2 / 16
再会
しおりを挟む
七月二十日、叔父を訪ねに私は長野県諏訪までやってきた。高原リゾート地の八ヶ岳と呼ばれる地域だ。新宿から中央本線で約二時間、小淵沢駅で下車する。駅の構内は避暑で訪れた人で混んでいた。
右手に旅行カバン、左肩に画材を詰め込んだトートバッグを掛けた私は、よろよろしながら改札をくぐりぬけた。
改札の前で叔父が私を待っていた。暑いのにネクタイなんてしめて。私を迎えに来る前に誰かに会ってきたんだろうか。
叔父は旅行カバンに手を伸ばすと「持ちましょうか」と紳士的に申し出てきた。
重いカバンから開放され体がすっと軽くなる。
「叔父さん、夏休みの間、お世話になります」私は頭を下げた。
小学生だったころ、叔父のことを信男って呼び捨てにしていたけど、祖母に注意されて叔父さんと呼ぶようになっていた。今思うとずいぶんと失礼な姪だったと思う。叔父といってもまだ三十前半で若かった。顔だって悪くない。昭和美男子。
「叔父さんじゃなくて、私のこと『叔父さま』と呼んで下さい」
爽やかに微笑みながら叔父は言った。
変わり者だと祖母から聞いてはいたけど、いきなり『様』づけで呼んで欲しいと頼まれて私は絶句した。
でも二ヶ月もお世話になるんだから、まあ……叔父さまでもいいか。
駅の構内から外にでると、高原の風が汗ばんだ私の額にキスした。
車で叔父さまの家に向かう。緑の映える森の向こうに八ヶ岳の景観が広がる。木々の間できらめく日の光。真っ直ぐ一本にのびるアスファルトの道路。道路沿いに続く畑一面に白い花が咲きこぼれている。のんびりとした田園風景が車窓を流れる。
「アトリエ」や「工房」と書かれた看板がたまに目に飛び込んできた。
美大生の私の心をくすぐる。こんな恵まれた環境の地に自分のアトリエを持ち、絵を描いて暮らせたならなあ。私はすっかり夢想の世界にトリップしてしまっていた。
ふっとミントのシャンプーの香りが私の鼻孔をかすめた。それが私を現実の世界に引きずり戻した。叔父さまの短く刈った髪。私と会う前に床屋に行ってきたんだ。
「さやか、大学はどうですか?」
本名は沙耶花(さやか)。きれいな名前だと言われる。でも平凡な顔立ちの私にはその名前は到底着こなせない豪華なドレスみたいなもの。
「楽しいよ。友達も沢山できたし」
「いまどきの大学生にしてはずいぶん可愛らしい格好をしているんですね。駅で見たとき女子高生かと思いました」
高三のときに着ていたチェックの木綿のワンピース。長い髪は邪魔なので三つ網に結っていた。
林道の中を車は走る。林道を抜けた所にカトリックの修道院があった。そこから叔父さまの家はもう遠くなかった。
右手に旅行カバン、左肩に画材を詰め込んだトートバッグを掛けた私は、よろよろしながら改札をくぐりぬけた。
改札の前で叔父が私を待っていた。暑いのにネクタイなんてしめて。私を迎えに来る前に誰かに会ってきたんだろうか。
叔父は旅行カバンに手を伸ばすと「持ちましょうか」と紳士的に申し出てきた。
重いカバンから開放され体がすっと軽くなる。
「叔父さん、夏休みの間、お世話になります」私は頭を下げた。
小学生だったころ、叔父のことを信男って呼び捨てにしていたけど、祖母に注意されて叔父さんと呼ぶようになっていた。今思うとずいぶんと失礼な姪だったと思う。叔父といってもまだ三十前半で若かった。顔だって悪くない。昭和美男子。
「叔父さんじゃなくて、私のこと『叔父さま』と呼んで下さい」
爽やかに微笑みながら叔父は言った。
変わり者だと祖母から聞いてはいたけど、いきなり『様』づけで呼んで欲しいと頼まれて私は絶句した。
でも二ヶ月もお世話になるんだから、まあ……叔父さまでもいいか。
駅の構内から外にでると、高原の風が汗ばんだ私の額にキスした。
車で叔父さまの家に向かう。緑の映える森の向こうに八ヶ岳の景観が広がる。木々の間できらめく日の光。真っ直ぐ一本にのびるアスファルトの道路。道路沿いに続く畑一面に白い花が咲きこぼれている。のんびりとした田園風景が車窓を流れる。
「アトリエ」や「工房」と書かれた看板がたまに目に飛び込んできた。
美大生の私の心をくすぐる。こんな恵まれた環境の地に自分のアトリエを持ち、絵を描いて暮らせたならなあ。私はすっかり夢想の世界にトリップしてしまっていた。
ふっとミントのシャンプーの香りが私の鼻孔をかすめた。それが私を現実の世界に引きずり戻した。叔父さまの短く刈った髪。私と会う前に床屋に行ってきたんだ。
「さやか、大学はどうですか?」
本名は沙耶花(さやか)。きれいな名前だと言われる。でも平凡な顔立ちの私にはその名前は到底着こなせない豪華なドレスみたいなもの。
「楽しいよ。友達も沢山できたし」
「いまどきの大学生にしてはずいぶん可愛らしい格好をしているんですね。駅で見たとき女子高生かと思いました」
高三のときに着ていたチェックの木綿のワンピース。長い髪は邪魔なので三つ網に結っていた。
林道の中を車は走る。林道を抜けた所にカトリックの修道院があった。そこから叔父さまの家はもう遠くなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる