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17.揺れる心
「さーなちゃん」
「おいちゃ、まちゃきちゃの?」
バッグを持ってきた咲凪が、大人っぽく呆れてみせる。
「咲凪、そんなこと言わないで」
咲良は苦笑をもらし、バッグを持ってあげた。
「今日はおじちゃんとご飯行くか~?」
「ん、いーよ」
咲凪の了承を得たところで、咲凪のクラス担任が駆け寄ってきた。
「咲凪ちゃんのお母さん、少しいいですか?」
「はい」
咲良は頷き、チラリと夏木を見る。
「いいよ。咲凪ちゃんは見ておくから」
「お願いします」
夏木が任せろと頷くのを見て、咲凪から少し離れた。
「実は、……お見せするか迷ったのですが……」
差し出されたのは、細長い色紙だ。
「7月に、咲凪ちゃんに書いてもらった短冊です」
時期はもう8月の終わり。随分と温めていたらしい。
「咲凪ちゃんは簡単な平仮名が書けるので、お願い事を書くようにお願いしたんです。そうしたら……」
『ぱぱ ほしい』
子どもらしい不器用な字でそう書かれていた。
胸の奥が何かにぎゅっとつかまれる。
「一番上に飾ってってお願いされました。どうしても叶えてほしい願い事だったんでしょうね……」
時期を考えると、ちょうど園でからかわれた頃だろうか。
父親のことを聞いて来ないから気にしていないとも思ったが、そんなことはない。
咲凪は咲凪なりに気にしているのだ。
「……ありがとう、ございます」
それをもらえたことにお礼を言って、咲良は娘が待つ場所へ戻った。
「お待たせしました」
「ん、おかえり」
咲凪と遊びながら待っていた夏木が、ごく自然に迎える。
「まま、おなかしゅいちゃ」
咲凪は見上げて無邪気に言った。
「うん、すぐご飯行こうね」
咲良は笑顔を作った。
3人でいつものファミレスに向かう。
その道中も、短冊のことが頭から離れなかった。
だがその異変を咲凪や夏木に知られないようにふるまう。
「咲凪ちゃん、いい子だよな~」
いつもの席に座り、いつものように頭を撫でながらしみじみと呟かれた言葉に、
「しゃぁたん、いいこ?」
お絵かきをしていた咲凪がハッと顔を上げる。
「ん?いい子だぞ。どうした?」
どうしていい子かどうかを気にするのだろう。
何か嫌な思いをさせてしまっていたか。
そんな母親の思いを横に、咲凪は真っ直ぐな目で続けた。
「しゃんたしゃん、くる?」
「サンタさん?」
「ん。いいこのちょこしか、にゃいの」
まだ秋にもなっていないのに、園ではサンタクロースの話になっているのか。
「サンタさんが来てくれるかは、おじちゃんにはわかんねぇなぁ」
「ん……」
それを聞いて、わかりやすく落ち込む。
「あ、でも、サンタさんが来てくれなかったら、おじちゃんが欲しい物買ってあげるぞ!」
「……ん」
この調子で咲凪のほしいものを聞き出せればと思ったが、咲凪の望みはそうではないらしい。
もしかして、と思った。
「咲凪ちゃん、何か欲しい物あるのか?」
「ぱぱ」
その答えによどみや迷いはなかった。
「ぱぱと、いっしょ」
これには夏木も複雑そうな顔をする。
「んー、ママと一緒じゃダメなのか?」
それでも聞いてくれる。これは咲良のためだろうか。
「ままも、いっしょ。みんなれいっしょ」
「みんなで一緒か……」
なんて贅沢な、それでいてなんて当たり前の願いなのだろう。
その願いをかなえてあげることこそ、母親の務めなのだろうか。
そして、日曜日がやってきた。
近所の公園で会う約束をし、咲凪を連れて公園に行く。
咲凪は、彼と会えるとわかっているのか、スキップでもしそうな様子だった。
「咲良」
公園の前で、彼は待っていた。
軽く手を振る姿に、
「ぱぱ!」
咲凪が駆け寄っていく。
「咲凪、元気そうだね」
「ん」
大きな手を心地よさそうに受け入れる咲凪に、咲良はじっとその様子を見つめる。
こんなに懐いているのだ。
迷うことなどないのではないか。
そう思っているのに、なぜか踏み出せない。
「咲良、どうかした?」
そんなことを考えては沼にはまる咲良に、彼が穏やかな声をかける。
ううん、と首を振り、足元で不思議そうに見上げる娘に微笑みかけた。
「遊ぼうか」
「うん」
咲凪はにっこりと笑った。
1時間くらいは遊んだだろうか。
まだ日は高いと、ベンチに座って空を見上げる。
子どもの体力はすごいもので、咲良では追い付かなくなっている。
拓海や夏木がいてくれることが、本当に助かっていた。
でも、いつまでも2人に甘えるわけにはいかない。
どちらか一人に……、もしくは、2人とも……。
またも答えの決まらない問いにはまりそうになった時、
「ままぁ?」
咲凪の声に、ハッとした。
「どうしたの?喉乾いた?」
慌てて笑顔を作る。
「んーん」
咲凪はお茶ではないと首を振り、じっと目を見つめた。
「おうち、いく?」
「もう帰るの?」
先週はあんなに泣くまで帰りたがらなかったのに、と咲良は不思議に思う。
もう疲れたのだろうか。
「ぱぱと、おうちれあしょぶ」
「お家で遊びたいの?」
「ん」
それに頷く娘を見、そしてその隣に立つ彼を見た。
彼は困ったように眉根を下げている。
「いいよ」
咲良はそう答えた。
「散らかってるけど、それでもよければ」
それは、彼に向ける。
「嬉しいよ」
彼はそう笑って答えた。
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