シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実

文字の大きさ
17 / 41

17.揺れる心


「さーなちゃん」

「おいちゃ、まちゃきちゃの?」

バッグを持ってきた咲凪が、大人っぽく呆れてみせる。

「咲凪、そんなこと言わないで」

咲良は苦笑をもらし、バッグを持ってあげた。

「今日はおじちゃんとご飯行くか~?」

「ん、いーよ」

咲凪の了承を得たところで、咲凪のクラス担任が駆け寄ってきた。

「咲凪ちゃんのお母さん、少しいいですか?」

「はい」

咲良は頷き、チラリと夏木を見る。

「いいよ。咲凪ちゃんは見ておくから」

「お願いします」

夏木が任せろと頷くのを見て、咲凪から少し離れた。

「実は、……お見せするか迷ったのですが……」

差し出されたのは、細長い色紙だ。

「7月に、咲凪ちゃんに書いてもらった短冊です」

時期はもう8月の終わり。随分と温めていたらしい。

「咲凪ちゃんは簡単な平仮名が書けるので、お願い事を書くようにお願いしたんです。そうしたら……」

『ぱぱ ほしい』

子どもらしい不器用な字でそう書かれていた。

胸の奥が何かにぎゅっとつかまれる。

「一番上に飾ってってお願いされました。どうしても叶えてほしい願い事だったんでしょうね……」

時期を考えると、ちょうど園でからかわれた頃だろうか。

父親のことを聞いて来ないから気にしていないとも思ったが、そんなことはない。

咲凪は咲凪なりに気にしているのだ。

「……ありがとう、ございます」

それをもらえたことにお礼を言って、咲良は娘が待つ場所へ戻った。

「お待たせしました」

「ん、おかえり」

咲凪と遊びながら待っていた夏木が、ごく自然に迎える。

「まま、おなかしゅいちゃ」

咲凪は見上げて無邪気に言った。

「うん、すぐご飯行こうね」

咲良は笑顔を作った。



3人でいつものファミレスに向かう。

その道中も、短冊のことが頭から離れなかった。

だがその異変を咲凪や夏木に知られないようにふるまう。

「咲凪ちゃん、いい子だよな~」

いつもの席に座り、いつものように頭を撫でながらしみじみと呟かれた言葉に、

「しゃぁたん、いいこ?」

お絵かきをしていた咲凪がハッと顔を上げる。

「ん?いい子だぞ。どうした?」

どうしていい子かどうかを気にするのだろう。

何か嫌な思いをさせてしまっていたか。

そんな母親の思いを横に、咲凪は真っ直ぐな目で続けた。

「しゃんたしゃん、くる?」

「サンタさん?」

「ん。いいこのちょこしか、にゃいの」

まだ秋にもなっていないのに、園ではサンタクロースの話になっているのか。

「サンタさんが来てくれるかは、おじちゃんにはわかんねぇなぁ」

「ん……」

それを聞いて、わかりやすく落ち込む。

「あ、でも、サンタさんが来てくれなかったら、おじちゃんが欲しい物買ってあげるぞ!」

「……ん」

この調子で咲凪のほしいものを聞き出せればと思ったが、咲凪の望みはそうではないらしい。

もしかして、と思った。

「咲凪ちゃん、何か欲しい物あるのか?」

「ぱぱ」

その答えによどみや迷いはなかった。

「ぱぱと、いっしょ」

これには夏木も複雑そうな顔をする。

「んー、ママと一緒じゃダメなのか?」

それでも聞いてくれる。これは咲良のためだろうか。

「ままも、いっしょ。みんなれいっしょ」

「みんなで一緒か……」

なんて贅沢な、それでいてなんて当たり前の願いなのだろう。

その願いをかなえてあげることこそ、母親の務めなのだろうか。



そして、日曜日がやってきた。

近所の公園で会う約束をし、咲凪を連れて公園に行く。

咲凪は、彼と会えるとわかっているのか、スキップでもしそうな様子だった。

「咲良」

公園の前で、彼は待っていた。

軽く手を振る姿に、

「ぱぱ!」

咲凪が駆け寄っていく。

「咲凪、元気そうだね」

「ん」

大きな手を心地よさそうに受け入れる咲凪に、咲良はじっとその様子を見つめる。

こんなに懐いているのだ。

迷うことなどないのではないか。

そう思っているのに、なぜか踏み出せない。

「咲良、どうかした?」

そんなことを考えては沼にはまる咲良に、彼が穏やかな声をかける。

ううん、と首を振り、足元で不思議そうに見上げる娘に微笑みかけた。

「遊ぼうか」

「うん」

咲凪はにっこりと笑った。

1時間くらいは遊んだだろうか。

まだ日は高いと、ベンチに座って空を見上げる。

子どもの体力はすごいもので、咲良では追い付かなくなっている。

拓海や夏木がいてくれることが、本当に助かっていた。

でも、いつまでも2人に甘えるわけにはいかない。

どちらか一人に……、もしくは、2人とも……。

またも答えの決まらない問いにはまりそうになった時、

「ままぁ?」

咲凪の声に、ハッとした。

「どうしたの?喉乾いた?」

慌てて笑顔を作る。

「んーん」

咲凪はお茶ではないと首を振り、じっと目を見つめた。

「おうち、いく?」

「もう帰るの?」

先週はあんなに泣くまで帰りたがらなかったのに、と咲良は不思議に思う。

もう疲れたのだろうか。

「ぱぱと、おうちれあしょぶ」

「お家で遊びたいの?」

「ん」

それに頷く娘を見、そしてその隣に立つ彼を見た。

彼は困ったように眉根を下げている。

「いいよ」

咲良はそう答えた。

「散らかってるけど、それでもよければ」

それは、彼に向ける。

「嬉しいよ」

彼はそう笑って答えた。

感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。