僕はあの子達の側に戻れないんだと、消えてしまった面影を僕は後悔と共に記憶に刻み込んだ。
祭壇の階段を登り切る。それなりに長い階段だったはずだが、気づけば終わりを迎え、真っ白に染められた地上ではない床に現実感が薄れる。少し奥ではエナがこちらを見つめていた。僕は約束を破ってしまったことに、目を背けてしまった。
「やっぱりあなたでしたね」
「え……?」
声をかけてきたのはイルミナ様だった。イルミナ様から僕はどんな風に見えているんだろう。少なくとも喜んでは見えないはずだ。それでも優しい声は変わりなかった。
「つらい選択をさせてしまいましたね」
ああ、やっぱり気づいていたのか。少しだけほんの少しだけ救われた気がした。
「ナル」
そうだ。もう後戻りはできない。この声に選ばれた以上、僕は前に進まざるを得ない。ラナ、皆、いつか必ず帰るから。
「ごめん。ナルの気持ち考えられなかった」
先ほどのやりとりが聞こえていたのか、それと、眼下で押し流される僕を見たのだろうか。リタはそのベール越しでも分かるほど落ち込んでいた。覗く口元が堅く結ばれ震えていた。
「ううん。僕こそ君の気持ち考えてなかった。ごめん。そして、僕を選んでくれてありがとう」
リタは顔を上げた。解いた口元には歯の後がくっきりと残っていた。選んでしまった罪悪と内に秘めた理由を抱えていたのだろう。リタも同じなんだと思うと重苦しさが薄れていく。代わりに彼女の守護者としての自覚が芽生えていく。
「では、守護者として、妖精族、ナルを選定したことを宣言します」
僕は膝をつき、リタから灰色の金属でできたブレスレットを左手首にはめられた。契約の証だと後から聞いた。施された文様は美しく、そして神の象徴の目に三角のエンブレムが存在を主張していた。その目が僕を睨んでいる気がして、そのエンブレム部分を下に回した。
僕の心は残したもののつっかえとこれからの希望と不安で入り交じった感情とで、軋み始めていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる