叔父様と私

東城

文字の大きさ
4 / 16

お遊戯

しおりを挟む
叔父さまの職業は人形作家。私は人形のことはよく分からないけど、球体関節人形やビスクドールなどを作っているらしい。ここに居候してから、叔父さまが人形を作製しているところ見たことがない。何をしているわけでもなく、ただ何もせず毎日を過ごしているだけ。
「叔父さま、もう人形は作ってないんですか?」
「うん、最近なんだもう創作意識が湧かなくてね」
ソファーに腰掛けてワインボトルを開けながら叔父さまはつぶやいた。赤いボルドーのワインをグラスに注ぐと、私に勧める。
「お酒は二十歳からだけど、大学生ならコンパとかでもう飲んでるでしょ」
私はグラスを受け取ると、叔父さまの隣に座る。芳醇であまいワインだった。夕食前でお腹が空いていたので、一気に酔いが回る。
叔父さまは私の絵の具だらけの手を取ると目を伏せて言った。
「ねえ、さやか、驚かないでくださいよ」
「うん」
「私はさやかのことが好きです」
私は別に驚きもしなかった。叔父さまは私のことを身内として好きだと言っているのだと思ったからだ。
「うん」
「キスしてもいいですか?」
いきなりのことで声が出ず、酔っていたのでどうしていいのか分からなかった。

軽いキスが唇にふれて思考が止まった。


***

ベッドで何回も寝返りを打って後悔で私は悩んでいた
実の叔父に告白されたことがショックで、なかなか眠れなかった。

なんでキスなんてしちゃったんだろう。
この静けさが嫌いだ。明日になったらここから出て行こう。


ショックなことがあると昔のいやなことも思い出す。

母に捨てられた日のことを今も憶えている。
私はまだ七歳だった。
誰もいない寒い家で、どうしていいのか分からず、窓際で外をずっと眺めていた。
息を吐くとガラスが白く曇った。時計の音だけかちこち聞こえる。
深夜になっても母は帰ってこなかった。

父も母もそれぞれ愛人を作って私の元から去って行ったのだ。
あの無責任な親。今、どこに住んでどんな暮らしをしているのだろうか。

そんなこと今更考えてもしかたないので、ベッドから起き上がりスリッパを履く。

トイレに行って戻ってくると叔父さまが廊下に立っていた。ブルーの縞のパジャマを着て半分寝ぼけた顔をして。昼間のイケメンの叔父さまとはまるで違う。まるで普通のおじさんみたいだ。
「眠れないんですか?」
叔父さまは心配そうな顔をして訪ねた。


キッチンでカモミールティーをすすりながら叔父さまは母のことを語ってくれた。

私は母のことはうろおぼえでしか思い出せなかった。
奔放でうつくしい女性(ひと)だったと叔父さまは言った。

ウエーブのかかった黒髪で赤いドレスを着た女性の姿が私の眼に浮かんだ。

でもそれは母ではなくカルメンのイメージだった。

「姉はさやかにとても寂しい思いをさせてしまいましたね。ごめんなさいね」

叔父さまに謝られて目頭が熱くなる。私の寂しい思いなんて今まで誰も分かってくれなかった。私は聞いた。
「どうしてキスしたの?」
「さやかのこと好きだから。とても強い感情で止められなかったんですよ」
私はだまってカモミールティーを飲む。しばらく考えて答えた。
「いつから?」
「さあ、いつからでしょうかね。私も分かりません」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...