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とある貴族令嬢と執事のお話
とある執事の狂った愛
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(……ああ、すべて上手くいった)
この腕の中にいるヴィオラを強く抱きしめながらシンは今までの軌跡を思い返していた。
シンがまだ名前もなかった頃、王都から離れた街のスラム街で血を這うような生活をしていた。身寄りのないシンは自分1人で生きていくしかなく、子どもながらに汚い仕事も辛い仕事も全て一通りしていた。今日生き残れるか、明日も生き残れるのか、そんな命の保障もない生活で、その時のシンは生きるということしか考えてこなかった。
……彼女に出会うまでは。
「誰……?」
裏の仕事でミスを犯し、怪我を負ったシンはいつの間にか貴族の屋敷に紛れ込んでいたらしい。草木の影に隠れていたシンは年下の貴族令嬢に見つかってしまった。
(どうする……?このままだと護衛に呼ばれて殺される。それならいっそのこと……)
そう身構えていると、少女は綺麗なハンカチを取り出した。
「ごめんなさい。今の私に出来ることはこれぐらいしかなくて……」
そういって傷口をハンカチで結んだ。
「本当は薬があればいいんだけど、下手に動いたら他の人に見つかっちゃうから」
そう言って儚げに笑うと、彼女は他に追求もせずにその場から離れていった。
それから動けるようになるまで屋敷の者たちは誰1人ここまで来ることはなかった。恐らくあの令嬢が取り計らったのだろう。
シンはこの時、胸の奥からゾクゾクと何かが湧き上がった。彼女の全てを諦めても尚、優しさだけは失わずにいた儚げな笑顔を思い出すたびに体の細胞全てが彼女を求めている。
(ああ!!この女が欲しい……!!)
それからありとあらゆる術を使ってヴィオラの屋敷の使用人となり、地位を確立していった。それでもせいぜい貴族出身でないシンが得られる最高の地位は公爵令嬢に仕える執事までだった。どれだけ実績を積もうが執事は所詮貴族に仕える平民であり、貴族と同等の立場にはなれない。
手を伸ばせばいつだって触れて、抱きしめて連れ去ってしまえる距離にいるのに、貴族と平民という立場が邪魔をする。
これだけ死力を尽くしてもヴィオラの地位まで届くことはない。しかも彼女はあの王族の婚約者だ。よほどのことがない限り婚約解消など不可能である。
シンはヴィオラの後ろで控え、涼し気な仮面を被って王太子を見ていた。
(なんて忌々しい……、このような屑がヴィオラ様の伴侶になるのか)
ヴィオラ様の美しい体も、優しい心も、清らかな魂も、地位しか取り柄のないこのような屑に踏みにじられ、穢されるのか。
(ありえない、ありえない。ヴィオラ様が、こんな屑に私は全てを奪われるのか)
何の苦労もしたことない屑が、ただ地位があるだけの屑が全てを簡単に奪っていくのか。お前は知っているのか?ヴィオラ様がどれ程お前のような屑の為に心と体を削られているのか。寝る間も惜しんで勉強し、常に婚約者に恥じないように身なりを整え、礼儀作法を完璧にこなしていることに。
それをお前は与えられるそれを当たり前だと無下にし、自分の所有物のように扱う。
(……許せるわけがない。)
こんな屑に奪われるくらいなら、私は悪魔と化して彼女を攫ってゆく。
これ以上、彼女に並ぶことができないのならヴィオラを堕とせばいい。
いくらお互いに愛の欠片すらなくても貴族の婚約は絶対だ。特に王族との婚約はよっぽどの理由がなくては破棄できない。あの屑を支えられるのは献身的なヴィオラしかいない。こちらから破棄しようにも国王たちが許さないだろう。あの屑だってヴィオラのことを下衆な視線で見ていることは分かっている。プライドの高い屑が婚約破棄を受けるわけがない。
なら向こうから婚約破棄を言い渡せるようにしむければいい。殿下があの女に好意を持っているのはすぐにわかった。あの女は王妃の座と狙い、殿下の容姿を好んでいたから簡単にそそのかすことができた。大勢の前で婚約破棄を言い渡せば、王も周りの貴族も皆2人の結婚を祝福してくれると。空っぽの頭の2人はあっという間に信じて行動してくれた。
(……あぁ!!本当に馬鹿は動かしやすい!!)
現国王がヴィオラを逃がすわけがないというのに。婚約破棄したところで第二王子との婚姻を結びなおすに決まっている。そんなことさせるわけにはいかない。ヴィオラに目をつけている貴族共が出払っている間に婚約破棄を言い渡すべきだと取り巻きを介して進言して正解だった。
(ヴィオラ様、あんな男は貴女に相応しくない。貴女がどれ程未来の王妃の為に尽力しているのか誰も知らない。知らなくていい。そう、私だけが知っていればいい)
ヴィオラがこの国から去れば、今まで彼女が牽制していた第二王子を支持する貴族共が一斉に動き出すだろう。あの頭の足りない殿下と常識のない令嬢、そして見る目のない取り巻きたちがそれを抑えられるはずもない。数日で王宮内は混乱するだろう。
現国王が視察に行っている間に事を起こすように運ばせて正解だった。あの殿下の父親の割にはまともな思考回路を持つあの男がいたならばここまで婚約破棄が上手くことはなかった。王妃はヴィオラの王妃としての資質を見抜いていずれ自分より素晴らしい王妃になることが許せなくて散々ヴィオラを貶していたような人格の持ち主だ。ヴィオラの婚約破棄を喜んでいるだろう。さずがあの馬鹿を育てた母親だ。結果、国の衰退に貢献していることに気付いていないのだろうか。まぁ馬鹿な親子はそんなこと露ほども思っていないだろう。
(……あぁ、ヴィオラ様がいなくなったこの国の末路を見れないのは本当に残念だ)
ヴィオラを陥れた馬鹿どもには社会的な制裁が待っている。国民に支持されていたヴィオラを国外追放したことは明日の新聞に掲載される手筈になっている。勿論、彼女は冤罪で寧ろあの令嬢やその他の令嬢に嫌がらせを受けていたことも事細かに、しかも証拠付きで情報を渡している。明日には王都中、大騒ぎになっているだろう。
ヴィオラの実家の公爵家の方も当主が裏で他国と麻薬の密輸をしていたことも証拠品とリストも添えて提出している。あの馬鹿も使えるが元孤児で身寄りのないシンをいつでも切れると侮って密輸に関してだいぶ任されていた為、言い逃れが出来ない程の証拠を集めるには時間はかからなかった。
あと当主が可愛がっている現在2歳になるヴィオラの弟が夫人の浮気によって出来た子どもなのだと近いうちに分かるだろう。いずれ成長すれば気付くだろうが制裁を加えるのに丁度良い頃だ。当然、浮気していた夫人はただでは済まないだろう。当主の方も愛人がいるが次期当主の予定だった息子が全くの赤の他人だと分かれば話は別だ。夫人も贅沢三昧で借金が膨れ上がっていることに気付いているのか。恐らく娘が王妃になれば何とかなると思っているのだろうが、ヴィオラ無しでは返しきれない程の金額。さぁどうやって返し切るつもりなのか想像するだけで笑いが込み上げてくる。
(……きっと優しいヴィオラ様はこのことを知れば、国に留まり尽力するのでしょう。自分の心も体も人生も全て捧げて人を助ける。そんな人だ)
でもね、ヴィオラ様。私は酷い人なので例え王族や貴族、そして国が混乱し、たくさんの命が消えようとどうでもいいのです。私が自分の為なら国を壊すことも構わないのですから。
ヴィオラ様、貴女が私の所業を全て知れば貴女は怒るのでしょうか、泣き叫ぶのでしょうか。その姿を想像するだけで胸が高ぶりますが、それはまたの機会に。
ようやく貴女を抱くことが出来たのですから、今はその幸せを噛み締めるとしましょうか。
この腕の中にいるヴィオラを強く抱きしめながらシンは今までの軌跡を思い返していた。
シンがまだ名前もなかった頃、王都から離れた街のスラム街で血を這うような生活をしていた。身寄りのないシンは自分1人で生きていくしかなく、子どもながらに汚い仕事も辛い仕事も全て一通りしていた。今日生き残れるか、明日も生き残れるのか、そんな命の保障もない生活で、その時のシンは生きるということしか考えてこなかった。
……彼女に出会うまでは。
「誰……?」
裏の仕事でミスを犯し、怪我を負ったシンはいつの間にか貴族の屋敷に紛れ込んでいたらしい。草木の影に隠れていたシンは年下の貴族令嬢に見つかってしまった。
(どうする……?このままだと護衛に呼ばれて殺される。それならいっそのこと……)
そう身構えていると、少女は綺麗なハンカチを取り出した。
「ごめんなさい。今の私に出来ることはこれぐらいしかなくて……」
そういって傷口をハンカチで結んだ。
「本当は薬があればいいんだけど、下手に動いたら他の人に見つかっちゃうから」
そう言って儚げに笑うと、彼女は他に追求もせずにその場から離れていった。
それから動けるようになるまで屋敷の者たちは誰1人ここまで来ることはなかった。恐らくあの令嬢が取り計らったのだろう。
シンはこの時、胸の奥からゾクゾクと何かが湧き上がった。彼女の全てを諦めても尚、優しさだけは失わずにいた儚げな笑顔を思い出すたびに体の細胞全てが彼女を求めている。
(ああ!!この女が欲しい……!!)
それからありとあらゆる術を使ってヴィオラの屋敷の使用人となり、地位を確立していった。それでもせいぜい貴族出身でないシンが得られる最高の地位は公爵令嬢に仕える執事までだった。どれだけ実績を積もうが執事は所詮貴族に仕える平民であり、貴族と同等の立場にはなれない。
手を伸ばせばいつだって触れて、抱きしめて連れ去ってしまえる距離にいるのに、貴族と平民という立場が邪魔をする。
これだけ死力を尽くしてもヴィオラの地位まで届くことはない。しかも彼女はあの王族の婚約者だ。よほどのことがない限り婚約解消など不可能である。
シンはヴィオラの後ろで控え、涼し気な仮面を被って王太子を見ていた。
(なんて忌々しい……、このような屑がヴィオラ様の伴侶になるのか)
ヴィオラ様の美しい体も、優しい心も、清らかな魂も、地位しか取り柄のないこのような屑に踏みにじられ、穢されるのか。
(ありえない、ありえない。ヴィオラ様が、こんな屑に私は全てを奪われるのか)
何の苦労もしたことない屑が、ただ地位があるだけの屑が全てを簡単に奪っていくのか。お前は知っているのか?ヴィオラ様がどれ程お前のような屑の為に心と体を削られているのか。寝る間も惜しんで勉強し、常に婚約者に恥じないように身なりを整え、礼儀作法を完璧にこなしていることに。
それをお前は与えられるそれを当たり前だと無下にし、自分の所有物のように扱う。
(……許せるわけがない。)
こんな屑に奪われるくらいなら、私は悪魔と化して彼女を攫ってゆく。
これ以上、彼女に並ぶことができないのならヴィオラを堕とせばいい。
いくらお互いに愛の欠片すらなくても貴族の婚約は絶対だ。特に王族との婚約はよっぽどの理由がなくては破棄できない。あの屑を支えられるのは献身的なヴィオラしかいない。こちらから破棄しようにも国王たちが許さないだろう。あの屑だってヴィオラのことを下衆な視線で見ていることは分かっている。プライドの高い屑が婚約破棄を受けるわけがない。
なら向こうから婚約破棄を言い渡せるようにしむければいい。殿下があの女に好意を持っているのはすぐにわかった。あの女は王妃の座と狙い、殿下の容姿を好んでいたから簡単にそそのかすことができた。大勢の前で婚約破棄を言い渡せば、王も周りの貴族も皆2人の結婚を祝福してくれると。空っぽの頭の2人はあっという間に信じて行動してくれた。
(……あぁ!!本当に馬鹿は動かしやすい!!)
現国王がヴィオラを逃がすわけがないというのに。婚約破棄したところで第二王子との婚姻を結びなおすに決まっている。そんなことさせるわけにはいかない。ヴィオラに目をつけている貴族共が出払っている間に婚約破棄を言い渡すべきだと取り巻きを介して進言して正解だった。
(ヴィオラ様、あんな男は貴女に相応しくない。貴女がどれ程未来の王妃の為に尽力しているのか誰も知らない。知らなくていい。そう、私だけが知っていればいい)
ヴィオラがこの国から去れば、今まで彼女が牽制していた第二王子を支持する貴族共が一斉に動き出すだろう。あの頭の足りない殿下と常識のない令嬢、そして見る目のない取り巻きたちがそれを抑えられるはずもない。数日で王宮内は混乱するだろう。
現国王が視察に行っている間に事を起こすように運ばせて正解だった。あの殿下の父親の割にはまともな思考回路を持つあの男がいたならばここまで婚約破棄が上手くことはなかった。王妃はヴィオラの王妃としての資質を見抜いていずれ自分より素晴らしい王妃になることが許せなくて散々ヴィオラを貶していたような人格の持ち主だ。ヴィオラの婚約破棄を喜んでいるだろう。さずがあの馬鹿を育てた母親だ。結果、国の衰退に貢献していることに気付いていないのだろうか。まぁ馬鹿な親子はそんなこと露ほども思っていないだろう。
(……あぁ、ヴィオラ様がいなくなったこの国の末路を見れないのは本当に残念だ)
ヴィオラを陥れた馬鹿どもには社会的な制裁が待っている。国民に支持されていたヴィオラを国外追放したことは明日の新聞に掲載される手筈になっている。勿論、彼女は冤罪で寧ろあの令嬢やその他の令嬢に嫌がらせを受けていたことも事細かに、しかも証拠付きで情報を渡している。明日には王都中、大騒ぎになっているだろう。
ヴィオラの実家の公爵家の方も当主が裏で他国と麻薬の密輸をしていたことも証拠品とリストも添えて提出している。あの馬鹿も使えるが元孤児で身寄りのないシンをいつでも切れると侮って密輸に関してだいぶ任されていた為、言い逃れが出来ない程の証拠を集めるには時間はかからなかった。
あと当主が可愛がっている現在2歳になるヴィオラの弟が夫人の浮気によって出来た子どもなのだと近いうちに分かるだろう。いずれ成長すれば気付くだろうが制裁を加えるのに丁度良い頃だ。当然、浮気していた夫人はただでは済まないだろう。当主の方も愛人がいるが次期当主の予定だった息子が全くの赤の他人だと分かれば話は別だ。夫人も贅沢三昧で借金が膨れ上がっていることに気付いているのか。恐らく娘が王妃になれば何とかなると思っているのだろうが、ヴィオラ無しでは返しきれない程の金額。さぁどうやって返し切るつもりなのか想像するだけで笑いが込み上げてくる。
(……きっと優しいヴィオラ様はこのことを知れば、国に留まり尽力するのでしょう。自分の心も体も人生も全て捧げて人を助ける。そんな人だ)
でもね、ヴィオラ様。私は酷い人なので例え王族や貴族、そして国が混乱し、たくさんの命が消えようとどうでもいいのです。私が自分の為なら国を壊すことも構わないのですから。
ヴィオラ様、貴女が私の所業を全て知れば貴女は怒るのでしょうか、泣き叫ぶのでしょうか。その姿を想像するだけで胸が高ぶりますが、それはまたの機会に。
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