叔父様と私

東城

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再会

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七月二十日、叔父を訪ねに私は長野県諏訪までやってきた。高原リゾート地の八ヶ岳と呼ばれる地域だ。新宿から中央本線で約二時間、小淵沢駅で下車する。駅の構内は避暑で訪れた人で混んでいた。
右手に旅行カバン、左肩に画材を詰め込んだトートバッグを掛けた私は、よろよろしながら改札をくぐりぬけた。
改札の前で叔父が私を待っていた。暑いのにネクタイなんてしめて。私を迎えに来る前に誰かに会ってきたんだろうか。
叔父は旅行カバンに手を伸ばすと「持ちましょうか」と紳士的に申し出てきた。
重いカバンから開放され体がすっと軽くなる。
「叔父さん、夏休みの間、お世話になります」私は頭を下げた。
小学生だったころ、叔父のことを信男って呼び捨てにしていたけど、祖母に注意されて叔父さんと呼ぶようになっていた。今思うとずいぶんと失礼な姪だったと思う。叔父といってもまだ三十前半で若かった。顔だって悪くない。昭和美男子。
「叔父さんじゃなくて、私のこと『叔父さま』と呼んで下さい」
爽やかに微笑みながら叔父は言った。
変わり者だと祖母から聞いてはいたけど、いきなり『様』づけで呼んで欲しいと頼まれて私は絶句した。
でも二ヶ月もお世話になるんだから、まあ……叔父さまでもいいか。
駅の構内から外にでると、高原の風が汗ばんだ私の額にキスした。
車で叔父さまの家に向かう。緑の映える森の向こうに八ヶ岳の景観が広がる。木々の間できらめく日の光。真っ直ぐ一本にのびるアスファルトの道路。道路沿いに続く畑一面に白い花が咲きこぼれている。のんびりとした田園風景が車窓を流れる。
「アトリエ」や「工房」と書かれた看板がたまに目に飛び込んできた。
美大生の私の心をくすぐる。こんな恵まれた環境の地に自分のアトリエを持ち、絵を描いて暮らせたならなあ。私はすっかり夢想の世界にトリップしてしまっていた。
ふっとミントのシャンプーの香りが私の鼻孔をかすめた。それが私を現実の世界に引きずり戻した。叔父さまの短く刈った髪。私と会う前に床屋に行ってきたんだ。
「さやか、大学はどうですか?」
本名は沙耶花(さやか)。きれいな名前だと言われる。でも平凡な顔立ちの私にはその名前は到底着こなせない豪華なドレスみたいなもの。
「楽しいよ。友達も沢山できたし」
「いまどきの大学生にしてはずいぶん可愛らしい格好をしているんですね。駅で見たとき女子高生かと思いました」
高三のときに着ていたチェックの木綿のワンピース。長い髪は邪魔なので三つ網に結っていた。
林道の中を車は走る。林道を抜けた所にカトリックの修道院があった。そこから叔父さまの家はもう遠くなかった。
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