シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実

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16.神川拓海


「咲良、一緒に暮らそう」

突然向けられた言葉。

咲良は驚いて声も出なかった。

「……わたしの話、聞いてた?彼氏がいるって言ったんだよ」

「聞いてたよ。でも、それがなに?」

「なにって……」

「その彼氏のこと、咲良は本当に好きなの?」

「……!」

言い当てられてしまった。

「……好きだよ。だから付き合ってるの」

「本当に?あの子のためとかじゃなくて?」

なぜこんなにもわかるのだろう。

まるで咲良のことをなんでもわかっているように。

いや、実際そうなのだ。

付き合ってる時から、彼は完璧だった。

咲良の心情を把握し、咲良が最も欲しい言動をしてくれた。

そんな一面を、咲良は好きになったのだ。

「あの子のためだったら、やめておいた方がいい」

「……どうして、そんなことを言うの?」

「僕は咲良にも幸せになってほしいんだよ」

咲凪を優先する夏木とは違う、咲良を咲良として見てくれる人。

夏木のことだって嫌いではない。

自分より娘を優先するのは当たり前のことだと思っていたし、そうされることが嬉しかった。

でも、実際は?

咲良だって、咲凪を産んだ時はまだ若い女性だ。

諦めたことだってたくさんある。

そんな咲良を、母親ではなくひとりの女性として見てくれる人。

嫌えるはずがなかった。

「まるで、あなたと一緒にいることでしか、わたしが幸せになれないみたいに言うんだね」

「そこまでは思ってないけど、僕は咲良とあの子を幸せにする自信があるよ」

その自信はどこから来るのだろう。

昔から自信家だった。

その自信に満ち溢れる姿に魅力を感じた日もある。

「無理にとは言わないよ。考えておいて」

彼はにっこりと笑った。

「ばぱ」

そこへ、咲凪が歩み寄ってくる。

「あしょぼー?」

首を傾けて聞いてくる姿はかわいらしい。

「うん、いいよ」

それにも笑って答え、彼は砂場へと歩いていった。



「咲凪、帰るよ」

日が暮れかけてきて、咲良が声をかける。

公園にはもう既に誰もいない。

いつもはすぐに帰りたがるのに、今日は大はしゃぎだ。

「ん」

嫌がるかと思えば、すんなりと立ち上がる。

「ぱぱ、かえろ」

そして、いつもは母に繋がれる手は、彼に差し出された。

「パパは帰れないよ」

「……?」

彼と同じ家には帰れないと教えてあげても、きょとんとした顔をする。

「パパとは別々のお家でしょ?ママのお家に帰るんだよ」

「……ぱぱ、いっしょ、いく?」

「ごめんね。一緒には行けないんだ」

彼も状況を察して断ってくれる。

よかったと思った。

ここで無責任なことを言う人ではなくて。

「……やぁ……」

ゆっくりと、咲凪の目に涙が溜まる。

それは、夏だというのに日焼けのない白い頬を滑り落ちた。

「咲凪」

娘の涙には弱い。珍しいからこそ、だ。

いつも我慢させていることがわかっているから、できるだけ泣かせたくないと思ってしまう。

それでも、今日だけは負けるわけにはいかなかった。

「泣かないで、咲凪」

咲良は冷静にと心がけて口を開く。

「やああぁぁぁぁ……」

どんなに頭を撫でても、抱っこしてあげても、泣き止んでくれない。

寂しい公園に、寂しい泣き声だけが響く。

「まら……っ、あしょぶぅ……」

「今日はもう終わりなの。ほら、お空も真っ暗になるよ」

「ぱぱといっしょぉ……!」

どうしても彼と一緒がいいらしい。

「わがまま言わないで……」

咲良はついそう言ってしまった。

「ちゅちゅじちゃ、ままもぱぱも、いっしょらもんっ」

咲凪だって、自分の家が普通でないことは知っている。

水瀬家のように両親揃っている家がまだまだ多数派の世界だ。

咲良の方が悲しくなってくる。

ぎゅっと締め付けられる胸が、そっと何かに包まれた。

「咲良、また咲凪に会いに来てもいいかい?」

「……あ……」

そうだ。その手があった。

咲良が頷くのを確認してから、彼は娘を見る。

「咲凪、また一緒に遊べるよ。だから、今日は帰ろうか」

「……っほんと……?」

咲凪がしゃくりあげながら聞いた。

「本当だよ。約束しようか」

「いちゅ?」

日時まで約束する気なのか。

「拓海くんがよければ、来週でもわたしは……」

動揺のあまり、昔の呼び方を使ってしまった。

そのことにも、彼がそれを受けて微笑んだことにも、咲良は気づかなかった。

「じゃあ来週の日曜日だね」

「あしちゃ?」

「7回目の明日だよ」

次に会う約束を取り付けたことで、咲凪は落ち着いてくれた。



「は?!」

職場で夏木に相談すると、彼はやはり驚いた。

「……マジ?」

「はい」

「マジかぁ……」

がっくりとうなだれ、ショックを受けているのは咲良にもわかる。

「で、どうすんの?」

「……どうしましょうか」

そんなの、咲良が聞きたい。

本当に、どうしたらいいのだろう。

こんなことを相談できる人間がそばにいないことが悔やまれる。

それもあって、夏木に相談しているのだが。

「……ま、仕方ないよな」

夏木は寂しそうな顔をしていた。

「ゆっくり決めろよ。別に急ぐことでもないしな」

咲良も無責任な子どもではない。

自分で選んで、自分で決断しなくては。

「あ、そうだ。今日も咲凪ちゃんに会いに行っていい?」

「いいですよ」

夏木が普段通りに戻ったことで、咲良の方も普段通りの態度を装った。

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